IEレビュー263号 特集テーマのねらい

 現場改善の長続きの秘訣

1 はじめに

生産現場を中心に改善活動を進め,一定の成果を得た後,ある時期に差し掛かると活動が停滞し,最悪の場合には,後戻りするのを見受けることがあります。その原因は種々推測できますが,よく耳にするのは「活動が煮詰まってしまう」という声です。当初立てた目標をクリアすると,その達成感以外にある種の倦怠感が職場に生まれる現象であり,無理に改善件数を追いかけた結果ともいえます。無理なく活動を継続的に行っている職場は,トップの強い信念や改善責任者の熱心さとともに,活動推進に当たり,方針管理手法による安定した上下階層問でのコミュニケーションの醸成,明確な目標とマイルストーンの設定,改善手法の選択などの原理原則を忠実に実行しています。しかし,改善活動を長続き・長生きさせている職場では,原理原則の存在に加えて,その職場独特のプラスアルファを窺がい知ることができます。例えば,改善成果に対するインセンティブの与え方や,当事者の創造性を引き出すためのOJTを含むユニークな人材育成体制であったりします。生産活動,改善活動に携わるのは,直接間接を問わずその職場の当事者・人間であります。そこに多少の能力,個性の差が存在することは否定できません。むしろ,個性が改善に発揮されることが望ましいといえます。これらを通じ,働くことに喜びを見出す環境作りも,改善活動継続のひとつの重要な要素だと考えられます。

2 特集の着眼点

本特集では,その職場で取り組んでいる改善活動を長続き・長生きさせるために,何を基本として活動を推進しているかをまず述べていただき,その上で,改善活動を継続していくための秘訣,その職場でのオリジナリティ,創意工夫について,紹介していただくこととしました。なぜならば,各社で改善活動を継続させるためには,まず基本となる姿勢や考え方があり,その上に各社独自の工夫があると考えられるからです。
以上のことから本特集の切り口として,
○ 改善活動を進める上での原理原則の位置づけ
○ それに併せたオリジナリティ,創意工夫
○ そのための仕組み・仕掛け作り
○ 生産機種や時間の変化,職場構成などの変化にともなう活動体制の見直し
○ 結果としての改善成果の評価
とし,管理監督者の立場,推進責任者の立場,工場トップの立場から事例を紹介していただきました。

3 特集記事

(1)論壇
えちぜん改善実践舎の越前行夫氏に「全員が改善を楽しむといい」と題し,改善を継続させるためのキーポイントを,実例を交えて論じていただきました。改善を継続させるためには,楽しい改善を推進することが重要と指摘し,その条件として,①自主的であること,②夢中になれること,③自分のレベルが上がったことを自覚できること,としています。また,改善の継続のあり方について,ゴルフ,サッカー,カーレースなどを例に挙げ,分かり易く論述していただきました。
(2)ケース・スタディ
①四国コカ・コーラプロダクツの佐伯浩三氏から,同社工場の電装技術グループとし,工場付帯施設をコントロールするPLC導入時,その後の大全活動の手順,ならびに成果について執筆いただきました。PLC導入時にシステムソフトを自社開発するための分析および設置時の不具合の改善などを通じ,自社技術の向上を図ったというものです。小手先の改善に頼らず,真因を追究し,効果的な改善手法や改善のよろこびを学びつつ,経験と勘による体質から脱却した技術集団の事例です。
②鈴鹿富士ゼロックスの谷口雄一氏には,「生産革新活動継続への取り組み」について執筆いただきました。同社では過去,与件が変化するとそれまで積み重ねて仕上げてきた活動がわずかな時間で元に戻ることが見受けられました。その原因は,生産革新活動が定着していないためであるとして,定着させるための風土を醸成することに取り組みました。そのため,数多くの施策を展開しましたが,なかでも「決めたことを徹底的に守る」風土作りが特長として挙げられます。全員参加でルールを作り,そのルールに例外を認めないというものです。この活動を通じ,多くの成果を上げた具体的な事例について紹介いただきました。
③日立アプライアンスの椎名竜司氏には,コンサルタントの指導を受けながら11年の改善活動を通じ,動作のムダ,停滞・運搬のムダ排除をはじめ,見える化,生産変動対応などの改善を継続してきた内容を紹介いただきました。特に活動の進め方として,各職場が自主性をもって週1回2時間の「自主研究活動」を全員参加で実施したこと,さらにセル化,段取り改善,部品・作業・セルの見える化などの具体化について記述いただきました。
④オティックスの颯田俊雄氏に,「良い運びは良い造りを導く」ことに拘り,トヨタ生産方式を原点に,同社の改善活動の経過,現在に至るまでの成果について執筆いただきました。現場の個々の点の改善から線,面への展開,物の小口化による調達・製造物流での成果,その成果を実現するための物と情報の無停滞化,さらには品質向上への取り組みなど,改善の原理原則に基づいた事例を紹介していただきました。
⑤ミツバの棚橋得有氏には,同工場のQCサークルおよびTPM活動を自社流に構築した「MEE活動」「W-TPM活動」をベースに,生産革新活動へと発展させ,変化に強い企業となるための活動について執筆いただきました。活動を活性化するために,課長が自分の職場・ラインにユニークな名前をつけ,その上で高い目標達成をめざしているといった特徴ある活動を,数多くの具体的事例とその成果を交えて紹介いただきました。
⑥山形共和電業の阿部朗氏には,同社および共和電業グループ一丸となった活動について紹介いただきました。同社は「全社最適」を合言葉に,グループの各代表,協力会社を含めた「全社改善発表会」を,単に発表と工場見学の機会とするだけではなく,そこで出された課題・問題をその場で即断即決する場と位置づけています。また,全員を対象に,自分が実行したアイディアを所定の用紙に数行記載すると,それにインセンティブを与える「チョコ案」制度を推進するなど,ユニークな活動を行っています。
(3)プリズム
①名古屋大学の梅原徳次教授に,機械設備の寿命と密接な関係を持つトライボロジーという工学について解説をしていただきました。摩擦・磨耗による機械の劣化状態を初期,中期,異常磨耗のそれぞれの領域で原因を追究し,機械の長寿命化を進める上での潤滑診断の重要性を述べていただいています。
②日産自動車の佐藤暢倫氏には,同社横浜工場の「からくり」による改善事例を紹介いただきました。ガスケットの保護シートをはがす作業を知恵と工夫で改善したというものです。その根底にある江戸時代後期のからくり人形師の心構えから学ぶという姿勢に,改善を楽しむゆとりを見出すことができます。

4 おわりに

本特集を通じ,改善活動を継続するにあたり,計画と目標立案などの原理原則に従った上で,トップの姿勢,当事者の自主性と熱意,全員参加,改善の土壌つくりなどが共通項として捉えることができます。さらに改善を進めていく上で,その姿勢のなかに,現場改善を見据える客観的なゆとり・余裕の大切さをうかがい知ることができます。梅原教授のトライボロジーの解説に,機械システムには潤滑という要素が重要とありますが,改善を進めるのは人間です。人間が人間らしく活動をするためには,潤滑機能にもなる,ゆとり・余裕を無視することはできないと考えられます。改善の継続にあたっては,短期的成果をパフォーマンスとして追うのではなく,その現場に見合ったゆとり・余裕を考慮すべきと考えます。本特集のなかから,その呼吸の大切さを読み取っていただければ幸いです。
(岡 清彦/企画担当編集委員)