IEレビュー219号 特集テーマのねらい

 循環型生産システム実現に向けて

1 はじめに

60年代から80年代にかけての公害問題の終息とともに,持続可能な発展を実現するために地球環境保全に対する問題が大いに議論されている。そのなかでも,廃棄物に関する問題は従来の大量生産,大量廃棄を前提にした企業の生産活動においては,なるべく触れたくない問題であった。しかし,近年日本国内においても廃棄物の量の増大と質の変化が顕在化しつつある。そこで,遅ればせながら廃棄物の回収や分別についての取り組みがなされつつあるが,出てしまった廃棄物をどう処理するかという取り組みであって,ものを作って売り,そのものの寿命がくれば廃棄されるという仕組みそのものはかわらないことを前提としている。ところが,現在リサイクル製品と呼ばれるものも持続的にリサイクルされるケースは少なく,1回の使用で結局廃棄されるならば,回収分別に多大な手間がかかる上に廃棄物の量は変わらないことになってしまう。こうした問題の対策として提案されているのが「循環型生産システム」である。これは,「設計→開発→生産」といった順工程だけではない,「回収→分解・選別→再資源化・再利用→生産」といった逆工程に着目した新しい生産システムヘの変換を示唆している。すなわち,生産したら廃棄されるものづくりから,作り変えることによって価値を復活させ循環しつづけるものづくりを実践することによって,無駄な廃棄を減らしていけるという発想である。この資源循環を前提としたシステムの実現には,従来の廃棄物処理の延長上としてリサイクルを捕らえるのではなく,逆工程を考慮した製品設計・開発と回収物流が必要不可欠である。また,現実に循環型生産システムを実現するためには,かなりのコストがかかることが予想される。しかし,資源枯渇・廃棄物処理・地球温暖化といった環境問題が深刻化するなかで,単なるボランティア的発想ではない,ビジネスとしてのシステム作りという点では新しい発想ではないだろうか。そこでこの特集では循環型生産システムが本当に実現するのかという議論も含めて,その実現化への問題点や方策をまとめてみたい。

2 論壇

 ここでは梅田氏に,単なる概念の紹介にとどまらず,循環型生産システムのあるべき姿とそのための技術課題についてまとめていただいた。特に循環型生産システム構築のポイントとして,製品の回収・リサイクルという問題を新たなビジネスチャンスとして捉えなおすインセンティブの必要性を強調されている。循環型生産システムの究極の姿を「無理のない」循環と称され,現在の生産システムを「無理のない」循環型生産システムへとソフトランディングするための道筋の構築がもっとも重要な課題であるとまとめられている。また,技術的課題としては「企業・ユーザーともに利益を得られるようなビジネス戦略の策定」「製品ライフサイクルの設計」「循環させるための製品ライフサイクルの管理」の3点を挙げられている。環境問題を,「社会的責任」といった感情論で捉え,「たとえ損をしてもやらなければならないもの」という立場にたった論点ではなく,もっと冷静に資源循環システムを分析し,上記で挙げられた3つの課題はいずれも解決不可能ではないことを示唆され,循環型生産システムの実現が不可能ではないことを主張されている。

3 ケース・スタディ

ここでは,実際に循環型生産システムを構築され,運用されている3社にシステム構築の思想と実際の姿についてまとめていただいた。
3-1 富士ゼロックス
富士ゼロックスでは,「ものの提供から機能の提供へ」という思想に基づいて,海老名工場における複写機のクローズドループシステムの構築事例を紹介している。このシステムでは,ゼロックスが長年つみあげた顧客データをフルに活用して,回収も生産システムに取り入れ,リサイクルパーツを使用しても新造部品を使用した場合と同様の品質を維持できる生産ラインを構築している。まさに「循環型生産システム」の成功事例といえる。
3-2 トヨタ自動車
 トヨタ自動車では,21世紀を迎えるにあたって「トヨタ地球環境憲章」を改定し,「事業活動のすべての領域を通じてゼロエミッションに挑戦」することを宣言している。本稿では,その一環として’00年12月に実現した埋め立て廃棄物ゼロ実現のプロセスと焼却廃棄物ゼロヘの取り組みについて述べられている。大きな特徴は「トヨタ生産システムの追求とゼロエミッションへの挑戦の一体化」という思想である。この思想を末端の社員一人一人に浸透させるトップの強いリーダーシップが短期間に成果を上げた要因であるとされており,トヨタ自動車らしいスタイルがまとめられている。
3-3 リコー
 リコーでは’94年に循環型社会の概念図として「コメットサークル」を提案している。この概念に基づき,環境保全と経済価値を追求する経営を同軸のものとして経営全体に環境を取り入れた活動を展開している。特に部門評価に環境要因を取り入れていることが特徴で,本稿では,沼津事業所における事例を中心に環境負荷削減のプロセスが述べられている。ここでは環境会計といった視点を有効に活用し,「環境経営」実践への方向性が示唆されている。

4 プリズム

本号から新しく登場した記事で,特集テーマに対して従来の企業事例という枠組みにとらわれない,いろいろな角度からの事例を紹介するものである。まずプラスチック処理推進協会の事例は,廃プラスチックの再商品化手段に関する共同研究を行ったものである。循環型社会促進のために,廃棄物の再資源化がひとつのテーマであるが,企業と公益団体の協力というひとつのスタイルのモデルといえる。次に,北九州市役所におけるエコタウン事業と環境問題への取り組みに関して世界の最先端を行くドイツの事例を紹介している。いずれも行政の立場というまったく異なった視点ではあるが,環境問題が一企業だけで解決するものではなく,社会全体で取り組む必要性があるということを感じさせる。また,東芝エンジニアリングの事例では,環境負荷を定量的に測定するためのLCAソフトウエアの紹介である。環境問題はビジネスになるといわれているが,まだまだ成功事例は少ないのが現状である。そんななかで,かなり実用性の高いソフトウェアとして今後の展開が期待される製品である。

5 おわりに

循環型生産システムを実現することは,ケース・スタディでも紹介されているように単に一企業・一工場のみの取り組みでは不可能である。使用済み製品の回収の問題や,自社で廃棄されたものを他の企業で活用してもらう問題など,より広い範囲の組織を巻き込んだ活動が必要となっている。しかし,いずれもトップの強力な意思決定があれば,システム構築が不可能ではないことが検証されている。特にケース・スタディで取り上げられている3社は,決して「コスト度外視」といったスタンスでの取り組みではなく,循環型生産システムの設計を従来の生産システム設計の延長上に位置付けているというのが印象的であった。今後循環型生産システムへの転換は必要不可欠であること,また,また視点をかえれば新しいビジネスチャンスが存在することを実感させられる内容である。最後に循環型生産システムというのは,環境問題の絶対的切り札というわけではない。このようなシステム構築によってかえってエネルギーロスが増大するという意見も存在している。このように環境問題は単純ではない。そこで,今回投稿記事として住金マネジメントとダイキンの2社から「省エネ」に関する事例を紹介して頂いている。住金マネジメントのケースは「省エネルギーのコンサルタント」という立場から,ある食料品メーカーへコンサルティングを行った事例報告である。ダイキンの事例では,省エネを生産現場や間接部門といった個々の最適化ではなく工場全体の省エネシステムとして構築したというものである。ここでは,従来のIEなどの管理手法と省エネの固有技術の融合によって大きな成果が得られた。特集テーマとは違った視点ではあるが,広く環境問題に対する解決策の一例として参考となる示唆に富んだケースである。
(斎藤 文/編集委員)