IEレビュー253号 特集テーマのねらい

 わが社の生産革新活動

1 生産革新活動のトレンド

今日,日本経済の成長が鈍化するなかで,多くの企業で生産革新と呼ばれる活動が展開されている。しかし,生産革新という言葉は,すでに20年以上前から使われているものである。日本企業における生産革新活動のさきがけは,トヨタ生産方式の出現であろう。生産現場を中心としたモノづくりの改善が叫ばれるなかで,生産革新活動の最初の大きなうねりは1980年代半ばに起こった。日本の経済成長の鈍化と,作れば売れる大量生産大量消費時代の終焉とともに,多くの企業で生産革新活動が始まった。高度成長時代の大量生産体制から,多様化する市場の要求に応える生産体制への革新に迫られたからである。市場の要求に対応するため,ストックレスでタイムリーな生産体制の構築をめざして,少品種大量生産から多品種少量生産への体制革新が行われた。このうねりが,第1次の生産革新活動期といえるものだろう。’80年代の後半から生産のグローバル化が進み,’90年代に入ると安価な労働力を武器とする東南アジア,そして中国への生産移転が加速した。海外への生産流出にともない,日本国内の生産空洞化が進むとともに生産革新活動のうねりは小さくなった。日本のモノづくりへの自信喪失と関心の薄れがあったためだと考えられる。しかし,’90年代後半に入ると,日本モノづくり崩壊の危機感から,生き残りをかけたモノづくり革新の動きが顕著になってきた。日本でなければできないモノづくりを創出することをねらって,生産革新の新たなうねりが現れ,現在もそのうねりは大きくなり続けている。まさに,第2次生産革新活動期を迎え,モノづくりへの自信の取り戻しと関心の高まりが顕著になってきている。

2 生産革新とは何だろう

第1次の生産革新活動の主流は「多品種少量生産」だが,そこには各社により様々な取り組みがあった。一方,第2次の生産革新活動では「セル生産」「屋台生産」が代表的イメージとなり,変種変量生産というキーワードも定着した。しかし,それぞれの会社の生産革新活動を見てみると,表に現れる生産方式は独自の工夫にあふれており,それは多様な革新への取り組みによって支えられている。したがって,「生産革新とは○○だ!」と安易に決め付けることはできない。革新・改革・改善の違いについても,取り組む企業によって,その考え方は異なるだろう。だから,それぞれの会社に「わが社の生産革新」があり,それぞれ特徴を持っていて,キラリと光るものがあるに違いない。生産革新は多様で広範な活動である。

3 特集のねらい

第1次,第2次を問わず,本特集では「わが社の生産革新活動」を紹介する。そのなかで,わが社の生産革新とは何か,活動成功の要因・秘訣,活動によって得られた成果を紹介していただく。そこで,できるだけ多様な事例を紹介したい。そして,様々な事例のなかから,読者が生産革新とは何かを考え,イメージを作ることができる土台を提供することをねらった。

4 特集記事について

(1)論壇
セル生産方式の名づけ親であるワークセルコンサルティングの金辰吉氏に,生産革新の原理について論じていただいた。筆者が学生時代に学んだトヨタ生産方式,ソニーでの米国赴任時代に接した日本的経営ブーム,ドラッガー著『現代の経営』を通じて改革の原理が分り易く述べられている。特に,ドラッガーの著書がセル生産の原点を訴えていることが強調されている。そして,IEの教祖の1人でもあるテイラーの科学的管理法の盲点とそれに対する「ムサシモデル」が論じられている。なるほどと感じる内容である。「IEレビュー」236号(2004年8月)の論壇の続編と筆者も位置づけられており,合わせ読んでいただくと,さらに理解が深まると思う。
(2)ケース・スタディ
①キヤノン
CPS(Canon Production System)と呼ばれる全社的改善活動が’80年代中頃から停滞期に入った。その真因をきちんと分析し,’90年代後半から,生産革新を再スタートした事例が紹介されている。JIT生産への挑戦とベストセル生産の確立という2つの革新テーマの推進が紹介されている。セル生産を導入していったプロセスと改革成功のキーが興味深い。
②NEC
モノづくりの現場だけでなく,調達から顧客への納品までのプロセス全体の改革が紹介されている。顧客を基点としたプルの仕組み(BTO)で,製品在庫を持たない生産方式を構築している。そして物流網を全事業が共同利用する物流改革,セル生産から後引きを徹底した混流ラインヘ切り替える生産革新,顧客への一括納入を行うデリーバリー改革が分り易く解説されている。
③大同特殊鋼
装置産業である特殊鋼の生産革新が紹介されている。組立とはまた違った興味を惹かれる内容である。国際競争に勝ち残るために,DMK(大同モノづくり改革)を実施している。本稿では事例が2つ紹介されている。上流工程の品質改善,設備の故障排除,設備のサイクルタイム短縮,短段取,それらの見える化が徹底して行われている。
④エクセディ
非常に品種の多い自動車用トルクコンバータの生産革新が紹介されている。増大する生産量と多品種への対応のため,段取作業の効率化,生産ラインの整流化が実施されている。また,設備のダウンサイジングにより,増産に必要なスペースを確保した事例も紹介されている。
⑤安川電機
インバータの新商品開発に合わせ,設計,生産をコンカレントに改革した事例が紹介されている。組立やすい製品設計と生産改革が並行して実施されている。プリント基板の自動組立工程の工程連結,手実装工程のセル生産化,組立ラインにセルモジュールという作業単位を簡単に入れ替え可能なモジュールの導入やセル化という工夫が面白い。
(3)プリズム
まず,①松下電器産業から「工場見える化システム」を紹介していただいた。天井に設置したシステムカメラにより,生産ライン,在庫を見える化し,多様な改善に結び付けようというものである。次に,②石井食品から物流における履歴管理の事例を紹介していただいた。最近注目されている食品の安全を守るということのみならず,食品以外の商品にも同じ考え方が応用できる。

5 生産革新成功のキー

今回の特集では,生産革新への多様な取り組みが紹介されている。活動内容は業種やその企業のおかれている状況で異なるが,成功の要因・秘訣はすべての事例を通して共通だと感じた。村松教授が述べられたトヨタ生産方式を本当に理解するために必要なこととして論壇で金氏が紹介されていることが成功のキーだろう。以下に引用させていただく。第1は,生産方式に対するトップの理念。これがしっかりしていないと改革が迷走するし頓挫する。第2は,この理念を実現するための組織づくり。改革をリードする有能で適切な組織が必要なことは,疑いがない。第3は,理念と仕組を支える理論・方式。改革の理念を論理的に展開し,改革の具体的手法・手段が必要である。第4は,全員の理解のもとに20年にわたる数多くの事例の積み重ね。改革がDNAとして全員に植え付けられることが必要である。以上の4つの条件は,改革が成功し継続するためにすべて必要である。特に第4の条件が改革を永続させるために重要だと思うが,また最も実現が難しい条件でもあると感じている。
(五十山田 俊/企画担当編集委員)