IEレビュー240号 特集テーマのねらい

 先進的スケジューリング(APS)の方法・展望・課題

1 特集テーマのねらい

作れば売れる大量生産の時代には,需要予測に基づく見込み生産を行い,受注に対して製品在庫を引き当てればよかった。つまり,顧客から注文を受けて納品するという営業側と,資材調達をして製品を完成させる製造側が,製品在庫によって分断されていたと考えられる。しかし昨今では,顧客ニーズの多様化と製品ライフサイクルの短期化により,需要予測が困難となり,従来型の見込み生産では過剰在庫や欠品となることが多い。このため多くの企業で受注生産を志向し,受注情報をいかに資材調達・製造プロセスに結びつけ,少ない在庫で短いリードタイムを達成するかが重要な課題になっている。このような状況下において,資材調達などを含めた生産計画(プランニング)と設備台数や稼働時間など有限の資源制約を考慮したスケジューリングを同期的に行う先進的スケジューリング(Advanced Planning and Scheduling:APS)が,産業界・学界から大きな注目を集めている。どのような機能をAPSと捉えるかについては様々な解釈が存在するが,一般的には,MRP(Material R Requirement Planning)がかかえていた様々な問題点への対応,個別の注文ごとに迅速に再スケジューリングし正確に納期回答を行うことなどがその特徴として指摘されている。しかしながら,どのような業種や生産形態でもAPSが効果を発揮するのか,APSを導入する前に行っておくべきことなどについては,あまり論じられていない。そこで本特集は,APSについて次の構成で記述することにより,上記の点を明らかにしたいと考えて企画を行った。
・APS導入前の基本的なモノ・情報の流れとその時点での問題点
・APS導入の狙いと位置づけ
・APS導入の前に行っておくべき事項(条件整備など)
・APS導入による具体的な改善効果
・APSの中でも特に重きを置いている特徴的な点は何か

