IEレビュー227号 特集テーマのねらい

 環境会計と改善活動

1 はじめに

ここ数年,環境に関する取り組みに大きな変化が現れてきている。それまでは大気汚染や水質汚濁などの,いわゆる公害を出さない活動や,化石資源の枯渇を避ける(遅らせる)ために省エネルギーを推進するという個別の対応であった。それが,地球規模で環境負荷を低減する活動,例えばCO2排出抑制への取り組みや,地球資源全般の浪費を押さえ,循環型へ変革する活動へシフトしてきている。企業の立場からは,ともすれば社会情勢に応えるための与件としての活動であったものから,経営施策として取り組むべき必須の課題になってきている。そのため取り組み内容は広範囲になり,その成果をどう評価すべきか,また成果に対する説明責任をいかに果たすという点から環境会計の導入が言われるようになり,環境省から「環境会計ガイドライン」および「環境会計ガイドブック」が刊行された。環境省の示したガイドラインの趣旨は,環境に関わる諸活動を数値で示すに当たり,諸活動に費やされた費用,それによって得られた効果金額および削減されたCO2量で表現し公表するものである。これは,従来の会計制度の公開に力点をおいた財務会計に相当し,外部環境会計と呼ばれている。これに対応するものとして,経済産業省から環境管理会計の手法が公開されている。これは日々の企業活動(商品企画,開発,設計,調達,生産,販売など)にかかる費用を環境の面から捉え,成果を評価しようとするもので,従来の会計制度の内部管理を重視した管理会計に位置づけられ,内部環境会計と呼ばれている。この外部環境会計と,内部環境関係に関する内容については,本特集号の論壇で神戸大学大学院,國辺克彦教授に論考を頂いている。

2 環境会計と改善活動

直接作業,間接作業を問わず,改善活動を推進する場面を捉えなおしてみると,
(1)生産の流れ(調達・生産・物流・流通・販売・回収など)のなかの各々の境域および相互間に発生する業務についての改善,および商品企画,開発,設計という軸のなかで行われる改善。
(2)生産設備を始め,コジェネ・ゼロエミッションを含む用力動力設備に関する投資,運用局面など事業体全体での改善。
(3)上記に関わるマネジメント上での改善,
などが主体となっている。これらの改善・改革活動の手法として,IE,VE,TQC,TPM,JIT,セル生産方式やSCMなどが導入され,その事例については過去の「IEレビュー」誌にも数多く報告されている。本特集のねらいは,このような活動を環境会計を意識して,ないしは環境会計の視点で捉える点にある。このことは,経済産業省が提示している環境管理会計(内部環境会計)に近い,もしくは同様の視点ということができる。内部環境会計的な考え方の導入・適用について,本特集では,その端緒に付いた今後の課題としている事例が多く,近い将来,より具体的な成果事例の公表が期待される。しかしながら,今回の事例が外部環境会計の紹介に偏ったものではなく,その数値をベースに,いかに企業を改革していくかという意志を読み取ることができるという点で,改善活動との接点を見出すことが可能となる。それを読み取るための共通のキーワードを求めるならば,「環境経営」である。外部発表向けか内部管理用かに関わらず,実測分析された数値をどのように経営に反映させるかに知恵を絞り,経営の意思決定のツールとして用いようとする志向は,高度な改善活動へと結びつくきっかけとなる。また,各々の事業体の特長に見合った独自の環境会計策定に当たっての項目設定の評価・分析プロセスは,生産技術,生産管理に携わる者にとって,例えば自らの活動を評価するツールづくりという面で大きな示唆を与えるものである。これらだけを取り上げてみても,今回執筆いただいた多くの事例が特集の意図を反映しているものと位置づけることができる。

3 記事について

(1)論壇
神戸大学大学院・國部教授に「環境会計の新しい展開:外部情報開示の手段から内部管理の手段へ」と題し,環境管理会計(内部環境会計)についての論考をいただいた。国内において,環境会計のうち外部に情報公開するための外部環境会計は進んでいるものの内部環境会計の導入は遅れていると指摘した上で,内部環境会計技法のうち,環境配慮型設備投資と環境配慮型原価管理について紹介している。双方とも通常の経理上扱われるコストのほかに,環境を意識したときにしか見えない,隠れたコストの存在を考慮した上での管理が必要とされている。
(2)ケース・スタディ
①日立製作所
日立製作所からは,ビルシステムグループから,地球温暖化防止に対する活動事例を紹介していただいた。部門内の電力消費量に注目し,定量的マクロ分析のなかから消費量の多い部署を特定し,さらに個別の設備の利用状況を把握して無駄な設備やその運転を削除している。また,新規設備導入に際しても技術的改善を加え低電力消費を実現している。この活動に当たっては手堅い分析手法が用いられており,それゆえに確実な成果を上げている事例である。
②リコー
「経営に生かす環境会計」というタイトルで執筆いただいたリコーの事例は,内部環境会計にさらに踏み込んでいる。環境改善に関する各種効果の算出式を提示し,その上で,コージェネシステム導入,ライン改善,熱源システムヘの事例を展開していただいている。さらに,経営との関係についても考察いただいた。
③竹中工務店
竹中工務店からは,建設業界としての環境会計に関する取り組みについて紹介していただいた。業界の特性から,一建設業のみの活動ではなく,施工主から材料メーカーに至るまでの活動のあり方と環境会計の考え方,現状を示していただいた。
④キリンビール
キリンビールの事例は,同社の環境への取り組みと環境会計のこれまでの経緯を述べていただきながら,環境経営を念頭においた現在の環境会計について算出事例を交えて紹介していただいた。特に,付加価値度と環境負荷度との関連性,経済貢献度と環境負荷度との関連から自社と他社をベンチマークする事例,企業間格差を標準化する方法についても述べていただいている。
⑤デンソー
デンソーの事例での「セグメント環境会計」と呼ぶカテゴリーは,内部環境会計にふれた内容となっている。外部に公開する「コーポレート環境会計」との対比のなかで,特に算出項目抽出の基本的考え方やそれによって導き出された算出項目の事例を紹介していただいた。
⑥日産自動車
自動車業界からの事例として,今回は日産自動車に執筆をお願いした。特に環境会計の概要のなかでは,研究開発,生産工程,企業活動全般における環境保全コストについて事例を挙げながら,紹介をいただいた。その上で,生産場面での環境会計の活用事例についても考察をいただいた。
(3)プリズム
中央青山監査法人から現行の会計制度と環境会計の関係につき理解しやすい解説をしていただいた。また,環境省からは環境会計に関する最新の情報と今後の展望について執筆を賜った。さらに,海外の機関,組織による環境会計への取り組みにつき,関西学院大学の阪先生から情報提供をいただいた。

4 おわりに

環境会計,特に内部環境会計を捉えたとき,その内容が従来進められてきた改善活動の成果を表す数値(リードタイム,フロアスペース,工数,製品原価など)と深い関係を持つか,あるいはそれらの数値と融合する時代がそう遠くない将来に訪れるものと思われる。本特集号が,そうした将来動向に向けての橋渡しの一助になれば幸いである。
(岡 清彦/編集委員)