IEレビュー214号 特集テーマのねらい

 ITの有効活用に向けて

1 はじめに

情報化時代と言われる今日,情報技術(IT)の活用は,社会インフラだけでなく生活のなかにも浸透しつつある。企業におけるITの導入の経過を振り返ると,1960年代,主に経理,人事のデータ処理効率化への取り組みをはじめとして,工場サイドではCAD,CAMの導入,生産管理,生産技術の管理データ処理への応用などが現場改善と同時進行で進められてきた。1980年代には,日本がこれらの実用化の面で世界をリードしていた時期もあったと考えられる。しかし1990年代に入り,特に米国ではコンピュータ技術と通信分野技術の結合によるネットワーク技術が進み,インターネット,Webといった形で時間と空間を超えた新しいコミュニケーション手段が実用化された。そのことによってビジネスプロセスの革新やニュービジネスの誕生が促され,米国経済の劇的回復と成長をもたらしていると言われている。今日,ITに関するわが国と米国の優劣が論議される背景には,この辺りの事情が事例として採りあげられているものと思われる。

2 特集テーマのねらい

わが国におけるITの現状をみると,その進歩が急速であることから,またITが分析や改善の手段というだけでなくそれ自体がビジネスのひとつの中核となりつつあることからITを有効活用していく上でIEがいかなる役割を演じるべきかについて,体系的に論じられる機会は意外に少ない。一般にIEとITの関係を考える時,その間には必ず「作業」や「業務」,「モノ」といった実体が存在し,業務やモノの流れをいかに効率化するかが,問題となる。現状の作業,業務,モノに対する認識,課題の抽出,課題解決のためITをどのように使うか,成果を測定するための目標といった,「検討プロセス」が必要である。このプロセスには,①ある改善から入って効率化の成果をITで裏打ちする,②自社開発のシステムあるいは購入パッケージを使って理想的な情報システムを構築し,それに業務やモノの流れを合わせる,という2つのタイプが考えられる。しかし最近の情報技術の進展は,上記の2つのアプローチ以外に,新たな視点をIErに要求している。そのひとつは,業務分析とシステム作りの関係の多様化である。すなわち,業務分析からいかにITを活用できる新たなビジネスプロセスを作り出すか,さらにそれをいかにシステムに具体化していくかを考えることが重要になってきている。業務分析結果からいかにビジネスプロセスを設計・改善するかが大切なのである。その意昧では,IErに求められる資質が広がりを見せていると捉えることができる。業務分析結果からいかに仕事の手順を変えたか,改善したかを紹介することができれば,ITの時代にIErが果たすべき役割を掘り下げて検討する一助になると思われる。ITの進展がIEに与えるもうひとつの影響は,情報システムとりわけパッケージソフトに対する理解力が必要となっていることである。一般にパッケージソフトの使いにくさは数多く指摘されているが,業務分析と対応づけて,業務分析結果に基づいてどのような機能をパッケージにアドオンするか,パッケージをどのようにカスタマイズするかを考えるためには,業務とパッケージの両方を理解している人材が不可欠である。そうした人材の育成は本来IEが担うべき役割のひとつであり,例えばERPやSFAの導入において今後貴重な役割を演じていくものと考えられる。ITの進展は,さらにビジネス面でも大きなインパクトを有している。例えば電子会議や電子決裁の普及は,面会を前提としていた企業文化に様々な影響を与えつつある。さらに今後,WEB上のビジネスが進展していくなかで,経済システムや法システムを中心とした進化に向けての社会システムが構築されていくことが想像できる。その時IEがどう貢献できるかについて今から考えておくことは,決して時機尚早ではないであろう。本特集では,以上のような考えに基づいて,これまでにIEを用いてITをうまく使いこなしてきた事例や今後に対する取り組みの計画を紹介することで,今後ITを有効活用していくためにIEが果たすべき役割を探ることを目的としている。

3 記事について

(1)論壇
大阪工業大学の宇井徹雄先生に「グループウェア/イントラネットによる組織・業務革新」と題して執筆を頂いた。工業化社会から情報化社会・知識社会に移行するなかで意志決定は複雑化し,また迅速化を求められている。それを支援するツールとしてグループウェア/イントラネットが導入された。それらは効率性の変化,有効性の変化,文化の変化へと推移するとの指摘を頂き,さらに最近注目を集めているナレッジマネジメントとの関係について論考を頂いた。
(2)ケース・スタディ
ITの導入事例につき7社から事例を頂いた。
①日立製作所では,パーソナルコンピュータの受注から出荷に至るまでのサプライチェーンを構築するにあたり,汎用ERPパッケージを採用した事例を紹介していただいている。汎用パッケージが現状の業務と一致せず,制限はあるが,業務の雛形が準備されているために意識共有が図られ,短期間でのシステム構築が可能であること,少なくとも実行レイヤではグローバルスタンダードを用いるべきという点や,実際の運用場面での修正や追加仕様に当たっては「タッキング方式」のアプローチが必要という点など,示唆に富んだ内容である。
②日産自動車からは,現場の工長が本来の付加価値業務である改善や作業観察等の時間を取り戻す事例を述べて頂いた。業務分析を行い,帳票処理や会議の簡素化を進め,その成果をPCでネットワーク化し,さらに,現場のノウハウなどの知識共有化を推し進めると言う内容である。
③松下電器産業からは,経理業務のスピードアップと仕事の質の向上を安いコストで実現した事例を紹介して頂いた。市販のアプリケーションツールをベースにシステムを構築する際,ユーザの立場から業務に精通した人を充て,使い勝手を追求するとともに,関係者全員にそのレベルにしたがって数次におよぶ教育研修を行い,効率化を図っている。また,システムをインターネットで繋ぐことによりさらに業務のスピードアップを進め生産性の向上に寄与している事例である。
④住友電工情報システムでは,従来電子化が困難とされていたISO9000関連文書の電子化にあたり,WWW上で自社システムを開発し,作成,審査,承認,公開などのプロセス効率化を図っている。ただし一律に電子化を進めるのではなく,職場の特徴に併せてぺ一パーの存在を認めている点は文書管理の効率化の従事者にとっては示唆的な内容である。
⑤ハリマ化成では,140におよぶ独立採算小部門の損益自主管理データの集計をより迅速化するため,自社LANにイントラネットを使った集計機能を付加し成果を得た事例を紹介して頂いている。さらに旅費,交通費などの仕訳伝票の閲覧機能など,きめ細かいユーザサービスを実現し,効率化を推進している。
⑥東芝では,経営会議,稟議書の電子化を皮切りに各階層の会議の電子化事例を紹介していただいている。この事例でも特にトップに対する教育,ミドルの意識改革の重要性が述べられている。さらに,モバイルの導入による国内外を問わない意思決定,稟議決済のスピードアップの成果は参考になる点が多い。
⑦NECでは,見かけ上の製品のバリエーションが拡大するなかで,営業部門が顧客のニーズを満たすシステム構成を簡単にかつ正確に用意できるように,インターネットを活用したWEBコンフィギュレータ(構成作成支援ツール)の開発につき述べて頂いた。特にWEB上で展開することにより,リアルタイム性,オープン性はもとより,利用者参加型の可能性についても言及している。
いずれの事例も,単に自分の職域のみならず,関連部門,他業務領域への水平展開,拡大を視野に入れている点,課題の捉え方,革新の進め方など,IEの視点からも有意義な内容となっている。
(岡 清彦/編集委員)