2 記事の構成

上記のねらいに沿って,本号では,以下の論壇1件,ケース・スタディ5件,テクニカル・ノート1件,プリズム3件の記事を掲載している。
(1)論壇
京都産業大学の井上一郎先生に,「生産計画・スケジューリング業務と戦略展開」と題して,APSの出現背景と概要をまとめて頂いた。そのポイントは,APSの有効性を発揮するためには,単なる情報システムの構築・運用と考えるのではなく,人間的・組織的側面をも総合的に考慮したシステムアプローチの重要性を説いていることである。この意味において,スケジューリングを自動化するべきであるという主張に対して警鐘をならしている。つまり,絶え間なく変遷,進化していく生産システムの極めて微妙な業務である生産計画・スケジューリング業務を完全に自動化することは技術的にも至難であるばかりでなく,システムの自己成長性の観点からも熟考を要するということである。
(2)ケース・スタディ
①日立バルブの竹尾邦美氏に,「APSによる生産構造改革」と題して,加工組立型ジョブショップ工程へのAPSの導入事例を詳しくご紹介頂いた。多品種少量の事例で,マスターに登録されている製品だけでも13,000種類を超え,特殊仕様品の占める割合は60%を超えている。APS導入前の課題は,①納期回答が遅い②回答した納期の遵守率が低い,そして③リードタイムが長いということであった。APSを導入した結果,標準品については納期±1日に95%の納期遵守率を実現し,納期回答のスピードや生産のリードタイムも目標を達成した。そのAPS導入過程について詳しく記述していただいたので,今後の導入を検討している企業には大変参考になると思われる。
②JFE技研の藤井聡氏に,「操業制約による遺伝的アルゴリズムの探索効率化と出鋼順編成への応用」と題して,装置産業におけるAPSの導入事例をご紹介頂いた。製鋼工程の日程計画システムに最適化手法を用いて,加工の待ち時間最少化,標準の通貨工程以外の代替処理工程発生によるコスト増を抑えるとともに,1週間分の計画を策定する新しい出鋼順編成システムの実用化について紹介されている。手組みをベースとする従来の計画は1日分を数時間かけて作成していたが,本システムでは,1週間分の最適化された計画を約20分で策定している。長期の出鋼予定が立案できることによって,下工程に供給される鋼片の見通しがつき,下工程での在庫削減や納期の精度向上につながっている。スケジューリングを最適化することの重要性を強く認識させられる事例である。
③三菱化学の高田真好氏に,「板状製品における生産計画・スケジューリングシステム導入事例」と題して,従来の見込生産から受注生産への移行に際して導入されたAPSについてご紹介頂いた。従来のOEM供給から自社販売への変更というビジネス環境の変化にともない,製品在庫削減による売れ残りリスクの低減や倉庫間の物流横持ち費用抑制が必要となった。ここにAPSを導入することで,加工開始から出荷までの時間管理が正確に出来るようになり,仮置き減少による在庫削減がなされると同時に,地方への直送割合が増加し横持ち費用が削減された。スケジューリングがモノと情報の流れを変え,物流費用改善にまで結びつけたケースである。
④ベリングポイントの北澤英人氏に,「ハイテク製造業におけるAPSパッケージ短期導入事例」と題してご執筆頂いた。本事例では,ビジネスプロセスとSCMモデルを見直し,これを実現する情報システムとしてAPSの導入を選択した。従来は生産スケジューリングを人手で行っていたため膨大な工数がかかっていたが,APS導入によりこの部分が自動化された。基幹システムとしてのERPを含む導入事例であるが,導入開始から11か月という短期間で稼動を開始している。APS導入の豊富な経験に基づいてまとめられた「短期導入を実現するポイント」は,今後の導入企業にとって大変参考になると思われる。
⑤イーマニファクチャリングの奥村直正氏に「日本製造業の新たな管理モデルを探る」と題して,サプライチェーン全体を管理対象としている事例および管理モデルが果たす役割についてご執筆頂いた。この管理モデルのポイントは,静的な“在庫”ではなく動的な“流れ”で管理すること,企業間で異なる“管理粒度”や“時間粒度”をどのように吸収するか,そしてAPSの計画系と実行系をどのように一元管理するかということである。APSを工場におけるスケジューリングに限るのではなく,サプライチェーン全体を対象として捉えており,非常に広い視点から示唆に富むご指摘を頂いた。
(3)テクニカル・ノート
構造計画研究所の中野一夫氏に,「APSがMRPにとってかわる」と題して,APSの特徴とその導入についてご執筆頂いた。筆者はAPSを「顧客の要求を満足させ,かつ資材在庫,仕掛り在庫,製品在庫などの在庫を可能な限り少なくするために資材調達計画と資源スケジューリングを同期させ,実行可能かつ最適なスケジュールを立案するスケジューリング中心の生産管理手法」と定義し,MRPとの違い,TOCとの関係,ERPとの統合効果などについて詳しく解説している。
(4)プリズム
①法政大学の西岡靖之先生に,「アメリカにおけるAPSの動向」と題して,筆者が滞在中の米国を中心としたAPSの捉え方についてご執筆を頂いた。APSにとって不可欠なIT的側面は米国が強く,生産管理的側面は日本の独壇場と主張している。
②プロセス経営研究所の川内晟宏氏に,「製造業から見たSCM全体最適と次世代APS」と題して,次世代APSに求められる機能を短期的視点と中期的視点からご執筆頂いた。APS実現を実現するために重要なことは,現場レベルから経営レベルまでのデータ連携である。
③日揮の佐藤知一氏に,「スケジューラ導入で成功するための10の方法」と題して,APSパッケージ導入の際の具体的なチェックリストをご提示頂いた。導入失敗の原因は,ソフトの機能の問題だけではなく,受け入れる企業側の体制や考え方にも問題があると主張している。
以上,本誌ではこれまであまり取り上げられてこなかったスケジューリングに焦点をあて,最近注目を集めるAPSがモノ造りにどのような影響を与えているのかを考察してみた。APSの導入を検討されている読者の参考になれば幸いである。
(伊呂原 隆/企画担当編集委員)