IEレビュー232号 特集テーマのねらい

 いま求められる生産設備の要件

1 贅肉をそぎ落とす努力

昨今の日本のモノ作り環境を見てみますと,安価な労働力を背景にしたモノ作りの海外流出や,競合他社との価格競争の激化,さらに,製品需要の不確実性の増大(製品嗜好の多様化や製品ライフの短期化)など,日本の製造メーカーに対して,さらなるモノ作りレベルのステップアップをつきつける変化が次々と起こってきているように思われます。生産者側も,当然,これらの変化を黙って見守ってきたわけではなく,製造ラインの贅肉をそぎ落とすための地道な改善活動や変種変量需要に対応するための生産システムの構築など,必死の取り組みが行われてきました。

2 本テーマを取り上げた背景

本誌としても,これらの貴重な取り組みを,例えば「製造リードタイムの短縮」や「セル生産方式」といったいくつかの切り口で,これまで読者とともに考えてきましたが,今回の特集号では,生産現場で利用される「製造設備」という切り口に焦点をあてて,特集を組んでみようと考えました。これは,上述したような様々なモノ作り環境の変化に対応し,競争力の高い製品作りを行うためには,設備ありきの改善活動だけでは十分ではなく,設備開発や設備改善,さらには設備保全にまで踏み込んだ活動が,真のモノ作りレベルのステップアップにつながるのではないかとの考えによるものです。今日の製品寿命の短期化や製品種の多様化の傾向などからすると,多額の固定的な投資をともなう設備(導入)に深く思いを巡らせることは,価格競争力を持った製品作りを行う上で非常に重要なことではないかと考えたわけです。本特集では,このような視点のもと「いま求められる生産設備の要件」を探り出すことをテーマに掲げました。この際,できるだけ広範な企業事例を集めるよう努めました。これは例えば,プラント系の工場と組立系の工場では設備に対して求められる要件は当然違ってくるであろうし,企業のおかれた様々な状況や立場の違いによって,今回取り上げたテーマに対する答えは異なってくるだろうとの見通しによるものです。このため,記事構成としては,設備開発を行って工場に納入する設備開発メーカーと,設備を導入して製品製造を行う製造メーカーの2通りの立場から執筆を頂いています。また,組立系の事例とともに,化学プラントに代表される装置系産業における問題についても取り上げています。これらの実際に行われた設備開発や設備改善の事例をもとに,このなかに盛り込まれた知恵や工夫を明らかにすることを通して,生産企業における「設備開発(改善)のプロセスのあり方」や,求められる「設備の特性・特徴」など,今日の生産企業において求められる生産設備の要件を明らかにしたいと考えました。なお,この際,これまでにない新たな設備開発コンセプトや設備に盛り込まれた工夫も紹介したいと考えましたが,一方で,要求品質を満たした製品を作り込むための設備機構の追求や,設備処理能力の向上など,地道ではありますがモノ作りを考える上で基本になる設備開発努力についても,落ちのないよう記事収集を図ったつもりです。

3 特集の切り口

実際に記事の執筆お願いするに当たっては,できるだけ次の3つの切り口に区分して,設備開発(改善)の事例をご紹介頂けるよう,企業の設備設計者の方々と,設備を利用して製品製造を行っているエンジニアの方々にお願いをしました。
(1)設備開発・改善に至る経緯や背景(設備要件の決定に強く影響を与えた要因)
(2)設備設計・改善を行う際の考え方や見方(設備開発の戦略・コンセプトを含めて)
(3)実際に開発・改善された設備におけるからくりや,盛り込まれた知恵
これらをご紹介頂いた上で,今日(これから)の製造企業において,どのような設備が求められるのか(求められる設備要件)についてのご意見を,各社なりの総括として示して頂きました。これを通して,本特集のテーマに対する何らかの答えを,読者の方々へお伝えしようと考えました。

4 記事構成

(1)論壇
早稲田大学の松山先生には,「化学プラントにおけるIE」と題して,化学プラントにおけるIE活動の現状と課題について解説を頂いています。本誌では比較的馴染みの薄い装置系の工場内の様子を,いくつかの分類を交えてご紹介頂いています。
(2)ケース・スタディ
①ローランド ディー.ジー.:組立製品を取り扱う同社のセル生産工程において,「デジタル屋台」と呼ばれる工夫のこもったセル生産設備を開発した事例を紹介頂いています。デジタル技術を積極的に活用することにより,セル生産の抱える様々な問題点をクリアするための工夫が紹介されています。今後のセル生産を考える上でも,新たなる着眼を投ずる価値の高いケース・スタディではないでしょうか。
②東芝・生産技術センター:設備開発者の立場から設備の自社開発過程の様子と,そこでの初期仕様の重要性について言及を頂いています。また,生産設備開発を行う際におさえるべき恒常的かつ重要な要因として,生産寄与後の安定稼動と,その後のメンテナンス性が挙げられることを指摘頂いた上で,これらの要求を具体設備のなかで実現する際の勘所を,設備事例とともに紹介頂いています。
③日立設備エンジニアリング:わが国のモノ作りの復活を実現するための展望として,生産設備の差別化を図るとともに設備開発技術者の確保・育成が不可欠であることを論じて頂いています。
④ソニー宮城:同社で行われた設備開発にまで踏み込んだ生産工程での改善事例が紹介されています。Low Cost Automationへの取り組みとして,「設備内製化」と「設備能力の見直し」とのスローガンのなかで,大きな改善効果が上がっていく様子が開発された設備事例とともに示されています。
⑤リコーエンジニアリング:品質の作り込みとコストミニマムな生産工程を短期的に立ち上げることを狙った同社の設備開発事例を,その開発コンセプトとともに紹介頂いています。
(3)インタビュー
本特集号では,上記のケース・スタディに加え,日本プラントメンテナンス協会の村瀬由堯へのインタビュー記事を掲載しています。村瀬氏は現在の仕事をはじめ,これまでの企業経験を通して,設備保全や設備開発,設備導入など,設備に関する諸問題に幅広い経験と見識をお持ちの方です。これからの設備問題を考える上で,①品質をべ一スにした生産性の向上,②設備と人の接点といった,生産システム内における様々な接点に着目することの重要性,③設備の自社内開発および外販設備の分解後導入への取り組みなど,知見に富んだ内容をご指摘頂いています。
(4)プリズム
また,今回の特集テーマにまつわる短編記事として,ヤマザキマザック(株)の笹岡氏,マルヤス工業(株)の大曽根氏,経済産業省の伊藤氏から,それぞれプリズムの投稿を頂いています。
今回の「IEレビュー」誌では,「いま求められる生産設備の要件」という,ある意味非常に答えの出し難い,執筆者泣かせの難しいテーマに取り組んでみました。結果として投稿頂いた特集記事を読んでみますと,本当に求められている設備開発や設備導入が着々と進められている企業には,設備に対する深い知識と経験が備わっているということをまず感じました。ただし,これだけでは不十分で,設備で実際に処理される製品のこと,設備を操作するオペレータのこと,設備が生み出す商品の市場環境等々,このような設備を中心にした周辺環境に視野を広げ,アンテナを広く張っておいて初めて,求められる要件を満たした設備開発や設備導入が行われるのでは,との思いを強く持ちました。読者の方々は,本特集を通じてどのようにお考えになるでしょうか?
(稲田 周平/編集委員)