IEレビュー242号 特集テーマのねらい

 変種変量生産がモノづくりにもたらしたもの

1 品種と量の変化のスピード

いつの世も,売れるものの品種とその売れる量の両方が変化し続けている。その変化に対応しながら,高度成長時代は大量生産,安定成長期に入ると多品種少量生産というようにモノづくりの主流も移り変わってきた。高度成長時代には,品種の変化と量の変化は,市場要求よりもメーカー主導で引き起こされていたといえる。そのため,品種の変化はゆっくりとしていた。量も「つくれば売れる」状態で,変化の幅は小さくスピードも遅かった。このような時代には,少品種大量生産が市場に最もよく対応できる生産方式であった。多くの商品が普及し飽和状態となった安定成長期時代になると,市場要求がメーカーに代わって,品種と量の変化の主導権を握った。品種と量の変化のスピードが速くなり,幅も大きくなった。技術革新のスピードが上がるとともに,商品のライフサイクルが短くなり,同時に商品の多様化が急速に進んだ。市場要求に対応し生き残るためには,多品種少量生産に移行せざるを得なかった。変種変量生産は,市場要求の品種と量の両方の変化変動に対応してモノづくりをすることである。品種の多様化,ライフサイクルの短縮,販売量の予測困難,グローバル競争といった環境のなかで,競争に打ち勝つために単に多品種少量生産ではない,市場の動きにダイナミックに連動する,変種変量生産がクローズアップされてきた。

2 変種変量生産への取り組みを通じてもたらされたもの

市場要求の変種変量に敏感に速く対応する変種変動生産に,取り組むことは決して容易ではない。人件費の変動費化にともなう不安定な労務,改善活動の停滞,習熟と多能工化の困難さ,長納期部品の枠取りや発注のリスク,めまぐるしい販売計画の変更が引き起こす納期遅れ,材料・部品・製品の在庫増加,頻繁な機種切り替えにともなう品質不良,そして,生産・販売・技術部門相互の不信など,深刻な問題が数多く持ち上がる。これらの問題を克服するためには,開発,調達,生産,物流,販売を網羅した変種変量生産への対応力強化の改革が必要となる。従業員のやる気・自律性の向上,非熟練技能者の即戦力化・高品質化の実現はもちろん,得てして部分最適と相互不信に陥りがちであった生産・販売・技術の各部門が理解し合い,全体最適を追い求め,組織間の壁がなくなり,連携が非常によくなるといった企業・組織風土の変革が必要不可欠である。風土改革を進めることで,商品群の統一プラットフォーム化,ユニット化・モジュール化による商品のバラエティと共通化の両立,JIT調達,セル生産などによる混合生産・迅速な機種切り替え・生産量の変動化,SCM構築による受注から調達・生産・輸配送・納品にいたる情報の連鎖化と共有化によるリードタイムの短縮,在庫庄縮などの改革が進み,競争力のある変種変量生産体制を構築することができる。変種変量生産は,それを構築する過程で,モノづくり現場のみならず,企業活動全体の変動対応力と競争体質の向上など多くのものをもたらし,企業に活力を与えるといってよいだろう。

3 特集テーマの切り口

本号では,変種変量生産をキーにして,活動・工夫・努力そして得られた成果と新たな問題の発生,活動・工夫・努力・成果と新たな問題,さらに…というように,スパイラルアップのサイクルをしつこく繰り返した過程とそれによってモノづくりにとって,新しい成果がもたらされた事例を紹介したいと考えた。例えば,しつこい取り組みを可能にした企業・組織風土の改革活性化(従来,手がつきにくかった部門間連携・信頼の醸成)や,受注から調達・生産・輸配送・納品に至る対応力強化(リードタイム短縮,在庫削減,情報の共有化),モノづくり現場の柔軟性強化の様々な工夫(新しいラインの姿,からくり,短段取り),変種変量生産で変化への対応をするなかで,絶対に変えてはならないこと,といったことを訴えかけたい。

