IEレビュー256号 特集テーマのねらい

 付加価値に着目する

1 はじめに

仕事の生産性を向上させるための方法として,ムリ・ムダ・ムラに着目する方法,人や設備の稼動に着目する方法など,従来からいくつもの方法が提案されてきた。本特集では,これらの方法とは異なるひとつの着眼として「付加価値に着目する」方法を取り上げ,その方法について事例を通して紹介することをねらいとする。本特集は従来の方法と比べて「付加価値に着目する」方法を紹介するものではない。最近の様々な要求が求められるモノ作りのなかで,「付加価値に着目する」ことで,新しい改善のための着眼点や切り口,今までとは違った効果を生み出す改善案やアイデアの導出ができるのではないか? このような思いを込め,編集委員会で企画した特集である。付加価値という言葉を辞書で引いてみると,「生産過程で新たに加えられた価値。一定期間の総生産額から原材料費・燃料費などと減価償却費を差し引いたもので,人件費・利子・利潤の合計になる」とある。また,付加価値という言葉は,もの作りにおいていろいろな使い方をされる。例えば,「高付加価値設計」,「工程のなかの付加価値を生み出す部分(加工点)」,「付加価値を高めたサービス」,「付加価値物流」などである。上記のように付加価値という言葉はいろいろな意味をもつが,本特集では大枠として,以下のように付加価値をとらえることにする。まず,付加価値の適用領域を,生産プロセスと,サービス,物流,設計などのそれ以外のプロセスとに分けることにする。生産プロセスにおける付加価値とは,プロセスのなかで「ものが変化するところ」,「直接加工されるところ」とする。そして,それらの変化に着目して付加価値が高くなるように工程や設備,作業を改善する方法と事例を取り上げることにする。このようにとらえてみると,付加価値に着目すると,それ以外の付加価値を生み出さない変化や作業が削減される。また,付加価値を生み出す部分を改善するためには,工程のなかでものを直接加工する技術や設備に踏み込むことになるので,今までとは一味違った固有技術に一歩踏み込んだ方法となる。それ以外のサービス,物流,設計などの仕事では,これらのプロセスのなかで何が付加価値を生み出す作業になるのかを明らかにすることが重要と考える。これらの定義は,様々なものがあるだろう。例えば,サービスのなかでは,直接顧客の要件を満足することにつながる作業が付加価値を生み出す部分になるかもしれない。これらの仕事では,それらを定めることで余分な作業が排除されたり,利益や価値を生む新たな作業が生み出されることになるであろう。さらには,仕事自体の質や作業者のモチベーションの向上にもつながるように思える。

2 内容

本特集では事例の紹介というのではなく,付加価値に着目した方法を中心に述べていただいた。方法について紹介していただくために,以下の点に注意をして,記事をまとめていただいている。
①なぜ,付加価値に注目したか(今まで解決されていなかった課題は何か)。
②付加価値をどのように定義しているか。
③付加価値に着目した具体的な方法とその適用事例。
④他の方法とは異なる効果や特徴。
各記事をみていただくとわかるように,それぞれの企業で様々に付加価値のとらえ方が変わる。以下に,各記事での付加価値のとらえ方を中心に簡単に記事の紹介をさせていただく。

3 特集記事

(1)論壇
慶応義塾大学/中村善太郎
論壇では,わが国の製造業のマクロな環境変化に適応するために,付加価値に着目する必要性を示していただいた。付加価値を,「製品価値(商品価値)」とその製品に使われる「素材の価値」との差であり,素材を製品に変える過程で素材に付加される価値と定義している。付加価値に着目することで,良品条件が明らかになり品質改善ができること,付加価値に着目した現場での改善方法について,事例も交え解説いただいた。
(2)ケース・スタディ
①日産自動車/藤井一郎
日産生産方式(NPW)のコンセプトである「限りないお客様への同期」と「限りない課題の顕在化と改革」のなかで,「お客様に対価をいただける付加価値」に着目した方法の紹介をしていただいた。改善活動を行うにあたり,目的に応じて「マクロに付加価値をみる」,「工程・作業・動作にみる付加価値」,「作業・動作改善における付加価値」と分けて適用する方法,さらには付加価値だけで行うモノづくりのために低付加価値作業を付け加えてゆく方法を示していただいた。
②愛知機械工業/瀧田高久
’85年にキックオフした「TPM活動」から現在の「同期生産(日産生産方式)」の活動に至るまでの取り組みのなかで常にこだわり続け,狭義の意味でTPM(Tool Point Management)と称した「加工点管理」の考え方について紹介していただいた。
③ニッセイ/吉田誠一・産業能率大学/斎藤文
成熟市場において「短納期と低コスト」が自社の付加価値であるという事例を紹介していただいた。初めに,価値のある仕事は何か,価値を生まない仕事は何かを定義し,「価値をうまない仕事」がどこにあるかについて現状分析を行う。次に,「価値をうまない仕事」は徹底的になくす。そして,「価値を生む仕事」についてさらにその価値を大きくする方法について示していただいた。
④セキソー/加藤晴男
生産現場において付加価値を明らかにし,品質を向上するために,設備のなかの「ワークヘッド」に着目し,それらを用いた良品条件の追求を紹介していただいた。ワークヘッドとは,対象の「もの」(ワーク)に接触などして直接的に力やエネルギーを作用し,基本変換(加工点)を実現する働きをする手段の「もの」である。「ワークヘッド」を用いた良品条件を追求する具体例,さらには,生産現場でそれらを設備化(治具化)するために,「ワークヘッド」や「位置決めガイド」で構成された治具を「ヘッドユニット」として,品質の造りこみや共通化の事例を示していただいた。
(3)プリズム
①世田谷区役所/清水昭夫
世田谷区における付加価値とは,そこで暮らすことに喜びを感じ誇りを持っていただくことだと定め,その上で活動されている「すぐやる課」の事例を紹介していただいた。
②いでした内科・神経内科クリニック/井手下哲郎
クリニックにおける顧客満足のなかで最も大きな要因は待ち時間が短いことであるととらえ,受付から診察終了までの時間で80%が30分以内という改善を進められた事例を紹介いただいた。
③東芝物流/脇田哲也
「物流の付加価値とは何か?」この問いかけに対し,経済のグローバル化が急速に進み,物流のトータルリードタイムが非常に長くなっていること,その状況でのメーカー物流での高付加価値戦略を紹介していただいた。
(4)座談会
本特集は,編集委員会からのひとつの切り口の提案である。我々が本特集を企画するにあたり,付加価値についてどのようにとらえたか,付加価値の見方は今までの方法とどのように違うのか,生み出される効果やアイデアにはどのような特徴があるのか,逆に悪い点や注意すべき点,最後にいくつかの特集記事を読み振り返った内容を座談会形式でまとめている。

4 おわりに

「付加価値に着目する」と題した特集を組み,いくつかの事例を集めることができた。付加価値に着目した改善は,まだ多くの企業で進められているわけではない。集まった特集記事を見てみると,各企業で様々に「付加価値」を定義し,非付加価値作業の排除や高付加価値に向け改善を進めている姿が見えてきた。これらは,現在のモノ作りに要求される顧客満足,コスト低減,高品質などの具体的な課題に答えるひとつの切り口となるように思える。
(篠田 心治/企画担当編集委員)