IEレビュー215号 特集テーマのねらい

 サービス業務の改善・革新

1 はじめに

本特集では,様々な企業で広く行われているサービス業務の改善・革新活動に焦点を当てました。その際,大規模な設備やシステムヘの投資によって業務を劇的に改善・革新した事例よりも,サービス現場の素朴な知恵と工夫を活かした地道な改善・革新事例を中心に記事を募りました。また,人的サービスなどの場含には,サービス品質の向上策として従業員の処遇や給与,インセンティブなどの重要性は否定できませんが,本特集ではできるだけ業務のやり方や仕組みそのものの改善・革新に焦点を当てた事例を収集しました。逆に,業務のやり方や仕組みそのものの改善・革新事例であれば,対象となる企業や業種,IE手法の適用有無,サービスそのものの内容などについては,何らこだわらない方針で記事を募りました。

2 「サービス業務」とは

サービスという言葉は,一般に多様な意味を持っています。そのため,人によってサービスという言葉から受け取るイメージにもばらつきがあるように思います。例えば,「店員のサービスが悪い」などと言う場合には,暗に店員の態度や姿勢のことを指しています。また,「本日に限り飲み物はサービス」などという時には,一般に無償を意味し,企業側からすると犠牲的・奉仕的なニュアンスを含んでいます。しかし,本特集では,サービス業務という言葉を「顧客にとって有用となる機能を発揮する活動・過程」として定義したいと思います。つまり,対象となる顧客のニーズをまず中心に捉え,各企業がニーズに対応した機能を顧客と直接接しながら提供する活動・過程全般をサービス業務と呼ぶことにしました。したがって,製品を製造しているメーカーであっても,アフターサービスやメンテナンスサービス,顧客クレーム対応業務などのように,自社の製品をより良く使ってもらうために行っている活動全般も,このサービス業務に含めて考えました。

3 顧客に提供すべき機能

このようにサービス業務という言葉を広く定義してみると,「顧客に提供すべき機能」とは何かということが問題となってきます。一般に製品などのモノの場合には,顧客にとって有用となる機能を企業側で予め想定し,製品の設計品質として定義した上で,必要機能を製品として事前に作り込んで顧客に提供しています。よって,機能そのものを明確に定義しないまま製品を製造することはまずありません。しかし,サービス業務の場合には,顧客と接する場面において,臨機応変に対応できる余地が多かったり,様々な外的要因が複雑に絡み合っているため,あらかじめ「顧客に提供すべき機能」を明確に定義した上で,サービス業務の在り方を議論するような傾向は少ないように思われます。本特集では,このような傾向に対して,「当社が考える顧客にとって有用となる機能は何か」という点を意識した改善・革新事例を収集しました。つまり,当社が提供するサービスはどのような顧客を対象として,どのようなニーズ・機能を満たすのか,提供サービスの品質基準は何かという点について,可能な範囲で明確に記述して頂きました。その上で,これらを達成するためにどのような改善・革新活動を行ってきたか,どのような点が難しかったか,どのような紆余曲折があったかなど,できるだけ生々しい改善・革新活動の試行錯誤のプロセスを記述して頂きました。さらに,単発的な改善・革新事例ではなく,長期的な目標を見据えた上で,現在では実現できていないが実現したいこと,今後,取り組んで行くべき課題などについても自由に記述して頂きました。

