IEレビュー229号 特集テーマのねらい

 拡がりをみせるリードタイム短縮の取り組み

1 現在の経営指標

Faster Time to Market(市場投入時機の加速)という言葉が出てくるほどに,時間が競争力の大きな要素になってきている。近年,市場環境はめまぐるしい速さで変化しており,商品のライフサイクルはますます短く,また多様になってきている。以前は品質,コストが重視される時代であったが,さらにスピードが要求される時代である。しかもそのスピードに対する要求は,従来と比較してより広いビジネス分野へと拡がっており,その速さはさらに加速されていくであろう。このような意味で,現在,企業の経営指標のひとつとして「スピード」が重視されているのではないだろうか。また,中国やアジア諸国へ生産拠点がシフトしている一方で,国内では商品の短納期化,需要変動対応と,高コスト体質からの脱却とスピード重視のモノづくりへの改革を求められている。そして,国内の製造業では生き残るための活路としてSCM生産体制を構築し,タイムリーな市場への投入,製造コスト削減,在庫圧縮によるキャッシュフロー改善などを目指したモノづくりへの改革を実施している。

2 リードタイム短縮について

このような状況において,企業における取り組みは売上拡大,シェアアップ,利益率向上,キャッシュフロー改善など経営に直結した成果に結びつき,他社との競争に勝ち抜いていかなければならない。そのひとつの取り組みがリードタイム短縮である。VOCを起点に商品の開発から,市場への投入,市場からの終息までの期間を短縮していく。同業他社に先駆けて新商品をいち早く開発し,市場へ一気に商品を供給し,販売の機会損失を最小限に抑えながら,他社の追従により売価が下がる前に売り切ってしまうことで利益率下落の回避,いわゆる先行者利益を確保することができる。また,この期間の短縮により,部品,仕掛品,製品在庫,販売在庫のミニマム化が図れ,資産回転率の向上,キャッシュフローの改善に繋がっていく。リードタイム短縮と言えば,かつては製造部門における取り組みが主であったが,現在は開発から販売までの様々なプロセスにおける取り組みへと拡がっている。また,SCMに代表されるような他部門をスルーした全体最適を目指した取り組みも行われている。そこで今回の特集では,製造業を中心とした国内産業におけるモノづくりの改革について「リードタイム短縮」をテーマとして,開発,調達,製造,物流,あるいは間接部門から人材育成など様々なリードタイム短縮の事例を幅広く紹介する。

3 特集テーマの切り口

今回の原稿執筆をお願いするにあたっては,リードタイム短縮への切り口として,次のようなプロセスに分けて依頼した。
①開発設計から量産までのリードタイム短縮
3Dデータによるシミュレーション解析の活用事例。
②受注から生産出荷までのリードタイム短縮
フレキシブルライン化,セル生産による製造リードタイム短縮の事例。
SCM構築による受注から出荷までのリードタイム短縮の事例。
③物流や販売でのリードタイム短縮
新システムによる情報の一元化,作業効率向上による物流リードタイム短縮の事例。
④間接部門でのリードタイム短縮
IT化,情報の一元化による間接作業の短縮の事例。
⑤人材教育におけるリードタイム短縮
IT化の活用,マニュアルの整備による短縮の事例。
また執筆にあたっては,どのような視点でリードタイムをとらえ,どのようなアプローチ,どのような要素を改善することによりリードタイムの短縮を図ったか,また,狙いとした成果のみならず,付随的な成果として得られたものにはどのようなものがあったかなどについて紹介いただいている。

4 記事について

(1)論壇
神奈川大学の松浦教授には,意思決定の階層性(戦略レベル,戦術レベル,運用レベル)とリードタイムの次元(通過時間と応答時間)を基軸にとり,リードタイム概念について論じていただくとともに,その短縮方策について執筆いただいた。リードタイム短縮について,意思決定のレベルごとにトピックスとして執筆いただいている。それらの施策を実施していく上でも,市場の要件と事業規程を念頭に,どの機能領域と次元を短縮するのかを明確にし,意思決定のレベルごとに具体的方法を検討していく必要があると述べている。
(2)ケース・スタディ
①グローリー工業の藤原氏には,ユニット部品・総組立の一貫生産による製造リードタイム短縮の取り組みについて紹介していただいた。従来のコンベア生産から脱却し,一貫生産でのセル生産を実現し,主要ユニットの内製化までも含めた大幅な生産革新活動である。大型設備の廃止,停滞・運搬のムダ削減,活スペース化,ラインの整流化といったIEの要素が十二分に発揮されている。また,組織の壁の払拭や作業者の意識改革などの側面もみられ,改善の手本としたい事例である。
②東芝の安江氏には,受注から出荷までのリードタイム短縮の取り組みについて紹介していただいた。生販一体の切れ目のない管理プロセスを構築し,生販リードタイムの短縮と在庫の適正化を図るため,国内販売会社と共に,CRMとSCMを連動させた生産システムを構築している。CRM構築においては,SFAを導入し,顧客との商談進捗のマイルストーンを管理することで正確な販売予測と生産計画を立てている。また,SFA情報は製造ラインでダイレクトに把握でき,組立着工,製品出荷の同期化も図っており,販社と一体になった取り組みの事例である。
③トレンドマイクロの成田氏には,eラーニングを利用した人材育成におけるリードタイム短縮の取り組みについて紹介していただいた。日進月歩の技術革新を続けるIT業界においては,最新の技術をいかに早く修得するかが重視されているが,それ以外の業界においてもスキル修得のスピードアップは必要とされている。社員のニーズに合った職種別,レベル別の豊富な研修メニューや学習の進捗を管理できるeラーニングによる人材育成はリードタイム短縮にも有効な手段である。
④ロジワンの雨宮氏には,ダイエーグループにおける取引先から卸,小売センター,店舗までの商品物流のリードタイム短縮の取り組みについて紹介していただいた。共同倉庫システムでは,卸売業の預かり在庫として,小売センターに必要在庫をストックし,店舗へ出荷した時点で資産が移動するという製造で言えば部品の補充点在庫と同様の形態を取っており,ストックポイントの削減によるリードタイム短縮を展開している。また,ロジワンではトヨタ生産物流方式を導入しており,すべての工程で自主的な改善活動にも取り組んでいる。
⑤JR貨物の大橋氏には,貨物鉄道輸送におけるコンテナ輸送のリードタイム短縮の取り組みについて紹介していただいた。列車自体のスピードアップと輸送ルート全体の視点から,車両性能やダイヤ構成,荷役作業の改善と,トラックと鉄道の組み合わせによる全体最適の改善活動について説明いただいている。コツコツと改善していくことが早道であるという言葉に,取り組みの継続性と改善努力が感じられる。
(3)プリズム
短編の特集記事として,以下の3つのプリズムを掲載した。
①東京都立大学の山下先生には,生産指示方式を確立モデルによって表現し,構成要素を変化させたときのリードタイムヘの影響を論じていただいた。
②相模原市役所の松本氏には,電子メールを使った情報公開請求におけるリードタイム短縮への取り組みを紹介いただいた。
③鹿島建設の荻原氏には,建設業界におけるリードタイム短縮への考え方とその取り組みを紹介いただいた。
以上,本特集号では,執筆者各位のご協力のもと,様々な視点からリードタイム短縮における取り組みについて紹介いただいた。読者の今後の改善活動の参考になれば幸いである。
(黒坂 貴孔/編集委員)