IEレビュー241号 特集テーマのねらい

 IE技法:その役割を再考する

1 特集の背景

日本のモノづくりが厳しい競争に直面するなか,多くの製造業では,生産革新と呼ばれる活動が進められている。その内容は,生産リードタイムの短縮,在庫の削減,品質・生産性の向上など,基本的にはこれまでIEが対象としてきた内容そのものと言って良いだろう。しかし,そこで用いられている考え方や技法となると,トヨタ生産方式やセル生産,TPM活動といった言葉だけが前面に示され,いわゆる伝統的なIE手法が主役となっているケースは多くないように思われる。本特集号のねらいはこうした認識のなかで,IE技法の役割を再考し,そこから広くIEの課題と展望について,考えることにある。

2 特集テーマについて

言うまでもなく,IEの出発点はテーラーとギルブレスにさかのぼる。仕事を丹念に観測・分析した上で,そこからムダ作業を取り除いて標準作業を設定する従来のIE技法は,第2次大戦後にアメリカより持ち込まれたものである。その後,これらは,トヨタ生産方式やセル生産方式に代表されるように,日本発の独自の技法・イズムとして多大な発展をとげ,日本の製造業の強さの源となっている。しかしながら,一方で生産革新活動の一環として,これらの方式を導入したものの,他社の成功事例を表面的に取り入れるに止まり,効果が思うように上がらない事例や,活動自身が社内に根づかないといった事例も散見される。このように生産革新活動が思うように結実しない背景として,編集委員会では次の2つのポイントが重要であると考えている。第1のポイントは,生産革新活動の根本をなす「いかなるモノの見方で現場・現物を眺めればよいのか」,即ち「IE的なモノの見方や考え方」が欠如していたり,このモノの見方や考え方を実践するための「分析技法」が十分に整備されていないこと。第2のポイントは,生産革新活動の目的・狙いを明確に定め,活動を率先していくマネジメントのリーダーシップが欠如していること,さらに言えば,活動をバックアップするための組織体制,組織風土が整っていないことである。この点に焦点を当てるとき,IE技法は,細かい方法論としてよりもモノの見方・考え方の基盤として大切な役割を果たすことになる。これらの「生産革新活動」と「IE的なモノの見方や考え方」,さらに「分析技法」という3つの要素が,一貫した考えで企業内に整備・構造化されることが,モノ作り企業の競争力を高めていく上で,極めて重要であると考える。このような問題意識のなかで,本特集号では,まずは生産革新活動を行っている企業事例を紹介し,その活動のなかで用いられた改善のための分析技法,さらには分析の進め方の整理を行おうとしている。その上で,それらの技法の背後にある「モノの見方や考え方」や,生産革新活動を支える組織体制や組織風土,リーダーの取るべき行動といったことを浮き彫りにしたいと考えたわけである。このように,IE技法を単独に論じるのではなく,「生産革新活動を支える組織(風土),リーダーの役割」,「IE的なモノの見方・考え方」,「技法・手法」という3点セットのなかでIE技法の役割を再検証することにより,IEの課題と展望に迫りたいというのが本特集の狙いである。本特集号を企画した背後には,「IE(技法)の役割は,本当に終わってしまったのだろうか?」との問い掛けに対して「ノー」という答えを,IE的なモノの見方・考え方が組織のなかにしっかりと根づいているからこそ,例えばトヨタ生産方式やセル生産方式といった技法を自社の状況に合わせて自在に組み入れ,製造企業力の強化に結びつけられるということを,読者とともに再認識・再共有してみたいとの編集委員会の強い思いがある。

