IEレビュー221号 特集テーマのねらい

 ここにもIE

1 本特集を組むにあたって

昨今,ますます激しさをます企業間競争に打ち勝つために,製造業に限らず,さまざまな業界でIE的な発想に基づき合理的・効率的に業務を遂行し,他社より一歩でも先を行く経営システム・業務システムを構築しようという動きが盛んです。また,あらゆる業界でユーザーが商品(サービス)を選択する時代になっていますから,ユーザーが満足できる差別化を提供できない企業は生き残れなくなってきているのも事実です。つまり,あらゆる企業は,いかにして最少のコスト(資源)で,ユーザーが必要とするモノ(サービス)を,必要とする時に,必要なだけ提供できるかを競争しており,その意味で特に製造業以外の企業では,IEの知識がなくとも,またはIEを意識せずとも競争に打ち勝つためにということで戦略・施策を考え,独自性をめざした結果が,我々IErから見れば,IE的な発想に基づく施策であるということも数多くあろうかと思います。また,製造業であっても,例えば間接業務に対して,それとは知らずにIE的な手法を用いた改善やIE的な発想による施策が適用されている例もあるでしょうし,求められていると考えます。これらの状況を踏まえ,「ここにもIE」の特集を組むにあたってのスタンスを,実際に“IE技法が新規の領域に適用された”という事例に限定するのではなく,まず様々な産業からの改善事例を幅広く集めることを第一義として記事を募りました。

2 IEの現況

先に述べた通り,今,IEは製造業の枠を超えて世間から引く手あまたであってもおかしくない時代ではないかと思います。ところが製造業でもIEという名の付く組織は減少傾向であり,製造業以外ではIEの認知度も低いのが現実であります。それは,IEが「時間研究」「動作研究」の分野でより多くの発展をしてきたという歴史的背景によるものもありましょう。また,現実的にはIEr自身が自分でも気づかぬうちに,自らの活動領域を直接作業の効率化に特化してしまい,ミクロ的な作業改善に一生懸命になりすぎているとか,経営者からは,IE=作業改善と誤解され,IErが,より大きい成果を期待できる,企業システム全体の改革に着手可能な環境に置かれていない場合もあるのではないかと思われます。一般的にはこの分野のIEを「従来型IE」と呼んだりしています。

3 IErに望むこと

そもそもIE(インダストリアル・エンジニアリング)は次のように定義・説明されています。『IEは人,材料,設備の総合システムを設計し,改善し,施行する使命をもっている。これは,数学,自然科学,社会科学に関する知識と技能,システムから得られる結果を予測するエ
ンジニアリング分析と設計とによって達成される。インダストリアル・エンジニアは,企業の収益を最適にし,企業の危険を最小にするという管理の目的に対して,技術的な援助をする。彼は人,その他の資源をより有効に利用するを創案し,開発することによって,あらゆる階層の管理者を助ける。』(AIIE)このように元来IEは,実に壮大であり,「時間研究」「動作研究」でとどまるものではありません。以下に,本特集の狙いをまとめます。
①IEの適用(IE的な発想)が産業をこえ,広がっていることを認識すること。
②様々な業種の事例からヒントを受け,IEr自らの活動に生かしてもらうこと。
③IErの視野を広げることで,IEの枠組みを自らが狭くしないようにすること。
これらの点につきまして読者であるIEr諸氏が,本特集を通じ,自分自身を見つめ直す機会として頂き,より元気なIEが増え,業界を越えてIEの認知度と必要性が高まって欲しいという願いを込めて本特集を組みました。

4 記事について

(1)論壇
早稲田大学の高橋輝男先生に「IEの進化」と題して,IEの歴史的な足跡を,その時代における要望と照らし合わせながら考察いただき,IEの領域拡大と,それに対応するためのIEの充実についてご執筆頂きました。IEは,方法と技法と知識の3つがそろって始めてエンジニアリングたるものであり,物を扱う領域(製造・物流)から,情報を扱う領域(間接業務),人を扱う領域(サービス)へとIEの領域を拡大するにしたがい,方法と技法と知識の3つが不十分となっているのが現状ですが,これらを用意・開発することでIEは発展すると考察して頂きました。
(2)ケース・スタディ
①松戸市役所の照井氏には,すぐやる課の取り組みを具体的に紹介頂き“すぐやること”の意義をご執筆頂きました。すぐやる精神(すぐやらなければならないもので,すぐやり得るものは,すぐやります)をもって行政にあたることで,市民と行政の信頼関係を築いて行くという取り組みは,我々IErが改善業務にあたるときも,正に同じことがいえ,言い訳をせず60点でもいいから一歩でも進むことが,結局,スピードも早く,組織としての活性化にも繋がるということを忘れずにいこうと感じさせてくれます。
②吉村氏には,耐久レースのピット作業についてご執筆頂きました。一般的に,レースは非常に高い緊張状態のなかで,わずかな時間を争うものと単純に理解しがちでありますが,そのプロセスでは,信頼性を重視するメンテナンス,方針決定が重要なセッティング,バラツキを排除することでトータル時間の短縮を競うピット作業などについて解説いただき,興味深い記事となっております。
③サトレストランシステムズの西河氏には,店舗出店の判断材料となる売り上げ予測について,統計的手法による取り組みについて,ご執筆頂きました。予測精度の高い理論的技法の構築ということだけでなく,調査者の観察力の重要性について記述頂いていることに注目していただければと思います。
④誠愛リハビリテーション病院の中尾氏・西氏には,在宅生活を実現するサービス提供システムとしての医療業務をご紹介頂きました。顧客指向でシステムを構築していくということの意味と,そのためのプロセスについては,我々の日常業務でも大いに参考になることと思います。
⑤東芝物流の五十山田氏には,物流倉庫業務全般に対してIE手法を適用し,改善されている実例についてご執筆頂きました。SCMのなかで棚卸資産回転率向上を狙い,その方策として,IE手法による改善を軸に,拠点全体として取り組まれていることに,注目したいと思います。
(3)プリズム
①大原氏には,競技を目的とするスポーツのPDCAについて解説頂き,人との関わり合いに触れ,それを通じてIErに対するエールをご執筆頂きました。
②JR東日本の日景氏には,車両の周期メンテナンスと車両の清掃業務についてご執筆頂き,顧客指向を基本とするサービスシステムとしての仕組みをご紹介頂きました。
(4)会社探訪
武蔵工業大学の細野先生に,全日本空輸の国内線における定時運航化の取り組みを紹介頂き,問題点の分析と改善のポイントとなる人(組織)と業務システムの関わり合いにも重点を置いた改善の進め方について,ご執筆頂きました。
(5)座談会
座談会では,IErとして企業の実務にあたられている編集委員に,本特集を通じて,自ら,あるいはIErの代表として振り返りをして頂きました。IE手法を知らずとも新規の領域で問題解決が進んで行くのであれば,IEが手法をわざわざ体系付ける必要はないと認識します。しかしその改善の適用を,より早く,より広く適用して行くためには,プロセスや技法を体系化することがIErとしての役割であり,これを怠らないことが,結果として,IEの位置付けや認知度を高めることになるであろうことを忘れず,誠実に取り組んで行こうというのが総意です。IEr自ら,それとは気付かぬうちに活動領域を限定してしまわないよう注意し,視野を広く持つことの大切さがひとつの結論であると思われます。
(萩原 常康/編集委員)