IEレビュー249号 特集テーマのねらい

 変化の時代の品質保証

1 背景

長く続いた不況をくぐり抜け,ようやく明るさの出てきた日本経済ですが,コスト削減を進める過程で,これまで多くの製造メーカーが構造改革を実施してきました。開発・生産要員の削減や採用の抑制,生産部門のアウトソーシング,派遣社員活用の増加など,モノづくりの構造はここ10年で大きく様変わりしました。かつては,同じ文化,同じ教育や経験を共有する正社員により,閉じた環境のなかでモノづくりが行われてきましたが,今や,文化も考え方も異なる非正社員と協業し,またはアジアのEMS企業への生産委託など,世代も所属する会社も,意識も異なる集団によってモノづくりが行われています。また,製品のライフサイクルは年々短くなり,モノづくり現場での教育・指導にかける時間的余裕も少なくなってきました。一方,ITやデジタル技術の進展にともない,情報管理の高度化というプラスの面も進化してきました。こうした環境変化のなかで,最近では,過去にはなかったような重大な品質事故やトラブルが頻発しており,優位性を誇ってきた日本の品質の土台が揺らぎ始めているのではないかと指摘されています。

2 特集のねらい

モノづくりの環境変化に対し,各企業は様々な対応を行っています。派遣社員やパートに対する高効率な教育方法,不良を後工程に送らないポカヨケ,作業ミスを防止する生産設備の工夫など,生産現場での各種の知恵と工夫により,高品質が保証されているケースが多く見られます。本号では,単なる品質改善活動ではなく,モノづくりの環境変化に的確に対応した品質改善活動に焦点を当て,その対応の考え方を含めて参考となる事例を紹介して頂き,読者企業に何らかの有効なヒントを提供できる特集号にしたいと考えました。

3 特集の切り口

前述した通りモノづくりの環境変化は,例えば,
(1)派遣社員やパート従業員の増加
(2)生産工程の一部請負化
(3)ベテラン社員の減少によるモノづくりノウハウの弱体化
(4)アジアのEMS企業への生産委託などの水平分業の増加
(5)製品ライフサイクル短縮化にともなう,現場での教育・指導の時間的余裕の減少
(6)顧客ニーズの多様化による市場要求品質の高まりなど多岐にわたり,今まで以上に生産現場における品質確保が難しい状況となっています。
こうした状況変化のなかで,きちんと品質保証を行い,かつ,生産リードタイムやコストも合わせて改善するためには,従来と異なる発想の転換を図り,地道な改善努力を積み重ねていくことが必要です。
一例を挙げると,
①派遣社員やパート従業員に対する,採用時の適性検査や効率的な指導
②生産設備や治工具におけるポカヨケの工夫
③ビデオや音声などを活用した作業指導
④モノづくりノウハウ伝承の工夫
⑤生産工程の一部請負化やEMS企業への生産委託などにおける品質管理の工夫
⑥不良品を後工程に送らない仕組みの工夫
など,各々の企業が独自の工夫を凝らしています。
各企業が様々な状況変化に対し,いかに品質保証体制を改善し,構築してきたのか,その考え方や苦労した点などを中心に,記事の執筆をお願いしました。

4 記事について

(1)論壇
東京大学の飯塚悦功氏に,変化の時代の品質保証について論じて頂きました。1980年代TQCによって日本は優れた品質保証体制を築き上げたが,その後の社会・経済のパラダイムシフトに対応できず,構造改革の遅れにより品質立国日本の相対的地位が下落していると指摘しています。その対応策として変化の時代の品質保証の課題と題して,戦略的品質保証,企画能力,検証・評価能力,ソフトウェア技術力,SCM,技術者普遍化技術,技術者能力育成,人材育成など8項目を挙げています。日本の品質が,歴史的に見てどのように変遷してきたのか,そして今何が課題で何をすべきなのかについて,筆者の鋭い視点が論理的に述べられており,多くの読者に極めて参考となる内容となっています。
(2)ケース・スタディ
①KYBの中田氏には,組織横断活動による上流を巻き込んだ改善活動やQCサークル活動活用について,ご紹介頂きました。同社は,異文化派遣社員の増加を踏まえ,誰がやっても間違いない製造システム構築をめざし,管理・設計,生産技術,製造,品質保証の全組織横断チームを結成し,一致協力して課題解決に当たっています。
②山形カシオの佐竹氏には,成形・金型工場におけるデジタルネットワークシステムの活用について,ご紹介頂きました。同社は,顧客ニーズの高度化・多様化,ライフサイクルの短命化に対応すべく,金型製作~成形量産までの生産情報をデジタル化し,ネットワークのなかで徹底して活用するデジタルネットワークシステムを構築して,LT,品質の大幅改善を実現しました。
③住友電気工業の戸川氏には,材料型製品における進化し続けるモノづくりについて,ご紹介頂きました。横軸に経過時間(LT),縦軸に累積発生原価を使用したLV分析による停滞,運搬,転記,探しなどのムダ取り,また横軸に前工程,縦軸に当該工程の工程終了日時をプロットしたFIFO(First-In First-Out)図による工程間停滞,遅れ,追い越しなどの問題対策などにより,コスト,LT,品質の改善を図っています。
④オムロンリレーアンドデバイスの中村氏には,TPMとSPCの融合による歩留り100%への挑戦についてご紹介頂きました。TPM活動により個々の設備精度の確保と維持を図り,SPC(統計的工程管理)で部品と人のスキルのバラツキを最小化することにより,品質向上を図っています。
⑤コマツの野路氏には,グローバル同時生産・販売について,ご紹介頂きました。基本車両の部品表を全世界でひとつの情報としてまとめたグローバル部品表,生産技術の開発・標準化とこれを海外各工場に迅速に移管する役割を担うマザー工場制度,全世界に調達ルートを広げ実力のある専門メーカーから一括して調達するシステム構築などにより,世界同一品質製品を各拠点から供給できるシステムが構築されています。
(3)テクニカル・ノート
エス・ピイ・エス経営研究所の武田仁氏から,ポカヨケ・マネジメントについて執筆して頂きました。卓越したポカヨケレベルを実現するには,3つの構成要素(ハードウェア編,ソフトウェア編,ヒューマンウェア編)を取り込むことが必要であると述べられています。
(4)プリズム
今回の特集テーマに関連したフレッシュな話題提供として,4つの寄稿を頂いています。①ヤマハ発動機の江口氏から,品質13原則の制定と運用について執筆頂きました。工程内不良の原因は13項目に分類され,これを現場で徹底して守ることで品質改善を図っています。②NTTデータの斎藤氏からは,情報システム開発のプロセスの改善・安定化について執筆して頂きました。プロジェクトマネジャーが確実に実施すべき事項を段取りよく行うためのチェックリストや,お客様と事前にシステム開発プロセスの共有化を図るプロセス透明化の取り組みが展開されています。③社会保険労務士の中屋裕仁氏には,多様化する労働形態と題して,派遣と請負の違いなどについて解説して頂きました。④社会経済生産性本部の鵜野沢氏には,変化の時代の経営品質として日本経営品質賞について解説を頂きました。
原稿を読み終えて振り返ると,冒頭に述べたモノづくりの環境変化にいかに対応していくかについて,各社で様々な工夫が見られます。2007年問題の山場を迎え,環境変化は今後ますます激しさを増し,さらなる対応が求められます。少しでも読者の参考になれば幸いです。
(松谷 滋/企画担当編集委員)