IEレビュー246号 特集テーマのねらい

 現場が編み出した改善

1 特集の背景

この1年,日本経済はようやく明るさが見え始めたと思います。製造業においても若干の温度差はあるものの,業績,雇用,投資などの動向を見る限り,全体として回復基調がうかがえます。このような現場に対し,「IEレビュー」では,これまで何度か現場改善の特集という形で,優良な職場の改善事例を紹介してきました。
これまでの特集の視点は,
(1)現場改善の背景,経過,内容を通じて,改善がその企業にとってどのような成果をもたらしたか,
(2)その企業全体が抱える課題に対し,現場改善がどのような役割を担い,成果を上げたか,
といった広い内容を取り上げ,IEr,あるいは現場の管理者・リーダークラスの方々にケース・スタディとして執筆して頂きました。そこでは,企業トップの示したビジョンやロードマップをベースにしながら,ものづくりからスタートしてビジネスプロセス,ビジネスモデルのあるべき姿を分析し,PDCAを推進するに当たってIEの思想がどう関わりあってきたか,また有効であったかについて,執筆者の意欲,想いが語られているケースが多くを占めていました。このような切り口はオーソドックスであり,特にマネジャーやスタッフの方々に参考となる知見を提供してきたと考えられますが,その一方で,実際に現場で活動しているオペレータ自身の想い,心意気,アクションに光が当たることは多くなかったと考えています。

2 特集の切り口

現場改善を実際に進めるにあたっては,ボトムアップとしての現場の第一線から出る知恵,アイディアに極めて優れたものがあり,多くの企業において,その力が改善活動の活性化をリードしていると言っても過言ではありません。そこで今回の特集では,現場第一線の知恵,アイディア,提案の実施例を取り上げ,現場第一線の思いや考えを伝えるため,原則としてオペレータ自身の方にケースを執筆して頂くことを企画しました。業務の一環として単に命じられて実行した結果や成果を記述していただくのではなく,取り組んだ改善活動の経過,そこでの苦労や困難,それらを乗り越えるための工夫,成果に到達するまでの紆余曲折,さらにできれば改善活動を通じて得られた達成感,充実感について,率直な気持ちを表現していただくことを企図しました。分かり易い図や写真を多用し,工夫を実施するまでに,どのようなことに悩み,それを解決するために何を考え,作業手順,治具・工具,生産設備などに対し,どのような工夫を編み出したのか(個人のアイディア,小集団活動,周囲の協力などを含めて),その結果としての達成感,充実感などを,構成や文章にこだわることなく,平易に記述していただきました。

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇については愛知工業大学の客員教授であり,沖電気工業の加藤典孝理事に同氏がSONYで経験なさった“生産革新”の貴重な体験をもとに改善の真の姿について執筆いただきました。コンベア生産からセル生産へ展開するなかで,現場に知恵をつけ,そこに働く人々の知恵を精一杯引き出し成果を上げ,それを継続していくための現場オペレータとトップの姿勢について,有意義な論議を展開していただきました。
(2)ケース・スタディ
①山武からは,生産移管を行う際,同社の全社生産改革として有名なJUMPS活動のユニークな教育スタイルのひとつである3か月実習教育に女子リーダー(ラインアシスタント)を派遣し,成果を上げた事例を紹介いただきました。その女子リーダーご自身に自らの職場改善の経過,そこでの苦労,困難,成果の事例を具体的かつ率直に記述していただきました。
②ニフコからは,TPM推進部門の担当の方からTPM活動のなかの設備の自主保全活動を通じた改善活動を中心に事例紹介をいただきました。同社は国内外一体となりグローバル供給体制の強化,新製品の開発,新規取引先の開拓などを進めており,その重点施策として自動化・無人化システムの推進を行っています。そのなかで,5分以内で復帰するものの故障や異常により生産設備が停止する「チョコ停」に注目し,その徹底した削減についての活動事例を,具体的に説明していただきました。
③仙台コカ・コーラプロダクツからは,シフト長の方に清涼飲料水の最も大事な原水の管理に用いられる薬品の使用量改善事例について紹介いただきました。3つのプロジェクトチームがそれぞれ精緻な化学分析をべ一スに現場ならではのアイディアを生かして改善活動を進めることで得られた成果と同時に,現場の専門知識,問題解決力の向上がもたらした達成感についても記述していただきました。
④島津製作所には,現場第一戦の管理・監督者の方から,改善活動の紹介をいただきました。受注から設計,調達,組立,システム組み合わせ,出荷にいたる流れを通じたリードタイム短縮活動を展開するなかで,具体的には各ラインの課題に沿ったテーマを選定し,多能工化,ムダ取り,見える化,設計部門との連携,バッチ生産から一台流し,物流改善など,多岐にわたった事例を記述していただきました。
⑤三木プーリには,同社が生産する製品は多品種変量で,かつ短納期を要求されているため,その対応に追われて改善活動が進まない状況にあったので,特化したラインで成功事例を得て水平展開することにより成果の拡大を図っている事例を紹介いただきました。
⑥クラリオンには,国内唯一の生産工場として新機軸商品の生産およびマザー向上の役割を担っており,そのなかでの改善活動を他部門からの押しつけによる「やらされ感」から脱却するため,製造現場,製造のプロとの対話を徹底し,生産に用いられる治具や工具の改善,ポカよけシステムの改善に取り組んだ事例を,詳しく記述していただきました。
⑦ソニーセミコンダクタ九州からは,シックスシグマの手法を用いた同社の半導体設備のネック工程の改善について紹介いただきました。
⑧新日本製鐵からは,TOCを用いた分析を基に展開した改善事例を執筆していただきました。工場内で操作されるクレーンなどに代表される大型の物流機器に着目し,その稼動を改善することによりリードタイムと在庫の改善を進める事例を紹介していただきました。
(3)プリズム
①東邦大学・藤田茂先生から,医療現場での改善と,そのなかに存在する課題について執筆いただきました。医療機関の組織体制,患者の個人事情などにより標準化が困難とされるなかで,カルテの電子化,バーコードの導入活用などにより医療活動時に発生する不具合の削減についての事例を紹介いただきました。
②CRCソリューションズの長谷川達哉氏には,少量多機種化にともない複雑化する在庫の置き場に対し,物流効率と面積効率を考慮し,自動的に在庫品を配置するシステムについて紹介いただきました。
③早稲田大学・藤田精一教授には,改善の発展,進化につき,人類の誕生から産業革命,現代に至るまでの経過,そのなかでの提案制度の歴史について執筆いただきました。

4 まとめ

本特集のケース・スタディに一貫することとして,改善の基礎・源泉は現場の第一線にあるということは言うまでもありません。もうひとつ挙げるとすれば,現場を中心とした全体の意思疎通,コミュニケーションが強調されている点です。この視点は,改善活動の発展もさることながら,活動が生産品目,設備,人などが変わることによって,後戻りしないしくみを構築する上での重要なポイントを示すものと考えられます。今回のような事例を多く紹介させていただいたなかで,改善活動に実際に手を染めているオペレータの方々を始めとする現場第一線の方々に光を当てることにより,職場の活性度をより高めていただくことを期待すると同時に,「IEレビュー」の読者に,現場第一線のオペレータの重要性を再認識していただけることを期待しております。
(岡 清彦/企画担当編集委員)