IEレビュー257号 特集テーマのねらい

 イキイキ現場改善

1 現場改善を取り巻く環境認識

企業を取り巻く環境は,非常に厳しくなっています。全般的な景気動向に目を向けると,穀物・原油の高騰,サブプライムローン問題に端を発した北米の景気の冷え込み,為替の問題等々,予想以上の外部要因の変化により,従来の改善のスピードでは追いつかないような状況になっています。このような変化に対し,従来の改善手法も強力な武器にはなりますが,手法というものは突き詰めれば目的に対する手段であり,いま真に必要なことは正しい事実と目指す姿の再認識,組織を貫く共通理解とタイミングよい行動といえるかと思います。改善が効果的にその役割を果たすためには,トップの理解と意欲,それを背景とした全社的な雰囲気作りといったことが,前提として何よりも大切であると言われます。さらに現場の意欲を高めるためには,従来から論じられている職務拡大化や職務充実化といった面を加味しながら,変化に対応し継続的に効果を生み出すための仕組みづくりが求められているとも考えられます。

2 本テーマを取り上げた狙い

厳しい環境のなかで現場改善の重要性が増しているとは言っても,従来から必ずしもすべての企業がうまくいっているわけではなく,その取り組みに悩みを抱えている企業も少なくないのではないかと思われます。一方,うまくいっている企業を見てみると,現場改善を継続するキーワードとして,「楽しんでできている」ということがひとつの要因として挙げられるのではないかと考え,そこに的を絞った特集を企画しました。また「楽しんでできている」をより具体的に示すキーワードとして「イキイキ」を付け加えました。「イキイキ」をより具体的に表現すれば,「自ら楽しみながら行動し,外面からもその楽しそうな様子がはっきりと見てとれる」ような状態と言えるでしょうか。この状態は,周りから強制され,嫌々ながらの行動している限りは生まれてこないと思います。この状態を生み出すためには,経営トップの関わり方や組織としての連携の仕組み,その他ハード・ソフト両面での様々な工夫があると思います。その結果として,自ずとビジョンを持ち行動できる個を育て,それらが結集した全体の力が成長の大きな推進力になり,ひいては顧客に高い満足を提供できる組織になると思うのです。そこで今回の特集では,単なる改善事例の紹介にとどまらず,改善のモチベーションを下げずに「継続して楽しむ仕組み」をどのように作っているか,そのプロセスでの工夫・苦労点を交えた事例や,その実現のための種々の論理的な考え方などを幅広く集め,多くの方々の参考になるような特集にしたいと考えました。

3 特集記事について

(1)論壇
法政大学教授の福田好朗氏より,氏がこれまでTPMの審査委員として数多くの現場を見てきた経験や研究活動の事例から,現場の力と現場の活性化の両側面から論じていただきました。様々な事例ごとに現場の活性化のポイントを考察し,最終的に現場を活性化させるためポイントを5つの要件として提示いただき,解説を加えていただいています。さらに,今後の改善活動の指針を示していただき,最後に,現在の改善活動+新たな視点でより高みをめざすことの必要性がメッセージとして述べられています。
(2)ケース・スタディ
①カルソニックカンセイ/同社からは「2日間改善活動」と「からくり改善」への取り組みについてご紹介いただきました。改善継続の仕組みのなかで,「2日間改善活動」の活性化のために社内では縁の下の力持ちになって推進している方々の苦労とともに,それらの方々が表舞台に立つ場として「からくり展」というイベントを活用し,さらなるスキル向上を図る工夫をしているという点が興味深く,非常に参考になると思います。
②永沢工機/同社が,短納期・小ロットのお客様の要望に対し,投資に頼らず,全員で改善を進めて効果に結び付けていった過程が,推進者の悩みとともに具体的に書かれています。「カタマリ」という概念を導入して見える化を図り,全員参加のコミュニケーションを深めてきたことによって得られた効果を詳しく紹介していただいています。最後に改善を進めていく上での重要な点として,「情報の共有化」と「答えは現場にあると信じること」と述べられています。
③マツダ/インタビュー記事の形態をとり,同社の中尾氏,加藤氏,石井氏にご協力をいただきながら,TPMをベースにした体質改善活動のなかで「からくり改善」をどう活かしているかについて,お話いただきました。問題の見える化と将来のめざす姿を表した活動板による共有化,各種の道場や成果を見せるミュージアムなどの知識や技能をバックアップする体制や仕組みなど,数多くの取り組みが紹介されています。見える化/問題意識の醸成/解決のためのツール/スキル向上などの成功ポイントをうまく連携して運用している姿が,慶応義塾大学の稲田周平氏によってまとめられています。
④東洋シールインドネシア/同社のインドネシア工場で進めてきた改善活動に関し,筆者の松浦氏が赴任してからの5年間の歩みを紹介していただいています。海外立ち上げにおけるご苦労を読み進むなかで,改めてひとつひとつ泥臭く改善することと,個々の特徴を活かした人材育成の大切さについて考えさせられます。最後に「インドネシアでも,日本と同じく技術を教える前にまず考え方(習慣)を変えると,後は自分でどんどんと伸びて行きます」とあります。自ら変わることの重要性はよく言われますが,やはり根本の大切な部分は同じかと感じられます。
⑤練馬総合病院/院長の飯田氏より,組織活性化の実現の過程を,医療の質向上活動の実践を通して紹介いただいています。飯田氏は病院経営に関する出版,文献も多く発表されており,組織論に関する論理的なアプローチから,現場での具体的な試行錯誤のプロセスまで,わかりやすく丁寧に述べられています。病院経営の視点で独自にカスタマイズされている点もありますが,基本的な考え方は,「IEレビュー」の読者層の多くを占めるモノづくり企業の方々にも非常に参考になると思われます。
(3)プリズム
今回の特集の関連記事として,4名の方に執筆いただきました。
①慶応義塾大学の河野宏和氏および成蹊大学の水町忠弘氏には,改善効果を正しく評価するための基本的な考え方について執筆していただきました。環境変化が激しいなか,状況に応じて経済性評価の理論と需給のバランスに目を配った考え方の必要性について問題提起いただいています。
②日本プラントメンテナンス協会の水越氏には,TPM活動の評価指標体系化の考え方について執筆していただきました。体系化マトリックスの事例なども,限られた誌面のなかで一部ご提示いただいています。
③サンデンの長島氏には,産学官が連携し,ものづくりの楽しさを伝える「からくり工夫展」のイベントについて執筆いただきました。将来を担う子供たちにも有意義になるような工夫されたイベントになっている内容・特徴が上手に紹介されています。
今回の特集記事は幅広い分野からの事例が紹介されていますが,お読みいただくに当たり,論壇で法政大学教授の福田氏が提示されている現場を活性化させるための5つの要件を,転載させていただきます。
①全員が参加している。
②教育の機会を与えることで作業者の知的満足を満たしている。
③目標が具体的で,成果が目に見える。
④改善成果を具体的な物(設備・治具・制度…)にする。
⑤問題点の把握と分析そして解決のそれぞれ支援する体制を持っている。
この5つの要件に照らしながら各ケースを読んでいただくと,ポイントが整理されるかと思います。本特集が多くの方々の参考になればと願っております。
(村上 宏幸/企画担当編集委員)