IEレビュー236号 特集テーマのねらい

 現場改善特集~企業の元気は現場から~

1 特集の背景

2004年の中葉を過ぎ,業種や企業間に濃淡は見られるものの,日本国内企業には明るい日差しが差し込みつつあるように見受けられます。それを裏づけるかのように,昨今の新聞や雑誌にも,「モノづくりの復権」といった記事が掲載されています。しかし,モノづくりの復権という用語の意味を吟味してみると,単なる流行やブームとしてクローズアップされている色彩が強く,実体として復権しているというよりも,これまでいろいろな環境変化の嵐の中にあっても地道にモノづくりを大切にし,改善に手を抜かなかった成果が,今日になって現れてきていると受け止めるべきと考えられます。小誌はこれまでIEを中心に置き,様々な生産改善,人材育成,環境対応などをテーマに,企業での活動事例紹介を通じて,いくつかの提言をしてきました。そこでは,生産活動ないしは企業を活性化するためには,生産を取り巻く種々の課題に対するバランスの良い取り組みが重要であるという認識に立つと同時に,生産現場における日々の改善活動がその起点にあるということを常に主張してきました。その一方で,生産技術や情報技術の進歩にともなって,現場改善活動の内容や効果に変化が見られること,さらには改善活動が企業の経営に与える活力について,これまで正面から特集として取り上げたことはありませんでした。

2 特集の切り口

そこで本特集では,生産活動活性化の原点となる「現場改善」について改めて取り上げることとしました。現場改善を単純に図式化すると,例えば,リードタイムの短縮や原価低減といった目標を定め,IE,TQC,TPMなどの技法を選択・組み合わせ,小集団活動から全社活動といった仕組みを通じて成果を上げ,その過程や結果が職場を活性化させ,企業に元気をもたらすという構図を描くことができます。しかも,改善の成果は生産現場に独立的に止まるものではありません。調達や生産管理に現場自身がかかわったり,現場のアイデアが開発や設計に反映されるというように上流部門にも波及します。あるいは生産システムと流通システムが同期化される,生産現場と顧客との対話が可能になるというように下流へも波及していきます。さらには,上流・下流への波及効果が現場へフィードバックされて,現場の手による工程・レイアウトの進化,人材育成・教育カリキュラムの実践といった多様な効果を生み出すことも起こります。さらに論を進めるなら,現場改善の成果が周辺に影響を与えて大きな効果を生み出すといった因果関係に期待して待つのではなく,工場あるいは企業全体のあるべき姿を定め,それぞれの部門が有機的関係を保ちながら同時並行的に改善を通じて成果をあげ,生産現場はそのなかの重要な一翼を担うという積極的な図式を見出すことも可能です。本特集で紹介する事例は,むしろそのような能動的な観点からのケースが主流を占めているといっても言い過ぎではないように思われます。このことは,今日現在,国内製造業の置かれている現実,達成しなければならない課題に対して,製造現場が処すべき立場を如実に表した結果であるということができます。

