IEレビュー243号 特集テーマのねらい

 IEのプロをめざして

1 モノづくりの変革とIE

戦後の日本の製造業は,ジャスト・イン・タイム,セル生産,1個流し,混流生産,小ロット生産,プル生産などのしくみを構築し,モノづくりの変革を進めてきました。また,製造現場においては終身雇用のもと,QCサークルなどで継続的改善を進める風土を醸成してきました。そして,これらのモノづくりの変革には,時間測定,動作分析,TPM,工程設計などのIE手法,技法が活用されており,間接部門での生産設計,生産管理,在庫管理,SCM,APS,BPRにも応用されています。モノづくりの変革にはIE手法,技法は必要不可欠であり,「IE」とは単なる技法・手法の範囲に留まらず,「モノづくりの変革を創り出すものの見方・考え方・行動」だと言っても過言ではありません。

2 特集の背景

バブル崩壊後の景気低迷の期間中に,日本におけるモノづくりの環境は大きく変化し,IEを取り巻く環境にも変化が起きています。日本国内における製造業の産業別GDPシェア,従業員数は減少し,理工系学部卒業生の製造業への就職割合なども年々低下を続けています。また,EMSの出現とともにモノづくりのアウトソーシング化が進み,生産の変動費化を積極的に進める企業ではモノづくり離れも起きています。さらに製造拠点のグローバル展開が進むとともに国内は空洞化しつつあり,製造現場よりも間接部門のコストウェイトが大きくなっています。そしてIEに関しては,IE技術伝承の停滞・遅れが散見され,また伝統的なIEの見方・考え方に対する関心が低下し,若年層でのIE技術者の減少なども進んでおり,真のモノづくり変革への影響も危惧されています。

3 特集の切り口

モノづくりの変革と,IEを「人」という視点で捉えてみたいと思います。ここでIEに携わる人を,①製造現場でIEによる改善を実行する人(現場リーダ,生産技術者など),②モノづくりのしくみの変革を推進する人(企画などのスタッフ),さらに,③IEの研究や教育を行ったり,ツールの開発などによってIEを普及させる人(研究・教育部門)という,3つのグループに分類してみました。3グループの関係をみると各グループは密接な繋がりを持っており,複数グループの知識,経験を有することは,各グループの実践をより効果的なものにすることができるのではないかと考えられます。複数グループの知識,経験を有し実践する人材をここでは仮に「IEのプロ」と呼ぶこととしたいと思います。例えば,IEによる改善スキルを習得した人がモノづくりのしくみの変革を実践すれば,「IEのプロ」に成り得ると考えました。逆にモノづくりのしくみの変革を推進するスタッフが,IE知識を有し実践すれば「IEのプロ」に成り得ます。しかし昨今のIE技術者の減少,世代間のギャップなどによって,各グループ間で2極分化の傾向があり,「IEのプロ」をいかに養成するかが現実の課題となっています。そこで本特集号では「IEのプロ」に求められる資質,能力,スキル,役割り,及び「IEのプロ」の育成方法について考察してみました。そして,「IEのプロ」育成の背景にある,「モノづくりの復活」,「IEの強化」にいくらかでも迫りたいというのが,本特集号の狙いです。

