IEレビュー223号 特集テーマのねらい

 変種変量生産への対応

1 本特集を組むにあたって

日本経済の高度成長期がピークを越えた’80年代後半から,それまでの同じ商品・サービスを消費者が同じように消費する「大衆の時代」から,年代層や海外市場をも含む地域性などに配慮した商品・サービスを各企業が提供する「分衆の時代」,さらに個々の顧客の要求に応える「個衆の時代」といった言葉が使われるようになった。これは,各企業がグローバル展開を含めた市場要求の多様化にいかに対応するかという課題に直面したことを示している。当初,この課題を解決するために,業種によっては品揃えを増やし,在庫で対応することも行われたが,市場変化のスピードに完壁に応えられるわけではなく,また在庫負担も重荷となった。そのような背景から,生産の場面では各企業が「変種変量生産」を指向するようになり,生産システムに様々な工夫を凝らして今日に至っている。

2 変種変量とそれへの対応とは

変種変量の定義については,本号に執筆頂いた名古屋大学教授である高桑氏の「論壇」で触れて頂いているが,業種・業態によって変種変量生産への対応は単一ではなく,例えば,
(1)その商品,サービスが当初から変種変量であり,そのなかで効率化を図るために改善活動を展開している事例(完全受注生産など)
(2)当初は少種大量生産で市場対応したが,需要が変種変量に変化したため生産方式を切り替えた事例
(3)基本は量産型だが,供給サイドの工夫で市場から見ると変種変量である事例
(4)設備の共通化,汎用化を図り,同一ラインで変種変量生産を行い,変量を吸収して一定の生産量を確保している事例
(5)機種のフルラインアップをめざしつつも,在庫負担軽減のため生産面で工夫している事例
などが挙げられる。上記の各事例は単独で展開されるものではなく,いくつかのケースが複合すること,あるいは他の要素(例えば,部材調達,販売施策など)が加わることも考えられる。また,変種,変量のどちらの課題に比重を置くかによっても,その対応は異なることになる。他方,もう少し高い次元からは「ユーザーの言うことに100%応えることが成功の道とはいえない。企業の側にもポリシーが必要である」と説く経営者がいるし,「変量といってもエンドユーザーの立場で見た際,消費行動がある日突然0になったり100になったりはしない。工場からみて変動が大きく見えるのはエンドユーザーと工場の間にいくつもの組織,人間が介在して変動幅を増幅している結果だ」と分析している経営者もいる。このことから,様々な制約条件の下で,「使う」側のサイクルと「造る」側のサイクルとを同期化させることが,あるべき姿と位置づけることも可能であることが分かる。

3 記事について

このような多様な局面を持ち,かつそれ自身が変化しつつある「変種変量生産への対応」を紹介することにより,生産に携わる者にとっての現状の認識と今後の展開について考察する上での一助としたく,以下のような内容の執筆をお願いした。
(1)論壇
名古屋大学の高桑教授に,変種変量生産の拡大にともない人間の管理能力の限界を超える事態に対処する方法として,モデルを示しながら,コンピュータによる生産スケジューラおよび生産シミュレータについての論考を頂いた。
(2)ケース・スタディ
①ソニーマニファクチュアリングシステムズ
ソニーは,市場における需要変化に対応した生産システムのひとつの答えとして,セル生産システムを導入している。本事例では,生産設備の開発の面から,付加価値を生んでいる作業のみの自動化をコンセプトに,日々進化する同生産システムにマッチした小型,安価かつ汎用性のある生産設備実用化の活動を紹介して頂いた。
②デンソー
セル生産ラインの特性を仔細に検討した上で,自動化による高い生産性と,変動に柔軟に対応するという一見相反する命題を解決する生産システムについて,ABS(Antilock Brake System)の生産システムを事例に紹介して頂いた。
③富士通テン
同社では,上流工程と下流工程が常に双方向で影響し合うなかで,最適工程・最適設計を行う「コンカレント・エンジニアリング活動」をベースに,スピード・スリム・フレキシビリティの3要素を同時に達成する活動への取り組みを行っている。特に変種変量対応時における「生産性指標」を設定することにより,時に干渉しあう3要素のそれぞれにおいて成果を引き出している事例について紹介して頂いた。
④リコーエレメックス
製品特性に応じて,コンベア生産,一人生産,チーム生産を使い分けるなかで,自動倉庫を「仕分け供給機」,棚車を「引き取りカンバン」と位置付けるといったユニークなしくみを紹介いただくとともに,現場改善のみならず人材育成,情報系の整備など,多岐にわたる活動を相互に関連させている内容を記述頂いた。
⑤御幸毛織
高級衣料というカスタム性の高い製品についての,原料調達から顧客に商品が届くまでのSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)システムを構築する過程で,それまで個別工程の結果管理であったものを相互にリアルタイム管理可能な生産システムに改善し,ビジネスリードタイム短縮によって顧客満足を高めた事例を紹介して頂いた。
(3)プリズム
①三菱電機
多機種化する冷蔵庫生産において,部品のキッティング方式に工夫を加え,部品供給と組立作業を分離してミックス生産を行う事例について情報提供して頂いた。
②ポンパドウル
長期在庫が不可能であり,「その日に売り切る」商品を扱うベーカリーの生産意思決定,リアルタイムでの数量調整,さらに,新製品発売の考え方を深く記述していただき,工業製品とは一味違った領域での事例を示して頂いた。
③日本テクノマティック
3次元デジタルデータを用い,それまで独立して行われていたプロダクト,リソース,オペレーションの3要素を相互に関連付けて「もの造り」の支援を行う検証システムを紹介して頂いた。
(4)研究論文
ビジネス情報システム・アーキテクトの手島歩三氏他から,変種変量生産におけるシステム構築に関する投稿を頂いた。従来のリレーショナル・データベースからオブジェクト指向データベースを応用することによる技術データ管理ツールを提案した上で,その効果につき考察をしている。本特集の特徴のひとつは,各事例において,リードタイムの短縮を発端に,各業種の特性,業務内容の展開に応じてセル生産方式やSCMに言及されている点にあると言える。このことは業種,業態を超えた今後のIEの役割を論じるに当たって,大きな示唆を我々に与えてくれていると言えるのではないだろうか。そのような観点から各事例を読んで頂ければ,企画担当者として嬉しい限りである。
(岡 清彦/編集委員)