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇については「ムダ取りとセル生産がもたらしたマネジメント革命」と題し,ソニーの金辰吉氏に執筆頂きました。セル生産という生産方式が言われるようになってだいぶ時間が経っていますが,その本質について,企業活動のすべての領域における「ムダ取り」と位置づけて論じています。ソニーでなぜセル生産方式を導入したか,そのステップの具体例を示しながら,ムダの発生原因は行き過ぎた分業化にあり,それが働く人々の本性を無視しており,この分業により生じるムダを徹底的に排除することにより,個々人が自立性を発揮できる企業環境が生まれるとの論を展開して頂いています。
(2)ケース・スタディ
①東京コカ・コーラボトリングの片貝氏に,改善活動「稲城塾」の活動事例を紹介して頂きました。同社は,正社員と非正社員の逆転という労働構成の変化により,生産性の低下を招き,その対応に追われる「貧乏サイクル」に陥りました。この状態から再生するため,性急な結果や成果を求めずにオペレータ自身が問題点を発見し,改善実行できる機会を設け,その積み重ねが成果を導き出し,改善が促進されるという「金持ちサイクル」へと展開され,それが顧客からの信頼を勝ち取ることにもつながったという内容を,具体的に紹介して頂いています。
②ニフコの吉川氏には,原理原則,基本に従ったオーソドックスな現場改善事例を紹介頂きました。その基本は,すべての作業における「ムダ働き」の徹底排除であり,これらの活動を通じて職場の一体感が醸成されるなど,現場改善マンの情熱が伝わってくる原点の一例となる事例が紹介されています。
③三菱電機の福冨氏・佐々木氏に,「個別生産」から「量産(繰り返し生産)」に構造転換するために,取り組んだ事例を紹介頂きました。全社的生産構造改革を推進するため,それぞれの部門の改善対象を明確化し,総合的な改善を展開し,部門個々の成果のみを求めるのではなく相互に関連をもった成果を引き出したという事例です。
④安川電機の浅井氏,高橋氏,田和氏には,製造専門会社に分社化された部隊を中心に,部門以外の部品調達,生産計画,品質管理,生産技術,設計部門までを巻き込み,分割によって形骸化した工数生産性管理を原点に帰って見直し,自らの判断を交えて管理手法を使いこなす事例を紹介頂きました。そのために,生産に関わる全部隊がベクトルをそろえるための仕組み作りについても併せて言及して頂いています。
⑤戸上電機製作所の江本氏には,類似機能の加工工程統合は比較的容易な一方で,困難と思われた機能の異なった加工工程の統合を可能にした改善事例を紹介して頂きました。具体的には,プレス工程とレース加工工程を統合するに当たり,既製品ではできない専用加工機を自製し,工程間の停滞を排除するとともに,異種工程を1人で行う作業を実現したという内容です。
⑥日産ディーゼル工業の土田氏には,自社の改革改善活動を企業グループ全体活動である「限りないお客様との同期」「限りない課題の顕在化と改革」と一致するように位置づけ,モデルラインでの成果を水平展開時の基準として,関連部門が課題を共有しながら改革を進めるという内容について報告頂きました。
⑦ジヤトコの秋山氏には,生産文化,しきたりの異なる3社が合併した後,その違いを乗り越えて改善を推進した事例を執筆頂きました。共通のビジョン,共通の言語,共通の尺度を得るためにあるべき姿を設定し,それを鳥瞰図を用いてビジュアル化し,夫々の特長を生かしながら現場力を強化するための仕組みと事例を紹介頂いています。
⑧六甲牛乳の森高氏には,製造部門自身が設備開発設計を行う事例を執筆して頂きました。食品製造機器にとって最も重要な洗浄工程において,現場の目で洗浄というメカニズムを分析し,その設備が必要とする機能を洗い出し,現場にとって最も緊急のテーマから設備の開発,設計,改善を進めるための考え方と事例が紹介されています。
(3)プリズム
①関西ペイントの糸原工場長には,その立場から現場のあり方について執筆頂きました。特に,問題解決において,「現場に神宿る」「詳細に神宿る」というご指摘は,首肯する読者も多いと思われます。
②早稲田大学の藤田精一先生には,「大学における改善技法教育の課題」というテーマで,ユニークな論考を頂きました。たとえプロレスの技でも問題点を発見できる目があれば改善教育のテーマになるなど,改善とは何かという点の根本を指摘頂いています。
③放送大学の森谷正規先生には「現場を大切にする長い伝統」という視点から,いわゆるエリートの現場に対する接し方を日本と韓国・中国との比較で解説して頂きました。
本特集は,執筆者の方々になるべく図表を多く用いて紹介して頂くことをお願いいたしました。改善活動がもたらす多様な効果が少しでも製造業を元気づけ,読者の理解を助ける参考になれば幸いです。
(岡 清彦/企画担当編集委員)