IEレビュー222号 特集テーマのねらい

 進化する現場改善

1 はじめに

情報技術の高度化や低価格化によって,時間と空間はますます縮まりつつある。それによって,会社内だけでなく系列や国境がボーダレス化し,ある枠組みで構築された従来の仕組みはいとも簡単に崩壊する。需要と供給の時間の差もどんどん短くなり,リードタイムの短縮は「超」をこえるレベルを要求されるようになってきている。その上,デフレ傾向の影響で低価格化は底を打つ気配がみえない。まさに製造現場を取り巻く環境は,変化というよりも進化といってよいほど従来の枠組みを次々に取り壊しているのが実感であろう。これらをうけて,従来の「管理部門・設計部門の要求どおりの製品を要求どおりの納期・品質で製造する」ことだけの努力では,乗り越えられない壁が存在している。「昨今現状の改善活動には限界が見えている,このままでいいのだろうか」と不安をかかえている現場担当者は多いのではないだろうか。製造現場も単なる改善活動から,日々進化する必要に迫られている。この特集では,現在直面している問題に対して「現場だけではどうにもならない」とあきらめるのではなく,関連部門を巻き込んで問題に正面から取り組んでいる現場を紹介することが第一のねらいである。

2 「進化する」とは

今日の経営環境の悪化を背景に,経営者の興味は「目に見えた成果」が中心となり,製造業においても生産現場の問題からどんどん上流へさかのぼりつつある。メディアにおいても,「グローバルなサプライチェーンの構築」や「外注や派遣を活用したコストの削減」といった組織横断的でかつ短期的に効果がでやすいものに話題が集中している。特に製造業では「生・販・技一体化」が取り上げられることが多い。確かに,現場において血のにじむような努力によってリードタイムを1日短縮しても,物流倉庫に1週間放置されていたのでは何もならない。それぞれが個別に行ってきた改善活動を,全社的な視点からみなおすことは,一見改善活動の進化のようにみえる。しかし,当初の目的が「生・販・技一体化」であったはずなのに,その手段のはずのシステム導入に振り回されているという現実も存在する。現場では従来の方法でスムーズにいっているにもかかわらず,新しい情報システムを導入するために,現場のやりかたをシステムにあわせて再構築するといったむだを生んでいるといった事例も報告されている。現場が受け身のままでは,ほんとうの意味での一体化は実現しないということではないだろうか。真の意味での「進化」をするためには,まず製造現場が主体的に情報発信し,改善活動を展開しようという発想が必要なのではないかと思われる。以上をふまえて,今回の特集では,改善活動が進化していくプロセスにおける現場の重要性という点についても明らかにしていきたい。

3 論壇

今回は実際に日々環境変化の波にさらされている実業界から,日立製作所専務取締役の佐藤氏に執筆をお願いした。佐藤氏が中心となってつくられた「モノづくり技術事業部」発足までのプロセスを通じて,どんな環境にあってもモノづくりをないがしろにした経営はなりたたない,基本となるモノづくり技術を強化することを通じて,システムづくりがあるという思想が述べられている。そして,これからは製品開発・設計から受注・生産・物流・サービスにいたるトータルシステムを含めた総合技術でものづくりに取り組むために何をなすべきかが述べられている。

4 ケース・スタディ

本号では,5件の事例を紹介している。まず,富士ゼロックスと東北リコーのケースは,いかに速いスピードで顧客ニーズに応えられるかという課題に対して,既存の知識ややり方にとらわれず新しい生産方式を現場が中心となって構築していった事例である。特に,富士ゼロックスでは「リレー生産方式」というまったく新しい生産方式を構築している。従来の生産方式が量変動に対して難があるという問題から出発し,それを解決するために現場が中心になって,調達・技術・設備など部門を越えたスタッフを徐々に巻き込みながら新しい生産方式を作り上げていく姿がいきいきと描かれている。NEC三菱電機ビジュアルシステムズとトプコン,NEC山形の3件の事例は,いずれも改善活動領域を製造現場から工場全体,そしてサプライチェーンヘと広げる過程において生じる様々な問題とそれを乗り越える知恵がまとめられている。これらはまさに現場が問題意識をもち,関連部門を積極的にまきこみながら進化をとげた成功事例である。NEC三菱電機ビジュアルシステムズでは,ディスプレイモニタの市場が揺籃期・成長期・普及期という変化をとげるにつれていかに現場を進化させてきたかが述べられている。トプコンでは,レーザー組み立てラインにU字ラインを導入したことを皮切りに,開発・販売部門へと改革を進め,最終的にはグループ会社もとりこんで生産革新活動をすすめた事例である。そして,NEC山形は大規模集積回路の量産を実現した世界的な最先端半導体工場において,製造部と関係部門が一致団結した「五輪」の和の結集によって,世界No.1のラインを構築した事例の紹介である。この3例に共通していえる成功のポイントは,「他部門を納得させることのできる高い現場のレベル」と「部門間でコンタクトの取れる柔軟な組織」である。この2点を固め,かつ定量的に目標を設定して管理者が強いリーダーシップを発揮してこそ,真の意味での一体化が実現されるということを改めて感じさせられる事例である。

5 プリズム

本号では,今後の現場改善に有用であろうと考えられる3件の新しい話題を紹介している。1件目は,玉川大学の野渡氏に,アメリカにおける「Work Teams活動」を紹介して頂いている。新しいコミュニケーションの手段としてインターネットが注目され,それによって進化しつつある組織について,歴史をふまえて解説していただいた。2件目は,産業能率大学の多田氏による,新しい問題解決手法TRIZに関するものである。この手法は1990年代半ばよりアメリカにおいて自動車関連産業を中心に企業内導入が進み,日本においても普及し始めているまったく新しい発想法のひとつである。3件目は,ティーエスシーコンサルティングの勝呂氏による,パソコンを使った動作改善システムの紹介である。ビデオカメラで撮影した映像を簡単にPCの画面で再生して分析することによって,スピーディでインパクトが強く指導効果が大きいことが報告されている。

6 おわりに

製造業を取り巻く環境は,日に日に厳しくなるばかりである。それに呼応して,昨今は製品設計や営業部門といったところも含めて,ビジネスプロセスの改善といったことに話題が集中している。ともするとこれは,もう現場改善とは異なる次元の話であるように受け取られがちである。しかし,今回の特集事例を通じて,このような環境であるからこそ,ものづくりに携わるものは主体的に改革に参加していくことの必要性を痛感した。そうした取り組みが,現場改善を進化させる底力になっているのではないだろうか。 
(斎藤 文/編集委員)