3 記事構成

(1)論壇
ジー・エヌ・エヌの川瀬武志氏は,「天(神様)に何か願いごとができるとしたら」との問いに「問題解決能力をください」と答えるような偉才(異彩?)のIE評論家です。編集委員会が投げ掛けた「IE技法の役割を再考する」というテーマに対しても,我々の思考の視野をさらに広げる形で,ひとつの答えが見事に導き出されています。「IErが創造的になれないのは,トップマネジメントの志の低さにある」との思わずドキッとするような書き出しに始まって,最終的にはIEと企業がいかなる関わりを持ち,ともにどう育っていくべきかについて,著者の豊富な経験に基づいて深い考察が展開されています。IEに関する論評として,思わず引き込まれるように読みきってしまう秀逸の内容です。ぜひ,ご一読をお薦めします。
(2)ケース・スタディ
①森精機製作所:工作機械制御盤の内製ラインの立ち上げに関して,自社独自の生産方式(形態)のラインを構築する様子を紹介して頂いています。セル生産やオートキャンプ場方式といった他社事例を単純に横滑りさせて導入するのではなく,作業の標準化や標準時間の設定などのIEの基本手法に基づいた分析が,この取り組みにおいて,非常に重要なポイントとなることが示されています。また,社内における改善活動が恒常的に進んでいくためのワークサンプリング分析の実施や改善カメラ(天井据え置きのカメラ)の設置など,日々のIE活動を行っていく上での工夫も併せてご紹介頂いています。
②愛知機械工業:同社には,TPM活動の一環として進化させてきた「加工点管理の変遷と考え方」および組立ラインを中心に実施してきた「手元化」によるムダ取り(付加価値率の向上)について事例を交えて執筆を頂いています。徹底して付加価値を生んでいる(お金を稼ぎ出している)加工点に着目して製造プロセスを眺める見方と,この加工点だけからなるプロセスを実現するための「手元化」の概念が,実際の事例に基づいて理路整然と示されています。
③リコーエレメックス:時計用の精密歯車の歯欠け不良を,綿密な観測に基づいて解消したプロセスを詳細に報告して頂いています。ややもすると,品質不良の問題解決にはQC技法の適用が常道であり,IE技法を適用することは適切か? との思いも頭をよぎりますが,問題を可視化すること,問題を共有化すること,既成概念に囚われずに部門の壁を打ち破って問題解決に取り組むことなど,IE思考の原点に立ち返って問題が解決される様子が紹介されています。
④JFEスチール:「タスクフォース(TF)活動」と呼ばれる,製造現場の次世代を担う人材をラインから一旦外して(オフライン化して),2~3か月を区切りとして,製造現場の課題に集中的に取り組む活動が紹介されています。事例として鋼板の酸洗ラインの生産能力向上を図った事例が示されており,このなかで,伝統的なIE手法を地道に活用して予想以上の効果を上げている様子が伺えます。また近年,特に問題視されている技能伝承の問題を解決するツールとしてIE技法が役立てられている様子が紹介されています。
⑤トヨタ自動車九州:同社には,トヨタ生産方式を塗装廃液処理設備などの設備点検業務に適用した事例をご紹介頂いています。従来,トヨタ生産方式は,製造工程や物流工程に適用され多大な効果を発揮してきましたが,本稿では,設備点検業務という異種作業への適用の工夫とその効果を示して頂きました。
(3)プリズム
今回の特集テーマにまつわる短編記事として,ヤンセンファーマ,工業経営センター,ジャシィ,人間環境大学の各社から原稿をご寄稿頂いています。特に,ヤンセンファーマの記事では,薬品販売における営業担当者の仕事を分析・改善する内容が紹介されています。薬品業界に限らず,営業活動へのIE技法の適用可能性を示唆する興味深い原稿となっています。
以上,今回の特集では「IE技法:その役割を再考する」というテーマで考察を進めてきました。原稿に目を通してみて,個人的には,確かにIEの役割はまだまだ(これからも)大きく底堅いものがある,しかしながら,IErである我々が,IEの根本の成り立ちを忘れて,表面的にIEの技法的・手法的側面にのみ執着すれば,その役割は,すぐにでも薄らいでいくだろうとの印象を率直に受けました。本誌を読んでみて,皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。
(稲田 周平/企画担当編集委員)