IEレビュー235号 特集テーマのねらい

 セル生産方式導入後の改善

1 特集の背景

1990年代以降,国内の生産企業では,組立工程を中心にセル生産方式を導入する企業が年々増加しており,現在ではひとつの流行の生産方式となっています。本誌でも,’98年10月号で「セル生産方式の課題と展望」と題する特集を組み,当時ブームとして騒がれていたこの方式について,IEの視点から冷静に見直すことを試みました。それ以来すでに6年近くが経過しており,最近は毎号のケース・スタディや現場改善のなかに,必ずと言って良い頻度で「セル生産」という言葉が登場しています。しかし,それらの中身を見てみると,10人近い人数で分業しているラインから1人で数時間の作業を自己完結している方式まで,同じセル生産でも内容は多様です。また効果の点でも,一般にセル生産方式はライン生産方式に比べて多品種少量生産に効率良く対応でき,その結果,大幅な生産性向上・設備投資の削減・リードタイムの短縮・生産スペースの削減・製品品質の向上などの効果が得られると言われています。しかし現実には,期待した効果が得られていない企業,副作用(デメリット)のためにセル生産をやめた企業もあります。こうした現状を鑑みると,セル生産の定義を今一度見つめ直し,効果が得られるメカニズム,さらには副作用を防止する方策について,今一度IEの視点からまとめることが必要ではないだろうか,このような素朴な疑問を持ったことが,特集企画の出発点となっています。

2 特集の切り口

上記の問題意識に答えるために,本号ではセル生産方式導入後の改善活動に焦点を当てることにしました。セル生産方式は,多くの企業で導入後数年を経ており,同時に生産方式を導入すれば直ちに効果が得られるほど単純ではないからです。作業者の習熟やぺ一ス管理,教育・訓練,設備投資やスペースの削減,部品や資材の調達方法といった様々な課題を克服してメリットを実現するためには,セル生産導入後にいかなる改善を行うかが鍵になると考えられます。そうした部分にスポットライトを当てることができれば,セル生産の核となる部分に少しでも迫ることが可能になるのではないか,そんな期待が特集テーマ名の背後にある考え方です。そこで実際に記事の執筆をお願いするに当たっては,セル生産方式を最初に導入してから現在に至るまでの変遷を中心に記事を執筆して頂くようにお願いしました。セル導入当時どのような課題・問題点が発生していて,どのような狙い・目的からセル生産方式を導入されたのか,導入の結果として,どのような効果あるいは副作用が発生したのか,また期待した効果が得られなかったり,副作用が発生した場合には,どのような改善を継続的に実施したのかという諸点を中心に,執筆頂きました。変遷について執筆頂く際には,読者の理解を促すため特に以下の諸点について,記述頂くように努めました。
(1)セル生産方式の定義について
一口にセル生産方式と言っても,導入企業各社ではかなり異なった意味合いでこの言葉が使われていると思われます。そこで,各企業では,セル生産方式をどのように定義されているのか,場合によっては導入当初と現在で定義がどのように変化しているかも含めて,セル生産の定義内容を明記して頂きました。
(2)セル生産方式導入後の改善内容
次に,特にセル生産方式導入後に,どのような副作用が発生し,どのような改善を行うことで,これらの副作用を克服してきたかについて詳しく記述して頂きました。
(3)セル生産方式導入の条件
最後に,各社の導入経験から,どのような市場環境下でセル生産方式の導入が有効となるのか,またどのような製品特性・生産特性の場合に,セル生産方式の導入が有効となるのか,といったセル生産方式の導入条件について,自由に記述して頂くようにお願いしました。

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇については,特集の企画者の1人である坂爪が執筆させて頂きました。この論壇において主張したかったことは,セル生産方式を導入することによる直接の効果は,残念ながら限定的であり,むしろ導入効果の大部分は,導入後の継続的改善活動を通じてもたらされる間接効果にあるという点です。そのため,セル生産方式の導入を推進するマネジメントは,導入による直接効果よりも,導入後の継続的な改善活動をいかに促進していくかに腐心しなければならないと感じています。このような思いは,今回の特集テーマである「セル生産方式導入後の改善」というタイトルと通じるものとなっています。
(2)ケース・スタディ
①ヤマハ発動機の池谷氏には,海外生産拠点への部品供給を担うノックダウン工場梱包職場における1人完結梱包方式の導入事例についてご紹介頂きました。同社では,セル生産ではなく1人完結生産という呼称にこだわり,単に1人完結ラインを構築するだけでなく,徹底したムダの排除,現場の視える化を推進してきました。
②サンデンの遠藤氏には,製造現場のTPM活動の一環として導入されたセル生産システムについてご紹介頂きました。これまでの歴史を振り返ると,セル生産方式には,作業者の熟練度によって工程内不良が発生する,作業ペースが個人任せのため生産量のバラツキが発生する,ライン数の増加に伴い部品搬送回数が増加する,などの課題がありました。同社では,このような課題を克服するため,インライン検査の実施,作業者の技能向上,ポカヨケの導入,キットマワールと称するペースメークを行う部品台車の開発,部品搬送AGVの導入といった施策を実施してきました。
③オムロンの津呂氏・倉橋氏には,基板実装工程におけるセル生産設備の導入についてご紹介頂きました。同社では,以前から組立工程にセル生産を導入していましたが,前工程である基板実装工程では,バッチ生産が行われていました。今回の記事では,実装セルにおいて,基板の1個流し,短段取り,各工程での品質保証,設備の小型化に取り組んできた事例をご紹介頂きました。
④村田機械の宮下氏には,新型自動ワインダー生産ラインを中心としたセル生産方式の導入事例についてご紹介頂きました。同社では,後工程引き取りの1個流しをセル生産と位置づけ,加工・溶接・塗装・組立の同期化生産を実現しました。
⑤東芝テックの落合氏には,U字ラインを起点としたSCM構築の取り組みについてご紹介頂きました。同社では,U字ラインをセル生産と位置づけ,SCM成立の6要件のうち,売れるスピードで作れる製造体制の構築を具体的に実現する手段としてU字ラインを位置づけられています。
⑥愛知機械工業の野村氏には,セル生産導入後の取り組みを中心にご紹介頂きました。同社では,セル生産ラインをコンベアラインの補完ラインと位置づけ,非量産品をセル生産ラインとして分離することで,全体の効率を追求しています。2つのラインの切り分けを行う際には,ひとつの目安として台当たり工数による習熟時間や総工数規模による対象人数からの習熟の難しさを判断材料としています。また,セル生産の課題として,特にペース管理の問題について指摘され,より高い目標を実現するためには,強制的にペースをつくる方式の採用が必要であると指摘されています。
(3)プリズム
特集テーマに関連する情報提供という観点から,以下のプリズムをご執筆頂きました。
①スルガ銀行の桐部氏には,銀行窓口業務における一線完結処理の導入事例についてご紹介頂きました。間接業務における自己完結化を目指した改善の変遷がまとめられています。
②キヤノンの木下氏には,セル生産を支えるマイスターの認定基準を中心にご紹介頂きました。国内で生産を継続強化すべき重要な職場のリーダーとして,多数のマイスターの方々がご活躍されているそうです。
③一橋大学の伊佐勝秀先生には,セル生産方式に関する文献を,アンケート調査・事例紹介に分けてご紹介頂きました。
以上,本特集号では,様々な視点からセル生産方式導入後の改善事例についてご紹介頂きました。読者の参考になれば幸いです。
(河野 宏和・坂爪 裕/企画担当編集委員)