IEレビュー248号 特集テーマのねらい

 生産方式の選択

1 特集テーマのねらい

本特集では,生産方式の選択に焦点を当てました。生産方式というと,受注生産方式・見込み生産方式や,トヨタ生産方式など,かなり広い概念を想定される方もいるかもしれません。しかし,本特集で対象にした生産方式とは,もう少しミクロな意味合いです。各工場で製品別にラインを編成する際に,各製品別の市場動向や製品設計,生産技術的な要件などを加味して,生産ラインの形態をどのように設計し,製品別にライン形態を使い分けているかといったものです。例えば,コンベァを用いたライン生産方式に対して,市場の多品種少量化要求が激しく,生産量の変動が大きな一部の製品に対してセル生産方式を導入するといった例は,本特集が対象にした生産方式の選択事例のひとつです。このように,外部環境・内部環境の様々な理由から,製品別にライン設計のポイントが異なるとすれば,この異なる理由,つまり生産方式の選択基準を明らかにしたいというのが本特集のねらいです。ある生産方式を選択する理由,選択基準は,同じ業界に所属する企業でも異なっており,また業界が異なれば,まったく異なった理由から生産方式の選択がなされているケースも珍しくありません。もちろん,このような生産方式の選択においては,これまでの生産方式を前提として,内在する課題を修正する形で新たな生産方式が導入されるため,まったく新規にゼロベースであるべき理想の生産方式を実現するケースは少ないかもしれません。その意味では,生産方式の選択基準,つまり××の場合には○○の生産方式を選択するというルールが明確に存在する企業の方が珍しいかもしれません。しかし,ある時点で過去を振り返ると,同一製品の生産ラインが外部環境・内部環境の様々な理由から,その形態を変遷させてきており,事後的に生産方式の選択基準をルール化するということはある程度可能なのではないかと考えます。本特集では,なぜ,どのような理由で,生産ラインの設計のポイントが変化してきたか,この変化の背景にあった基本的な考え方はどのように変遷してきたかを整理することで,将来に向けて生産方式の選択基準を明らかにしたいと考えました。

2 テーマの骨子

本特集では,製品別に生産方式を使い分けている事例,もしくは,明示的な形ではないものの,過去を振り返ると,同一製品の生産ラインが外部環境・内部環境の様々な理由から,その形態を変遷・進化させてきている事例を収集しました。後述するケース・スタディを敢えて分類すると,製品別に生産方式を使い分けている事例としては,東海理化・リコーの2ケースが主に該当します。また,同一製品の生産ラインを変遷・進化させてきた事例としては,ローランドディー.ジー.・三菱電機・森精機製作所の3ケースが主に該当します。各社にケースをご執筆いただく際には,以下の観点から記事を執筆してもらいました。
①特定製品の生産ラインの歴史を振り返ると,なぜ,どのような理由で,生産ラインの形態が変化してきたか? 形態変化の背景にあった生産ライン設計時の基本的な考え方はどのように変遷してきたか?
②現時点で考えると,市場特性や製品特性・工程特性に応じて,どのような基準で複数の生産方式を使い分けているか? あるいは今後どのような基準で複数の生産方式を使い分けていくことが有効か?
③生産ラインの形態を変化させてきた歴史を振り返ると,各時点でどのような苦労・工夫があったか? また今後に向けて,各生産方式をそれぞれどのような形で進化させていくか方針か? さらに,このような生産方式の選択におけるマネジメント上の難しさはどのような点にあるか?

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇は,ずばり「生産方式の選択」というタイトルで,MEマネジメントサービスの橋本氏に執筆していただきました。多種多量の小ロット生産を要求される日本のもの作りが,機能別生産からライン生産,セル生産へと生産形態を変遷させてきた歴史を振り返り,その背景や変遷の根拠を整理することで,求められる市場特性や製品特性・工程特性に応じて,どのような基準で3つの生産方式を使い分けていくことが有効か,また,今後めざすべき生産方式のイメージとはどのようなものかといった諸点について明確な方向性を示していただきました。生産方式の選択基準としては,品種数と生産量,工程数,コストといった基準が挙げられ,また今後の生産方式として,類似要素を集めて変化は後工程にもっていくというネットワーク生産方式の概要について記述していただきました。
(2)ケース・スタディ
①東海理化の鳥居氏には,音羽工場におけるキーセット生産の多種混流組立ラインを量産品生産と少量品生産の2つの生産ラインに分けて再構築した事例についてご紹介いただきました。「がんがんライン」と名づけられた量産品ラインでは,物の流れを阻害する要因を排除し,徹底的な作業改善を進める一方で,「何でもこいライン」と名づけられた少量品ラインでは,何でも1個単位で作る多品種少量の受注生産に取り組みました。
②リコーの永田氏には,生産のフレキシビリティ向上をめざした御殿場事業所における生産方式の変遷についてご紹介いただきました。1985年の操業当初は,量を確保できる生産方式として1本の長い大蛇のようなコンベア生産が志向されました。その後,’90年前半には,コンベアを使用しながらも,生産量の変化に柔軟に対応するため,生産量を固定した固定ラインと,熟練工を配置して柔軟に生産量を変更する変動ラインの2つの生産方式が志向されました。また,’99年以降は,生産品種がさらに多く,生産量の大きな変動に対応するため,セル生産が導入されました。現在では,生産量や品種数,生産変動幅,製品の大きさ・重さなどに合わせて,複数の生産方式のなかから適切な方式を選択するようになっています。
③ローランドディー.ジー.の関氏には,従来の「デジタル屋台」による1人1台生産の進化形として,さらなるフレキシビリティを求めた「D-Shop」という新しい生産方式についてご紹介いただきました。
④三菱電機の服部氏,中川氏には,コストダウン・短納期生産が要求されるなかで,業務用空調機のモデルチェンジに合わせて,台車の上で組立をしながら移動する台車生産方式を導入した事例,また主力製品の構成部品である分流コントローラーの一貫生産ラインの構築事例についてご紹介いただきました。
⑤森精機製作所の水口氏には,重厚長大なNC工作機械の製造ラインにセル生産方式を導入した事例についてご紹介いただきました。セル生産方式の導入にともなって,スキル管理表により多能工化を促進し,全社員にBHT(Bar code Handy Terminal)を導入して,部品の入荷検収作業からピッキング作業までの一連の作業に対して実績管理を行うように変更しました。
(3)プリズム
今回のプリズムでは,生産方式の選択にともない,実際に工程設計を行ったり,在庫戦略を立案する際に有用なソフトウェアをご紹介いただきました。まず,①伊藤忠テクノソリューションズの松本氏には,最適な工程設計を行うためのWITNESSというダイナミックシミュレータについてご紹介いただきました。また,②構造計画研究所の錦戸氏には,製品の需要動向を需要量と需要の繰り返し性の2つの軸から分類することで最適な在庫戦略を立案するOptStockというシステムについてご紹介いただきました。
以上,5つのケース・スタディと2つのプリズム記事を見ると,各社が採用している生産方式の選択基準,あるいは各社が生産ラインを変遷・進化させてきた理由として,生産量や品種数,生産変動幅などの外部環境要因とともに,工程数や製品の大きさ・重さなどの内部要因が挙げられ,各社各様で様々な工夫を行いながら最適な生産方式を模索している姿が浮き彫りになりました。また,企業が最適な生産方式を模索する背景には,様々な有用なソフトウェアが存在していることも実感できました。読者の参考になれば幸いです。
(坂爪 裕/企画担当編集委員)