IEレビュー261号 特集テーマのねらい

 現場力強化のための見える化

1 背景

「見える化」という言葉を耳にするようになってずいぶんと経った。従来から「可視化」として問題の顕在化,構造化,定量化などに取り組んできた企業も,「見える化」という言葉で,改善を加速するべく取り組みを再開した企業も多いことと思う。「IEレビュー」誌も2006年10月号に「見える化の追求」を特集として取り上げた。現場では,こぞって「見える化」活動に取り組んでいるが,見える化の手段が先行している企業も多いのではないだろうか。見える化活動を推進しても,「定着しない」「成果に結びつかない」といった悩みを抱える企業に,活動をステップアップし,現場力を向上させるための有効なヒントを提供する号にしたいと考え,特集名を「現場力強化のための見える化」とした。

2 特集テーマのねらい

現場力の強い職場とは,改善活動が自立的自発的かつ継続的に行われ,職場の付加価値を自らの力で上げていく職場であり,「見える化」は現場力向上にあたっての活動手段となる。本特集では,見える化による改善活動により成果を出した現場,活動が定着している現場を参考に,
・活動自体に現場レベルでどのような工夫(ツール,ルール,アイデアなど)がなされているか。
・見える化指標として何を取り上げているか。
・トップとして,組織として活動にどのように係わっているか。
・そしてどんな改善成果が得られたか,などの事例や考え方を記事として掲載した。

3 記事について

(1)論壇
今回の論壇は,ローランド・ベルガー会長の遠藤氏に執筆いただいた。見える化による現場力強化を計画だけで終わらせないための問題提起が記載されている。プロセスを拡大し全体最適化に繋げる取り組み,褒めあう仕組みの取り込み,「改善マラソン」を継続する組織能力の育成,経営としてぶれないトップのメッセージ,「リスク管理の見える化」だけでなく現場起点・顧客起点の考え方による「新たなチャンスの見える化」の推進,責任の与え方の見直しなど,重要なキーワードが記載されている。また,経営トップが,今,何を考えているのかというビジョンの見える化が現場力強化には不可欠であり,シンプルで分かりやすい骨太のメッセージが必要である。そして当たり前のことが,今きちんとできているかという問い掛けこそが重要という意見も胸に響いた。
(2)ケース・スタディ
①湘南島津の金子氏からは,経営的視野から推進した現場改善と見える化について執筆いただいた。最初にワンフロアー化によって現場と技術,管理部門との情報横通しが十分にできるようになったことによる経営全般の見える化と情報共有化の推進について述べられている。次に設計標準化に注力し,モノづくりの入り口である受注情報(仕様)を早期に確定することにより,後工程の手待ちや手戻りを削減する必要性も説かれており,この注文情報を社内のみならず協力メーカーとも共有し見える化することで改善につなげている。また,公にすることをためらわれる情報もオープンにすることにより,関連部門と協力し,問題発生後の処置・対応スピードアップが必要との意見は,同感する次第である。
②ミツバの金子氏からは,工場の理念を明確にしたトップダウンでの見える化の事例を紹介いただいた。トップのラインヘの思いやあるべき姿の見える化もそのひとつである。その思いを実現するためのあるべき姿に向け,具体的なシナリオを作って全社で展開されている。また,TPMをベースとした加工点・不良・状態・空転ロスの見える化をベースに,段取り作業などカン・コツの未見作業の見える化への取り組みは,有効なアプローチだと思われる。さらに,成果の見える化として各指標の目標と達成度,日々の変化を確認できるシステムを構築,運用されている。コスト改善のターゲットに歩留100%を挙げ,日々改善へ取り組む体制に,現場力の重要性を再認識させられた。
③リコーユニテクノの馬場氏と浜野氏には,事実の顕在化による課題の共有化と改善について執筆いただいた。現場の見える化からスタートし,数値の見える化・定量化を進めている。ワンクリ活動による必要なQCD情報の見える化が全社展開されており,「生産現場の見える化」と「間接業務の見える化」を一体化している。IT技術をベースに,情報を有効活用し,会社全体での共有資産として変化させ,使える化し,知識として集大成し英知とすることで,企業価値を高めることに繋げている。「見える化」を「使える化」して一元管理することにより全体を見ること,「見える化」されKAIZENにつながる活動が「日常管理」のなかで循環されること,「見える化」は生産現場だけを対象に行うのではなく全社を横串で見て全体最適で推進することなど,活動を展開するにあたっての重要なキーワードが満載である。
④西部電機の池端氏には,ムダ取りと見える化の改善活動について紹介いただいた。作業者からの意見も取り入れ改善を進め,成果をあげている。外部との協業により,購入品や板金部品の供給方法改善を進め,1台流しに取り組んでいる。また,検査工程の改善では,設計に起因するムダに着目し,設計・開発段階から,共同でムダを省くべきことの重要性を説いている。
⑤小林マシナリーの林氏と仲屋氏には,5Sを楽しみながら改善を推進する事例を紹介いただいている。やらされ感を払拭し,自由で楽しみながら5Sレベルを向上させていく体制と事例について,ワクワクしながら読むことができた。5Sテーマパークを遊び心も取り入れながら推進されており,そのなかには参考になる工夫がいっぱい詰まっている。「良い仕事」をするためには「自分のために」楽しんで仕事をし,結果として「お客様のためになる」という強い自主・自律の精神が大切であり,まず自身が感動し,誇りを持つことにより,質の高い製品やサービスを提供するという点は,まさに「ESなくしてCSなし」という書葉通りだと思う。
(3)座談会
編集委員にお集まりいただき,各社の悩みや課題をお聞かせいただいた。見える化の実情,失敗事例を含め,いろいろなご意見を聴取できた。成果やプロセス,そして原因系の見える化について論議されたが,参加の皆さんが,モチベーションをアップさせる見える化や褒めるための見える化の必要性について熱く語っていたのは,印象的であった。やはり,改善の原点は,トップの熱き想いと動機づけが大切であるということを痛感した。
(4)プリズム
①佐賀県庁の脇山氏からは,県民サービス向上実現プロセスを,通常の事務事業に応用し改善に取り組んだ事例を紹介いただいた。抱えている問題の見える化や会議人件費の見える化など,真摯な取り組みは,役所仕事のイメージが刷新される思いである。
②DSSの伊藤氏からは,作業行動調査と分析のITツールについて紹介いただいた。このツールを使えば,マテハン作業のようなライン外作業の連続稼動分析が自動で実施でき,さらに一段進んだ改善が可能となる。新しいツールとして注目されるものと考える。
以上特集記事を見ると,見える化の進め方,改善の取り組みについて,次の重要な共通点が認識されている。
①部門間の壁を除去した見える化で,部分最適から全体最適の取り組みへシフト。
②トップの情熱の伝わる化,ビジョンの見える化推進。
③ボトムのモチベーション向上を図るための褒める仕組みの構築。楽しみながら改善活動を推進。
④現場起点,顧客起点の発想で改善推進。
⑤見える化は目的でなく,あくまでも手段。
⑥トップダウンと人材育成は成功のための必要条件。
⑦粘り強くやり続ける行動習慣の醸成。
まだまだ厳しい経営環境が,続くと思われる。改めて現場力再活性化の必要性を感じている。見える化をベースとして課題を明確化し改善を進め,さらにやるべきことをしっかりとやり遂げ,自立的・継続的改善活動の定着化をめざして粘り強く進めることが,今まで以上に大切になると思う。今回の特集号が,皆様のこれからの行動のヒントのひとつになればと願う次第である。
(太田 太・江頭 誠/企画担当編集委員)