4 特集記事について

(1)論壇
モノづくり革新にたずさわる立場からNECの五十嵐氏に,海外に勝てる日本のモノづくりの解のひとつとして,変種変量生産について論じていただいた。変種と変量の意味と定義,変種変量に伴う生産ラインの変遷,そして変種変量生産システムに求められる課題が分りやすくまとめられており,変種変量生産を考察する助けとなる。
(2)ケース・スタディ
①鍋屋バイテック/1個から製造販売する鋳鉄製Vプーリの生産およびその設備面での工夫から「寿司バーコンセプト」へ至る変遷が紹介されている。特に,1個作りに対応した段取レスのVプーリ微量生産設備に到達する過程は,非常に興味深い。コンセプト実現のための取り組みは,第1回「ものづくり日本大賞」受賞につながっている。
②関西セキスイ工業/典型的変種変量である住宅産業における様々な課題を,顧客の満足を頑固に確保しながら解決していった事例の紹介である。課題は設計,生産ライン,生産管理,購買等多岐にわたり,30年間の改善により「変化への対応力」だけでなく「自ら変化を進める」という段階に至っている。
③リコーユニテクノ/変種変量生産を企業にとって過酷な条件ととらえ,それを克服するために,変種変量の程度に応じた7つの生産方式と3つの流し方をあみ出した。そのなかで,台車生産方式への取り組みと得られたものが紹介されている。特に,「人が主役」の人にやさしい(優しい,易しい)工程作りが,強調されていることが印象的である。
④クボタ/季節性が大きく確定受注から納入まで数日という変種変量が激しい自動販売機の市場に対し,開発設計,製造スタッフ,現場が一体となった活動で,商品設計~モノづくり方式~生産現場~現場作業が,改革された事例が紹介されている。コンカレントな取り組みの好事例である。
⑤デンソー/製品寿命末期の減産期の生産は極めて難しい。特に自動車部品は,補給部品を含めて長期の減産期生産が継続される。ディストリビュータを事例に減産期生産に対応した生産ラインとして,設備の組み替えと段取り替えが簡単で,品質を確保できる「ユニバーサルライン」の構築が紹介されている。
⑥山形ケンウッド/苦境に陥っていた同社がトップの強い危機感とリーダーシップで,海外生産に打ち勝って生き残るため実施した,変種変量生産への生産革新活動が紹介されている。市場の要求にタイムリーに対応するため,販売情報から生産現場まで,基本に忠実な取り組みがなされている。
(3)プリズム
まず,「明日来る」から既に「今日来る」とまでいわれるほど短いリードタイムで変種変量調達納品を行うアスクルの仕組について紹介いただいた。ITを駆使し,サプライヤーと共有する需給予測の仕組みが面白い。次に,富士通SCMシステムズにパソコンなどの変種変量生産に対応する,統合型現場システムとその特徴を紹介いただいた。IErがシステム開発の母体となっていることが成功の秘訣だろう。最後に,変種変量生産の重要な要因である人材の量と質の確保の両面について,生産系人材サービスという視点で日総工産に論じていただいた。人材を集めるネットワークと集めた人材を育成する仕組みが興味深い。

5 顧客満足を得て勝ち残るキー

今回の特集では,変種変量生産への多面的な取り組みが紹介されている。そのなかに共通して流れていることは,第1に顧客満足である。顧客の要求する変種変量にいかに効率的に対応するかが最優先されている。そして,その取り組みのなかで,人にやさしい工程,多部門の連携,画期的設備の工夫,フレキシブルなラインといった成果がもたらされている。もちろん,トップのリーダーシップが,不可欠であることはいうまでもない。企業を顧客志向の体質に変え,顧客・市場の要求を満足させる変種変量生産は,日本のモノづくり勝ち残りの大切なキーであると感じられる。
(五十山田 俊/企画担当編集委員)