IEレビュー217号 特集テーマのねらい

 生き生き現場改善

1 現場改善の置かれている環境

現場改善によるモノ作りの強さは,国際競争力を兼ね備えた日本の製造業の強さの源泉であるといえる。これは各企業が製品のコスト競争力を強化し良い品質のものを短納期で納め,お客様に満足をしてもらおうと長い間努力をしてきた結果であろう。現場では乾いたタオルをさらに絞ると形容されるような大変な努力によって工数改善や品質改善,リードタイム短縮などの活動が精力的に取り組まれてきた。そして,それらがいろいろなところで事例紹介されることでお互いの企業が切磋琢磨し,現場の効率化や生産性向上において大きな成果を上げてきたといえる。このように,従来から行ってきた現場改善は企業競争力強化の強力な手段であった。では,現在では現場改善そのものがどのような状況にあると考えたらよいだろう。
1-1 従来型の現場改善活動の成熟化
各企業の製造現場ではいろいろな創意工夫と人材の投入によって多くのムダ取り,工程改善がなされ成果を上げてきている。その蓄積は非常に大きなものがあると思うし誇れるものであろう。しかし,その蓄積が大きいがゆえに,最近では現場改善を行うための投入費用に比べて効果が出にくくなってきていることも全体的状況としていえるのではないだろうか。各企業とも市場の求める多品種少量の生産形態が確立してきたことも背景にはあると思う。かなりムダ取りや改善が進んだことによって,当然ながら改善の範囲を源流に遡り,上流工程,具体的には製品設計部門や営業部門へ拡大し,「企業体質強化」へとつなげている事例が多くなってきている。それらは,しくみの改善や情報化など,現場改善とやや異なるアプローチによって取り組みがされているようである。つまり,従来のような現場改善の方法や範囲では,成果が限定的となる傾向にあるといえる。
1-2 取り組み対象の変化
一方,企業の経営環境もこのところさらに変化が激しくなってきており,企業としての改善・改革の対象も変わってきている。最近,特に米国企業が情報技術の積極的活用により,今まででは考えられないような低コストや短納期を実現するビジネスモデルを引き下げてグローバルビジネス展開を行ってきている。それがトリガーとなって日本企業でも情報化やグローバル化の急速な展開が進んでいる。企業が指向する評価そのものもキャッシュフローや株主価値などにシフトしてきており,また,それら評価指標を改善するために,サプライチェーン構築の取り組みやECなど,情報技術を活用した新たなビジネスモデルの構築に企業の取り組みの焦点が当たってきている。今まで,製造現場を中心とした現場改善などによって成果を上げてきた日本企業の製品品質,低価格,安定した納期が非常に強い競争力を持っていたことは事実である。しかし,グローバル競争のなかでそれらの相対的な差異が少なくなり,また,新しいビジネスモデルという新たな手段によって実現される改革的なコスト/納期に打ち勝っていかなければならない状況になってきた。企業として競争力を維持・強化するためには情報技術,ビジネスモデルなどの観点の取り組みが避けられなくなってきているといえる。

2 現場改善の有効性は?

以上のように考えると,「現場改善」を今後どのように捉えていったらよいのだろうか。現実にいろいろな企業の事例を見てみると,現場改善の領域から改善の対象を広げて上流へ遡ったり,間接部門を含めたプロセスを改善したりしている企業が多いのは事実である。現場改善は永遠のテーマであることは間違いないが,少なくともその現場改善の質を変えていかないと経営が求めるような成果にはなかなか結びつかなくなってきているのではないかと思う。しかし,改善自体の質を変えていくにしても,そこには我々が長年の現場改善が成功体験から学んできたこと,今後も相変わらず忘れてはならない点も必ずあるはずである。それは,「現場」を中心として現場,現実,現物を押さえること,そこを起点とした発想が大きな成果に結びついてきたこと,ということではないだろうか。さらに言えば,企業内の設計部門や営業部門,生産管理部門,調達部門などの課題が製造の現場から見えるということである。つまり,現場改善から適切なニーズを発信することが,最適な投資や改善の方向性を示すことに結びついてきたということである。例えば,作りづらい製品は品質的悪影響にもつながりやすい。また,現場を軽視した情報システム開発はムダな投資を生み出しやすい。サプライチェーンなどと言っても,モノを作って供給するためには必ず現場の実力がともなわないとそれは機能しないことを,現場改善に携わるものは十分にわかっているはずである。企業競争力強化のために,いろいろな取り組みが行われていると思うが,そこに現場改善から学んできた思想を入れ込むことが必要なことではないかと思う。

3 今回のテーマの視点

では,現場改善の活動自身について,どのように各企業が質的改良をしてきているのだろうか。現場改善に対して,各企業はいろいろな取り組みによって,質的な変貌をさせてきていると思う。企業を上げての体質改善活動や,改善組織体制や人材の交流など,また,改善対象の広がりに合わせて組織横断的なプロジェクトなどによって改善を進めようとしている事例もある。それらのいろいろな取り組みについても興味あるところであるが,それは別の機会に譲ることとさせていただきたい。今回は,現場改善が質的に変わっていこうとしているなかで,我々が現場改善で学んできた現場中心主義とでも言うべき大切な思想とその意味合いを再認識するためにもあくまで「現場」をテーマの中心におきたいと考えた。つまり,「現場改善」とそこで改善を行っている改善担当者に軸足を置いた視点でできるだけ考えるようにし,単なる現場改善事例ではなく,そこに現場改善の質的な変化とそれにともなういろいろな課題やそれを乗り越えて来た要素を含ませるようにしていきたいと考えた。 現場改善を担当されている方々は,コストダウンや短リードタイム化などの要求がますます厳しくなってきているなかで,一方,自分たちの従来の現場という範囲ではなかなかブレイクスルーできない状況におかれている場合もあろうかと思う。現場改善自身が従来型では成果が得にくくなってきているなかで,改善担当者がどのような苦労をされて,また,新たな取り組みとして創意工夫,新たな提案をしてきているのか,各企業の事例によってそれを垣間見ていきたいと思う。実際に改善の当事者が直面している課題を事例紹介してもらいながら,どのようなブレイクスルーを試みているのか,どのようにして改善そのものの質を変えていこうとしているのか,を共有していきたい。そこには大変な努力があると思うが,それらによって現場改善に携わっている方々の新たなヒント,あるいは励ましとなるような内容になるよう企画を行ってみた。そのような観点で,事例を見ていただけると良いと思う。今回の論壇は,現場改善について詳しい芝浦工業大学名誉教授の津村先生にお願いしました。また,ケースでは,(株)スタンレー宮城製作所取締役工場長・熊谷重典氏,(株)秋田新電元技術部部長・須藤一知氏,NEC宮城エンジニアリング企画部製造技術主任・佐藤真治氏,パイオニア(株)生産革新推進室長・刑部幸夫氏,現場改善はNEC福岡TPM推進室主任・城戸洋一氏,の方々に書いて頂き,それぞれ現場改善をキーワードにしつつも,新たな取り組みに挑戦している活動内容について書いていただいた。企業体質強化に向けて常に前向きに取り組んでいるところは新しいアイデアも豊富だし,生き生きとした現場になっていると思う。最近のスポーツ選手も,傍から見るとかなりのプレッシャーになるような状況を「楽しんでいる」ということをよく感想で言っている。現場改善も,なかなか厳しい状況のなかで,前向きに生き生きと楽しめることそのものが現場からいろいろな情報を発信できる強さとなり,企業そのものの強さの源になるのではないかと思う。
(今村 隆至/編集委員)