4 記事構成

(1)論壇
日本IE協会名誉会長,東芝顧問の山本哲也氏には,「IEのプロ」と題してIErへの期待像と育成について考察を頂きました。IEの定義に関連づけてIEを3つの領域(現場IE,工程設計,ME)に分類し,IErに期待される3つのスキル(Technical-skill,Social-skill,Conceptual-skill)を提示され,IErは理論と実践を兼ね備えなければならないと述べられています。そしてIErの育成には,IErの資格化,IEのセンターは「生産技術部門」にあること,上級マネージャーのIEセンス,IErの実践,および産学連携が必要であると示唆されています。筆者のトップマネジメントおよび工場経営者としての豊富な経験をもとに,論評していただきました。
(2)ケース・スタディ
①YASUIの米山氏には,「整理・整頓活動を出発点としたヒト作り・現場作り」について執筆頂きました。役員,管理者が直接参加した整理整頓から改善活動を始めて,流れ生産,生産の小ロット化,部品発注ロットの小口化,ユニット化設計を進めました。そして営業を巻き込んだ改善活動によって受注生産体制を構築し,ダイレクト・オーダ・エントリを実現しています。さらにプロセス管理を実施し,現在はリードタイム短縮を進めています。この活動のなかで米山氏自身が推進役を努めるとともに若手を教育するなど,IEのプロとしてのひとつのモデルを紹介して頂きました。
②JFEスチールの山根氏には,「現場力の醸成-工場は工夫の場」について,言語知,明白知(形式知),暗黙知と言う三層構造に支えられた現場力に企業文化という側面から焦点を当て,IE組織のミッション,特徴,活動領域,課題解決のパラダイムなどについて,執筆頂きました。そしてIErの責務は創造的・総合的課題発掘,数理的/論理的分析,コミュニケーションの緊密化による創造的最適解の発見,問題/解決策を媒介・伝達・アピール・説得力に集約され,物事の本質をつかむ「捨象力」が重要であることを,紹介して頂きました。
③住友電装の西田氏には,「世界同一品質を達成するための人づくり」として,世界同一品質を達成するために「ピカピカ運動」の名称で進めてきたグローバルな活動について執筆頂きました。Total Production Systemを「生産の基本」と位置づけた改善活動をグローバルに進めるとともに,スキル訓練認定制度,訓練ツール,技能オリンピック,品質活動診断チェックシート,診断の評価認定員制によって作業スキル向上を図っています。海外拠点の従業員を含めた人づくりの方法を,紹介して頂きました。
④ブラザー工業の相場氏には,「海外工場の進化を支える製造技術者の育成」について執筆頂きました。海外拠点の拡大,新製品開発競争の激化,日本人製造技術者の高齢化の課題に対応するために,アジア地区の工場間で連携を取りながら工場の進化を進めるとともに,現地での人材教育も定着させています。2004年,日本にテクノロジーセンターグループを設立し,日本人製造技術者の育成,現地製造技術者の育成,資料・教材の生産拠点への提供などを進めていることなど,IErの育成方法を中心に紹介して頂きました。
⑤デンソーの栗原氏には,「海外生産拠点のIEr育成と現場改善」について執筆頂きました。IErは改善活動の補佐役として,知恵を授け活動を活性化させる役割とJIT生産のしくみを構築する役割を持っており,幅広い視野・知識と改善の実践経験が必要と,述べられています。急速な海外展開が進んでいることから海外のローカルIErの育成が重要であり,本特集号では,全社標準カリキュラムによって3年3ステップで,海外生産拠点のローカルIErを育成する方法を紹介して頂きました。
(3)プリズム
特集テーマに関連する情報提供という観点から,以下のプリズムを執筆頂きました。
①東京理科大学の平川保博先生には,大学におけるIEのプロの育成として,経営工学における演習を中心とした問題解決型思考の人材教育について紹介して頂きました。
②日産自動車の高橋氏には,現場改革をリードするIEのプロは関係者への「説得力」と,理論武装するために「冷や汗の数や整理の回数」を積む経験が必要であることを紹介して頂きました。
③清華大学の趙暁波先生,GL-Technologyの夏栄氏,東京工業大学の曹徳弼先生には,中国におけるIEの実践について改革開放後を3段階に分けて特徴を解説頂くとともに,中国の大学におけるIE教育の状況を紹介して頂きました。
以上,本特集号では「IEのプロをめざして」というテーマで様々な視点から考察を進めてきました。IEの発展,IErの活躍の一助になるとともに,幅広い読者の参考になれば幸いです。
(八重樫 善哉/企画担当編集委員)