IEレビュー224号 特集テーマのねらい

 改善活動のマネジメント

1 はじめに

一般に「改善は永続なり」「継続こそ力なり」と言われます。改善活動を長期に渡って継続することで,当初は予想していなかった新たな設備や工法が開発されたり,品質・コスト・納期の水準が当初の想定以上に改善されることも決して珍しくはありません。実際にいくつもの企業・工場でそうした事例が報告されています。しかしその一方で,改善活動を長い間継続させていくことは決して容易なことではありません。とりわけ,調達・生産・物流活動の急速なグローバル化や,情報技術の急速な進歩は,地道に改善活動を継続することよりも,急激かつ大幅な変革を促すモーメントとして作用する側面を有しています。一方,IEの手法や考え方を見てみると,サービス産業や情報システム分野などにその適用範囲が広がりを見せているものの,基本となる考え方は動作時間研究としてかなり昔に体系化されたものが大半を占めています。また,トータルIEという考え方が提唱されつつもなかなか広がりを見せず,IEの領域とマネジメントの領域は,学術的にも実務的にも融合が進んでいるとは言い難い状況です。

2 改善活動のマネジメント

本特集号では,このような問題意識の下,改善活動を継続していくためにマネジメントが留意すべき視点と考え方を探り,こうした視点や考え方が企業のなかでどのように実践・展開され,そこにIEの手法や考え方がどのように貢献しているか,あるいはIEに求められ不足している考え方は何かといった点について,可能な限り具体的な事例を集め,それに基づいて読者とともに考えを深めることをねらいとしました。企業の現場を歩いてみると,改善活動は行っているが短期的な成果に結びつきにくいために活動を継続させることができないとか,改善活動の重要性は分かっているがなかなか活動が活性化しない,また表面的に活動は継続しているもののどうも対症療法的な改善に終始しているなどといった声をよく耳にします。こうした問題は,一般に表面化しにくいものの,実は多くの企業でIEに関係している人たちに共通した悩みであると思われます。本特集号は,このような悩みを持つIEスタッフやマネジメントに,すぐに効果のある特効薬というよりも,新たな発展に向けた長期的な視点を提供することを意図して企画されました。

3 企画に際して設定した問い

本特集を企画するにあたり,以下5つの問いを設定しました。
①改善活動を長期間継続していくために,どんな工夫や仕掛けを行っているか? そうした工夫や仕掛けを実践する上でどんな苦労があったか?
②改善活動が停滞したり活性化しないとしたら,どんな理由や原因が考えられるか? マネジメントがどんな態度・行動をとると活動が停滞してしまうのか?
③改善の方法・手法に着目したとき,改善活動を活性化させるためにはどんな方法や手法が有効か?
④改善活動を進めていく上で,IEの手法や考え方のどんな内容,どんな側面が役立っているか? あるいは,どんな考え方がIEに不足しているか?
⑤そうしたIEのプラス面やマイナス面は,QCやPMといった他の管理手法と共通か? どんな点に大きな違いがあるか?
各事例を執筆して頂く際には,上記5点についてすべて触れて頂くのは事実上困難なため,実際にはひとつの事例を紹介して頂き,その背景を分析したり,いくつかの事例を比較するなかから上記の点に関する考えを可能な範囲でまとめて頂くことにしました。また,昨今の情報技術の進歩や現場作業者の流動化・外部化などにともなって,「マネジメント」という言葉の意味合いも変化していると思われます。さらに,生産活動のグローバル化にともなって,国内拠点でのマネジメントと海外拠点で求められるマネジメントの違いに着目することも大切と考えられます。こうした点を中心に執筆して頂く事例も含めることにより,ねらいに沿いつつも裾野を広げた特集号として1冊を構成いたしました。

4 記事について

(1)論壇
京都大学の赤岡先生には,改善活動と日本経営に関する論稿をご執筆頂きました。昨今,日本企業が競争力を弱めてきたのは,製造現場の優秀な労働者に依存しすぎてそれを支えるシステムの改善やIT化・グローバル化への対応に遅れをとったからであり,企業競争力を回復するためには,これまでの競争力の源泉である優秀な労働者の意欲・成長を促進しつつ,管理者やIEスタッフなどの専門職が,今まで以上にトータルなシステム改革を行っていく必要があるとのことです。
(2)ケース・スタディ
①昨今,生産活動のグローバル化にともなって,海外拠点での改善マネジメントも求められるようになってきています。(株)東芝コンピューターテクノロジの永友氏の論稿を拝読いたしますと,文化や習慣の違い,コミュニケーションの難しさなど,克服すべき課題も多い一方で,改善活動の基本に変わりはないことを強く感じます。5Sを徹底し3K職場を改善活動のリード役に設定して,事実に基づいた実践教育を行っていくという進め方は,改善活動に慣れっ子になってしまった国内工場よりもむしろ基本に忠実であり新鮮ですらあると思われます。
②アイシン軽金属(株)の棚邊氏には,企業活動の原点である継続的改善活動を促すマネジメント上の重要ポイント,特に問題を顕在化させる風土づくりと仕掛けについて記述して頂きました。改善活動は目標の押し付けでは決して継続できない,全員が問題を徹底的に抽出しほめ合う場づくりが必要である,「まずはやってみる」というトライのサイクルが重要であるなど,どの主張をとっても氏の約20年間にわたる実体験に裏打ちされた迫力を感じる論稿となっています。
③(株)山武の加山氏によれば,山武が15年間継続してきたJUMPS活動では,「改善のサイクルが回るようなしくみ」「もの造りは人造り」という運営を目指して活動を継続してきたそうです。その具体的な形が,3か月実習制度や自主研,経営層現場指導会という全社的な取り組みであり,このような活動を長年継続することで,改善活動そのものが日常の仕事の一環に組み込まれていることこそ,山武の最大の強みであると思われます。
④改善活動を進めていく上で,IEの手法や考え方はどのような点で役立っているのでしょうか,また反対にどのような点が不足しているのでしょうか。住友金属工業(株)の平尾氏の論稿では,このような論点について的確な議論がなされております。現状あらゆる生産プロセスがコンピュータ化されており,問題発生の過程がブラックボックス化されて事実が把握しにくくなっている故に,IEの考え方は各部門に脈々と受け継がれて生命力強く生きている一方で,改善活動を行う上ではいかに実態を的確に捉えるかが難しくなっているとのことです。
(3)テクニカル・ノート
(株)東京ロジスティクス研究所の重田氏には,これまで製造コストの陰に隠れてその重要性があまり認識されてこなかった物流コストの改善について記述して頂きました。具体的には,改めて物流品質とは何かを問い,物流現場において改善活動をマネジメントしていく際のポイントについて,「人間」「設備機械・システム・環境」「管理体制」の3つの視点から論じて頂きました。
(4)プリズム
本特集号では,改善活動をマネジメントしていく上で有用な3件の話題について紹介して頂きました。1件目は,産能大学の斎藤先生に,経営改善活動に対する代表的な表彰制度についてご紹介頂きました。2件目は,横浜国立大学の白井先生に,ゲーミングシミュレーションによるビジネスプロセスの改善についてご紹介頂きました。3件目は,SRA先端技術研究所の塩谷氏に,CMM(成熟度モデル)によるソフトウェア開発プロセスの改善技法についてご紹介頂きました。以上,本特集号では,執筆者各位のご協力のもと,様々な視点から改善活動のマネジメントについて考えを深める素材をご提供頂きました。誠に有難うございました。
(坂爪 裕/編集委員)