IEレビュー252号 特集テーマのねらい

 間接業務改善とIT

1 本特集テーマの狙い

製造現場の改善活動は,十分とは言わないまでも,現段階でかなり進んでおり,日々様々な活動が活発に展開されています。しかしその一方で,間接業務に目を転ずると,改善の余地は未だ数多く存在しています。間接業務の改善は,判断や意思決定などの付加価値作業が第三者から見えない,非定型業務の割合が多く標準作業や標準時間という概念がない,同時並行作業が多く停滞が多いために仕事のプロセスがわかりにくいなど,製造現場の改善と比較すると,難しい面も数多く存在するため,なかなか改善が進展しないと言われています。このようななかで,特にIT(情報システム)の活用のされ方に焦点を絞ると,ユーザー部門では様々な問題点を抱えています。ユーザー部門で抱えているITに絡む問題点としては,以下のような点が挙げられます。
・現場の業務とシステム機能が適合していないため,例外処理を多用しないと業務が回らない。
・システム修正の要求を挙げても,修正までに長い時間がかかるため使えない。
・不必要な画面やメニューが多い,また利用していないレポート・帳票が山のように出力されて困る。
・ユーザー部門では利用しないデータなのに入力しなければ処理が完結せず,入力の手間がかえってかかる。
・業務プロセスの改善を抜本的に行いたいが,システムの変更に制約があってボトルネックになっている。
従来,企業経営において,ITが論じられる文脈をみると,システムの開発・導入過程におけるプロジェクト・マネジメントの面が中心であり,実際にシステムを導入した後にユーザー部門で発生している様々な問題点やムダを地道に取り除き,解決していく際の苦労や工夫が前面に取り上げられることは少ないと感じています。しかし,実際の企業現場で苦しんでいることは,情報システムの導入そのものではなく,むしろ上述したような導入後の様々な不具合を修正しつつ,ユーザー部門で間接業務の効率化を図っていく改善活動そのものではないかと考えられます。

2 テーマの骨子

そこで,本特集号では,ITを中心に据えながら,ユーザー部門がこれをどのように活用して,間接業務の改善を行っていけばよいかというテーマを設定しました。ここで言う間接業務とは,人事や経理などの本社部門や,営業・開発・設計などの諸部門に加えて,生産管理部門などのいわゆる製造間接部門も含みます。ITを活用しながらユーザー部門主導で間接業務改善を行っている事例として,本特集号では,以下2パターンの事例を想定してケースを集めました。
①ひとつ目のパターンは,情報システムを導入したものの,ユーザー部門では当初期待した効果が得られなかったが,その後,様々な苦労や工夫をしながら,情報システム部門と連携してこのシステムを修正・活用したり,ユーザー部門の業務を抜本的に改善してシステムに合わせるなどして,使いこなしている事例です。
②2つ目のパターンは,最初からユーザー部門主導で情報システムを活用しながら間接業務改善を行った事例です。例えば,市販のアプリケーションソフトを活用しながら,ユーザー部門主導でシステムの開発を行い,ユーザー部門自らがシステム機能の修正・カスタマイズを行い,使いこなしている事例や,スクラップ・アンド・ビルドを前提に安いパッケージ・システムを導入し,シンプルな機能のみを使いこなして,間接業務改善に繋げている事例,また場合によっては,既存のシステムとは別に,新たに紙ベースの業務プロセスを部門独自でゼロから構築して改善成果を挙げた事例などです。
ご執筆頂いた各記事は,必ずしも上記2タイプにきれいに分類できるものではありませんが,本特集号の当初の意図は以上のようなものでした。

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇は,ずばり「間接業務改善とIT」というタイトルで,慶応義塾大学の金沢孝先生にご執筆いただきました。ITを活用した間接業務の生産性向上を図るためには,①標準化から業務改善へ,②正味改善から付帯改善へ,③データ処理から情報処理へ,④BatchからReal-timeへ,⑤品質・コストからスピードヘ,⑥外国流から日本流のスタッフヘ,⑦業務改善からWorkflow改善へという7つのパラダイム・シフトが,必要であることを論じていただきました。その上で,直接業務と同様のIEアプローチで間接業務を改善することは,間接業務の作業が様々で知的作業であることから,現時点では無理であり,今後の課題とした方がよい点,また,だからといって間接業務の改善をあきらめる必要はなく,7つのパラダイム・シフトのなかに間接業務改善のヒントがある点,さらに,ITを活用した間接業務改善というアプローチは,改善を知っているIErがITを勉強すれば可能である点をご指摘頂きました。
(2)ケース・スタディ
①NECの若井氏には,情報システムの改善は,モノづくりの現場である生産現場の改善・改革活動と連携しながら進めることが重要である点を,豊富な事例を交えてご執筆頂きました。「モノづくりの仕組みが変わると求められる情報システムが変わる」「改善の進み具合で求められる情報システムが変わる」「改善の成果によって求められる情報システムが変わる」という主張は,当たり前のことであるようで,改めて再認識すべき示唆に富む重要なポイントであると感じます。
②東北リコーの八重嶋氏・馬場氏には,肥大化した間接業務の可視化と効率化を図るための方法として,ABC/ABM手法のアレンジによる業務改善事例についてご執筆頂きました。間接業務の実態把握を行い,業務の結果が確実に価値=成果に結びついているかを分析して,各業務をVA(付加価値活動)・NVA(非付加価値活動)・SVA(戦略的付加価値活動)という3つに分類して改善対象の絞り込みを行っていく手法を,豊富な改善事例とともにご紹介頂きました。
③富士通の高鹿氏には,3次元データを活用するVPS(Virtual Product Simulator)について解説頂きました。3次元CADを利用してデザイン・レビューを行う場合,製造部門や保守部門に対して,その場で3次元データを示しても,どこに問題点があるかを即座に指摘してもらうことが難しいため,関連部門に対して事前にVPSで検証してもらい,その結果を持ち寄ることでデザイン・レビューを行う取り組み事例についてご紹介頂きました。
④パナソニック コミュニケーションズの菊地氏には,動画・音声によるわかりやすい製造指示書(=動画マニュアル)について解説頂きました。動画マニュアルを適用することで,新人の導入研修期間の短縮,高度技能伝承の引継期間の短縮,生産の垂直立ち上げの実現が図れることを,松下グループの取り組み事例を中心にご執筆頂きました。
(3)レポート・プリズム
①タッセ企画の高瀬親史氏には,ワークサンプリング観測法を用いてデータの集計・分析を行う際にエクセルを活用する事例についてご紹介頂きました。②KCCSマネジメントコンサルティングの青木氏には,会社組織を細かく分割し,それぞれの組織の成果をわかりやすく示すことで全社員の経営参加を促すアメーバ経営を支えるための情報システムについて論じていただきました。③医療法人五星会・菊名記念病院の和田氏には,従来紙で記録していた診療録を電子化する電子カルテを導入することによる業務効率化についてご執筆頂きました。④産業能率大学の斎藤文先生には,経営とITの両面に精通し,企業経営に最適なIT投資を支援・推進することを目的に設立されたITコーディネーターについて解説して頂きました。
(4)会社探訪
本特集号では,会社探訪として,慶応義塾大学の稲田先生に山本精工の事例をご紹介頂きました。同社は,IT技術を積極的に活用することで人的能力を最大限に引き出し,多種少量の精密加工品を超短納期で生産しています。
以上の論壇・ケース・スタディ・レポート・プリズム・会社探訪が,間接業務改善を推進する読者の参考になれば幸いです。
(坂爪 裕/企画担当編集委員)