IEレビュー251号 特集テーマのねらい

 IE in アジア

1 背景

近年,「世界の工場」として急成長した中国への国内製造業の進出も一段落し,アジアではインド,ベトナムなどに生産拠点が拡大している。アジア生産においては安価な労働力を求めるだけでなく,現地向け生産により,販売の拡大に結びつける販路拡大などの戦略としての進出が定着してきた感がある。一方では国内で新たな投資を行い,新工場を建設し,開発から生産までを一貫の流れとして捉えビジネスチャンスに備える体制をとる企業もある。グローバル化と国内生産についての位置づけが明確になり,それぞれの棲み分けを戦略に結びつけている企業の活躍が目立ってきた。アジアヘの生産展開については,独自の生産体制を作ってきた企業の例やセル生産をアジアでも展開している企業など,国内で培った生産体制作りを現地のモノづくり,文化,人,習慣などにあわせ試行錯誤のなかで工夫を凝らし地盤を固めてきている事例が多い。また,現地でQCサークルなどの改善活動を行っている企業も数多くある。当協会で昨年に主催した中国・ベトナム調査団でも,現地企業を訪問し生産活動の状況を視察し,各企業の生産活動の実態に触れている。

2 特集のねらい

IEの定義を確認すると,次のように記されている。「IEは,人間,材料および設備が一体となって機能を発揮するマネジメントシステムの設計,改良,設置をすることである。前記システムの成果を規定し,予測し,評価するために,数学,自然科学,人文社会科学の中の特定の知識を利用するとともに,技術上の分析と総合についての原理と手法を併用するのである」(日本IE協会)。前述の企業の例は,まさにアジアでのIEの展開と言える。今回,グローバル化のなかでアジアにおいてのIEの活用について焦点を置き特集を組む。今号では,アジアでの生産活動において,文化・意識の違い,コミュニケーションの難しさなどの問題に直面し,その解決について,国内で培ったモノづくりの考え方を現地のモノづくりと融合させ体制を構築した企業の具体的な事例を元に,アジアヘのIEの展開を検証する。

3 特集の切り口

アジア地域に生産拠点を構えモノづくりの体制を構築する際に,多くの場合は各地域の国柄,文化,法律・宗教などの違いなどを考慮しながら導入のプロセスを組んでいく。そのプロセスのなかでは,ぶつかる様々な壁,その地域の考え方,現地の従業員の価値観などに合わせてたいへんな苦労をともないながら,それを変化させ,具現化していく。そんな苦労を乗り越えて各企業が国内で培ったモノづくりをトランスファーし,生産の地盤を構築している。アジアの工場における現場改善の事例紹介のなかから,上記のような苦労,工夫により生み出された改善事例を紹介する特集を組んだ。現地で持ち上がった課題,それを解決していくためのステップ,具体的な改善事例を日本のIE,改善活動との対比,各国特有の事情や日本のやり方との違い,工夫,苦労などと併せて記事の執筆をお願いした。

4 記事について

(1)論壇
立命館大学の善本哲夫先生には,アジア力という言葉を用いアジアのなかでの国内製造業の拠点造りと分業設計について論じていただきました。日本企業のアジアでのモノづくりの変遷と生産現場で重視するモノづくり姿勢が「現場を育てること」にあること,それを実践してきた日本企業の作り上げてきた生産体制について書いていただきました。ASEAN圏と中華圏の2つの地域を「アーキテクチャの地政学」をベースにモノづくりを考察し,日本のモノづくりのアジアとの相性,強みを活かすパターンについてまとめていただいています。
(2)ケース・スタディ
①日立(中国)有限公司の堀水氏からは,’04年に上海と深圳に開設された「モノづくり技術センター」を中心に,同社のモノづくりを中国に展開する「モノづくり伝道師」の育成と「モノづくり改革」が紹介されています。現場の問題として指導者の育成が間に合わないという課題について,モノづくり改善活動を通して育成していく取り組みは参考になる企業が多いと思います。
②オムロンの関坂氏には,深圳の生産現場でのIE手法を活用した改善の実際の事例についてご紹介いただきました。TPM活動とIE活動を2つの柱とし,グローバルNo.1のローコストオペレーション工場の実現をめざした活動を現場視点で書いていただきました。
③YOKOHAMA TIRE PHILIPPINES.INC(YTPI)の野地氏からは,日本で展開してきた生産マネジメントの取り組みとそれを赴任先のフィリピンで展開した体験が紹介されている。フィリピンでの取り組みでは,IEグループなる組織メンバーの活動と,現地の社員との人間的なやりとりも含めて現場視点での事例が紹介されています。
④東レの丁野氏からはインドネシアのEASTERNTEX社を舞台に,小集団活動を軸とした生産改革について述べられています。生産競争力を支えるヒトづくりに注力し,小集団活動による改善をベースにした自助努力の積み上げによる現場力の強化と,革新織機による強固な生産基盤の構築についての事例が紹介されています。
⑤タイの工場での生産性向上のコンサルティングの状況を,MEマネジメントサービスの橋本賢一氏から報告して頂きました。生産性の評価を簡易に見えるようにし意識を高めていく事例やQCストーリーの展開からはパレート図を使っての課題の絞り込みなど,生産性向上活動をいかに現地に受け入れてもらうかについて書いていただきました。
(3)レポート
①日本IE協会・インド調査団の報告では,2006年度の海外モノづくり調査団として,現地で活躍する代表的なモノづくり企業の実態について視察した体験を,レポートして頂きました。インドの製造業を取り巻く環境について解説され,IE活動の取り組みや人材マネジメントについて報告いただいています。
②AOTSの牧氏にはインド人技術者・管理者対象の日本における管理研修についてご紹介いただきました。インドでの製造業,特に自動車産業を中心とする製造業の特色について述べていただくとともに,インドから日本の製造業の何を学ぶのかを解説していただきました。
(4)座談会
編集委員5人が座談会を開きましたが,いろいろと面白い意見が出ました。各自一考を要する示唆に富んでいると思います。
(5)プリズム
①日通総研の大出氏からは,ASEANのクロスボーダー輸送についての最新の状況が,レポートされています。国境を越える輸送が簡素化できればメリットは大きくなります。今後の期待や課題とされている点など,参考になる点が多い内容となっています。
②JIPMソリューションの中村氏からは,アジアでのTPMの歴史とそれが受け入れられた背景について,また,アジア地域でのTPM活動の今後の課題と方向性について興味深く述べられています。
③JETROの江原氏からは「世界の工場」と言われた中国の最近の動向が触れられています。中国の魅力の変化,M&Aによる産業の再編や中国企業の海外展開により,今後さらに変化していく状況についてレポートしていただきました。

5 まとめ

英語をそのまま日本語のなかで使う例が,新聞の見出しやテレビのテロップに最近増えているらしい。この現象は,昔の和漢混交文になぞらえ「日英混交文」と呼ぶ学者もいるということである(『朝日新聞』2007年5月2日)。今回の特集テーマ「IE in アジア」については,それを意識しての命名ではないが,後でこの記事を知って興味深く感じた。その記事には,「日本語と英語は,どこまで交じり合うのだろうか」と結んであるが,特集テーマから考えると「日本のモノづくり」が,「アジアのモノづくり」とどこまで交じり合うであろうか? これからの変化が,楽しみである。
(加山 一郎/企画担当編集委員)