4 記事について

今回の特集号では,様々な業種・業界の方々に,異なった切り口からサービス業務の改善・革新事例をご執筆頂きました。
(1)論壇
東海大学の師岡先生には,病院サービス業務の改善・革新と題して,日本の医療サービスが抱える問題点,および改善・革新を行っていく際のアプローチについて,事例を交えつつご執筆頂きました。日本の医療サービス現場においては,IEの専門家が不在であり,これまでIE的な検討がほとんどなされてこなかったゆえに,生産性向上に向けた課題は山積みといった状態だそうです。一方,(有)エム・ビイ・アイの小松崎氏には,流通・小売業におけるサービス業務の改善・革新活動について記事をご執筆頂きました。流通・小売業は固定費率が高いため総じて売上志向が強く,高いパート・アルバイト比率ゆえにプロセスや方法面からバラツキが多く,業務に対して明確な基準が存在しないまま運営されるという構造的問題を抱えているとのことです。このようななかで,基本はまず顧客が何を期待しているのか,何を不満としているのかを十分考え,現状を見直してみることから改善活動をスタートすることが重要とのことです。
(2)ケース・スタディ
①東邦大学の藤田氏には,医療事故防止に向けた病院の改善の革新事例についてご執筆頂きました。日本においては,医療事故防止に向けた活動の大半を現場ナースが担っているのが実状だそうです。しかし,ナースだけが行う改善では,なかなか実効が上がらないのも事実で,今後,この領域においてIEの専門家が果たすべき役割は非常に大きいとのことです。特に誤薬エラー(薬剤間違い・患者間違い・中止薬の投与)について,事例を交えつつ提言を行って頂きました。
②アスクルの加藤氏には,オフィス用品をワンストップショッピング化し,顧客の注文に対して当日あるいは翌日お届けするという新しいサービスの構築事例についてご執筆頂きました。中小事業所を主要顧客と設定し,新たな販売代理店制度を整備しつつ,工夫を凝らした顧客とのコミュニケーション・システムを構築することで事業活動を積極的に展開してきたそうです。お客様第一を考え技術やシステムに踊らされないこと,対人間というリアルな部分を大切にして顧客サービスの向上につとめていくことが重要なことだそうです。
③日本道路公団の青木氏には,高速道路におけるサービス業務の改善事例についてご執筆頂きました。同公団では,高速道路サービスの基本機能として,安全性・快適性・迅速性の3点を挙げた上で,様々な広聴制度を通じて利用者の生の声を収集し,料金所や休憩施設における各種サービス,渋滞や混雑情報などの各種情報提供サービスの改善を行っているとのことです。利用者のニーズが多様化しつつあるなかで,今後は,必要とされるサービスをいかに取捨選択するかが課題だそうです。
④富士ゼロックスの神戸氏には,同社のお客様相談センターにおける顧客対応業務の改善事例についてご執筆頂きました。当初,顧客からの問い合わせ内容は,広告や商品・企業姿勢など非常に多岐にわたっていたため,回答資料を探し出す時間がかかったり,相談員の知識・経験によって対応時間にバラツキが出てしまうなどの問題点があったそうです。そこで相談員全員が知恵を出し合い,新しいシステムを構築することを通じて,ひとつひとつ問題点をクリアして改善を進めてきたそうです。
⑤シービーエムの神谷氏・サービス経営研究所の金子氏には,感染症個室清掃業務と資材発注システムの改善事例についてご執筆頂きました。従来,感染症個室清掃業務は,清掃作業員にとって「自分も感染するのではないか」との強い抵抗感を感じる業務でしたが,合理的な清掃技術の確立と徹底した作業の標準化を図ることで,安心して作業のできる体制を構築できたそうです。
⑥下田東急ホテルの岩瀬氏には,CS(顧客満足)を基本方針としたホテル業務の改善事例についてご執筆頂きました。昨今,ホテル業界では不況の影響を受け熾烈な競争が行われていますが,同ホテルでは「海・花・温泉・グルメ」をメインとして「安心と安らぎ」を与えるお客様に愛されるファーストクラスのホテルを目指して,日々様々な業務の見直し・改善を実施中だそうです。
⑦農協の濱田氏・城内氏には,収益を生まないため合理化の矢面に立たされている営農指導業務に対して,業務分析・改善提案を行った事例についてご執筆頂きました。少ない人員で効率的な仕事をするにはどうしたら良いかを考え,経営層・職場上層部に現状の業務の問題点を認識してもらうために,ABC(活動基準原価計算)分析手法を用いて業務の分析を行ったそうです。
(坂爪 裕/編集委員)