IEレビュー231号 特集テーマのねらい

 変化する人材構成とその活用

1 変化する職場の人材構成

高度成長期から安定成長期,低成長期を経て,現在のデフレ経済期に至って,好むと好まざるにとかかわらず日本国内の職場を構成する人材が大きく変化している。従来,加工や組立といった生産現場では,終身雇用・年功序列を前提として,新卒者を毎年採用し,時間をかけて訓練し,忠誠心に富んだ熟練人材を確保することができた。それが,提案制度やサークル活動を支え,日本企業の競争力の原点とも言われた。しかし,近年,少子高齢化という日本の人口構成変化とともに,労務費の低減・変動費化の圧力が強まって,生え抜きの熟練人材の少数精鋭化と,安価・変動対応労務の拡大が進んできた。はっと気が付いてみると,職場には,高齢者,女性,パート・アルバイトなどの有期社員,派遣・請負社員,そして,外国人が多く進出してきている。一般にはこれらの人材は,「能力のピークを過ぎている」「非力」「非熟練(訓練を受けていない)」「意思の疎通が難しい」など,生産現場での管理を難しくし,改善活動にプラスに貢献することは少ないといわれている。

2 迫られる人材の積極活用

一方,生産現場を中心とした職場は,従来の輸出主体の大量生産から,国内消費に対応した生産へ転換が行われている。商品多様化,高品質,低コスト,短納期,在庫レスなどが従来以上に顧客や納入先から要求されている。セル生産に代表される多品種小ロット・多頻度生産や,超短納期設計試作,高級・高品質商品生産など,アジア・中国より一歩進んだ物作りへのシフトが行われ,そうした厳しい要求に応えることが各企業に求められている。職場の人材構成が変化して,熟練者が減少し,非熟練者が増加することが避けられないなかで,この人材構成変化のマイナス面を克服して,積極的に戦力化して活用して行くことで,職場への高度な要求を実現して行くことが非常に重要となる。

3 特集テーマの切り口について

人材構成の変化を克服し積極的にプラス側に活用する取り組みが様々な企業で行われている。その切り口を以下のように,大きく4つに整理してみた。
(1)人材の育成(教育)
非熟練作業者を生産現場にどうやって適応させたか。例えば,入社時の適性チェック,入社後の教育訓練をどのように行っているか。教育訓練のトレーナーをどのように育成しているか。作業者のやる気をどうやって引き出しているか。モラールアップの仕組みを工夫しているか。作業者を管理・監督する際にどんなことに気をつけなければならないか。技術・技能の伝承をどう工夫しているか,どんな人材が継承していくのか。同一職場での熟練者と非熟練者の組み合わせをどう工夫しているか。
(2)IE的工夫
どうやって誰にでも作業できるように工夫・改善したのか。例えば,標準作業をどうやって守らせるのか。どうやって女性作業者が力仕事をできるように改善・変更するか。高齢者でも壮年者と同等の作業ができるようにどのような工夫しているか。日本語が不得意な外国人をどうやって使うのか。彼らに作業方法をどのように伝達するか。非熟練者でもミスを犯さないようにするにはどのような工夫が有効か。
(3)設備の工夫
非熟練者のためにどんな設備の工夫をしたか。例えば,軽量安価設備(からくり)による熟練作業の自動化。どうやって3K職場に若者や女性を適応させたか。どうやって非熟練作業者によるTPMなどの全社活動を進めたか。どうやって設備ダウン復旧を迅速に行うか。非熟練者にもできる短時間段取りをどう工夫して実現したか。
(4)仕組みの工夫
非熟練者の多い職場の管理を,どうやって行っているか。例えば,生産管理(負荷管理,納期管理,着完工管理)をどうやっているのか。生産管理を現場で自律的に行わせている例はないか。負荷に合わせた出退勤管理をどうやっているのか。必要工数をどのように管理しているか。品質異常への対応はどうしているか。検査やクレーム対応の仕組みでの工夫を,どう行っているか。

4 特集記事について

(1)論壇
学習院大学の今野浩一郎先生に労働市場の変化とそれにともなう「もの作り」人材の問題について論じていただいた。現在,供給過剰である労働市場が2010年からは深刻な供給不足に転じ始める。そこでこれまで十分に活用してこなかった「高齢者」「女性」「外国人」などを活用することが重要と論じられている。また,雇用形態の変化で,正社員比率が低下する傾向にあり,「もの作り」人材の技能継承が憂慮される問題となっている。その解決には,世界から賞賛された日本の「もの作り」人材の育成と活用の方法に固執せず,新しい育成と活用のモデルを作り上げることが必要と述べられている。
(2)ケース・スタディ
①愛知機械工業
生産コストの低減と減産基調の負荷変動に対応し競争力を維持するため,ライン作業者の大部分を女性パート労働者にした事例を紹介いただいた。従来,男子作業者しかいなかった自動車組立ラインに非熟練の女性パート労働者を入れ即戦略化するため,インフラ整備,勤務時間,IE改善による作業負荷軽減,標準作業書の見直しなど様々な工夫が行われている。
②サンデン
少数精鋭の人材育成を経営効率向上基本として取り組んでいる事例を紹介していただいた。TPMを基軸として,保全ができるオペレータ,IE改善・工程管理ができるオペレータ,品質管理ができるオペレータを育成し,「オペレータのエンジニア化」を目指している。そのために,スタッフ留学制度など様々な工夫が行われている。
③シチズン精機
従来,熟練工によらなければできなかった機械部品を誰にでも作れるように,改善を行った事例を紹介いただいた。設計からのアプローチと生産設備からのアプローチ,そして組立作業の難易度別分業化や手順書の改善を行い,アルバイトや外国人労働者を活用している。また,技能者の処遇改善を行い,技能に対するやりがいを醸成している。
④マイスター60
60歳以上の優秀な技能技術をもつ社員で構成する会社の活動を紹介いただいた。採用時から,勤務形態,研修など高齢者の就業と意識付に様々な気配りが行われて,高齢者にとって快適な職場を作り出している。また,若者とコンビを組んで業務をすることにより熟練技術の伝承も行われている。
⑤三井ハイテック
金型専業メーカーとして注力されている技術革新と人材育成について紹介いただいた。特に人材育成については「ヤスリ研修」という独特の研修が行われている。新入社員,営業員,管理者もヤスリ手仕上げの実地体験をすることで知識と認識を深めている。また,高度技術技能職という「三井マイスター」をトップとする処遇制度を設けている。
(3)プリズム
まず,運送事業者として労務を確保する立場から,男性職場であったトラックドライバーの世界に,いろんな工夫をしながら女性を採用し,良い効果を得ている例を新日本物流に紹介していただいた。そして,変動労務を供給する請負事業者の立場から,派遣・請負業作業者に対するモチベーション向上,技能,ビジネススキルの教育への取り組みについて,インテリジェンスに紹介していただいた。最後に,新卒人材を供給する立場から,産業界の技術者への高度化する要求に対応するため,生産工学科を設置したことと,学科の幅広い教育内容について都立高専の石田先生から紹介していただいた。
20年前と比べると様変わりしている人材の構成にもかかわらず,特集テーマの切り口である,人材育成・IE的工夫・設備の工夫・仕組の工夫を駆使して人材を活用し,競争力を堅持している姿が特集記事から伝わってきた。多くの方々の参考になれば,幸いである。
(五十山田 俊/編集委員)