IEレビュー266号 特集テーマのねらい

 全員参加で楽しい5S

1 はじめに

整理・整頓・清掃を行い清潔な状態を保つことへの取り組みは,製造業に限らずどんな企業でもどんな職場でも当たり前のことと思われる。また5Sは,単に整理・整頓・清掃が行き届いた清潔な職場環境を保つだけでなく,仕事の効率をアップしコスト削減に繋げたり,そこで働く従業員のモチベーション向上に寄与するなど,あらゆる職場・業種において様々な効果をもたらす。しかし,取り組んでいて当たり前のことが簡単にできない,効果があるはずと思っていてもなかなか徹底できない,そのような企業も多いのではないだろうか? 反対に,5S活動を通して改善など様々な活動が活性化し,従業員全員で職場を良くしていこうというモチベーションの向上に,つながっているところもあると考える。

2 特集テーマのねらい

国内の企業,特に製造業では,5S活動は生産活動の基本ととらえ,ほとんどの企業が長くこの活動に取り組んでいると思う。ただし,その活動の主役である従業員の立場から見ると,
≫上司の指示だから仕方なく活動に参加している。
≫本当にやるだけの効果がでているのか疑問である。
≫もう,できそうなところはやりつくした,など長い活動であれば,ときにはそのように感じる従業員も出てくるのではないだろうか?
そこで,本号では,職場の全員が参加し楽しんで5S活動に取り組んでいる。また5Sにより,改善活動など様々な活動が活性化している事例を,現場の声を中心に紹介することをねらいとして企画した。特に,行政をあげて5Sに取り組んでいる足利市のケース3件,本号の企画担当である九州のケースを3件掲載してる。

3 記事について

(1)論壇
タッセ企画の高瀬親史氏に「あるべき姿を作り現実の姿との差異の追求」と題し,高瀬氏の考える5Sについてまとめていただいた。まず,5Sの本質を,仕事の流れを妨げる要因を排除しながら改善を進化させていくことととらえる。そのためには,あるべき姿を設定し,その姿と現実のギャップをなくすことが非常に重要である。また,製造現場だけでなく,スタッフ部門の仕事テーマ棚卸しも5Sの一環ととらえられている。実際の事例を通して,流れを改善した際の効果や,あるべき姿の作り方,また,あるべき姿が崩れた時(「トリガーポイント」と呼ぶ)の対処方法設定の事例などについても詳述いただいた。
(2)ケース・スタディ
【足利市】
①オグラ金属の湯沢秀樹氏に,「みんなの笑顔で感動の職場創り」と題して,5Sテーマパーク造りを中心にその活動を紹介いただいた。「グルメランド」「なんちゃってフラワーパーク」など遊び心を入れたネーミングを行い,5Sの目的を「まず自分(社員)のため」と定義し,楽しく継続できる工夫やその活動の効果などをまとめていただいた。また,改善道場主として,IE協会に現場提供を行うなど,お客様を受け入れることで新たな気づきを得て,さらなるレベルアップに寄与するというプロセスも大切にしている。
②石井機械製作所の佐久間大輔氏,田中武則氏に,「お客様に満足の先にある感動を与える」,そんなものづくりをめざした活動について述べていただいた。このコンセプトを,オーケストラファクトリーと呼び,そのベースを5Sとしている。過去の挫折や,一度定着した5Sのマンネリ化を乗り越えて,楽しみながら自らのアイデアで取り組むというスタイルをめざしている。今では,工場内が明るくなり,楽しい雰囲気が充満している。5Sの街「足利」との関わりも重視している。社内のこれまでの活動の記録,従業員意識の向上や作業効率面での成果,今後の課題などについてまとめていただいた。
③深井製作所の入倉種三氏に「みんなで実践 変えよう 変わろう!」をスローガンとした5S活動を紹介していただいた。トップダウン型の指摘された点を改善する5Sを改めて,各部門の自主的な5S,間接員全員による月頭の5Sなど,取り組み方法を工夫し,まずは整理・清掃に重点を置いて活動してきた。会社敷地の上にあるものはすべてを5Sの対象として,幅広く取り組んでいる。その実際の活動の項目を紹介していただいた。
【九州】
④黒崎播磨八幡工場の活動について,東京工業大学の青木洋貴氏にまとめていただいた。生産性向上活動における過去の問題点を洗い出し,それを基に3Sを含むモノづくりシステム活動(KMS)を確立した。それをうまくまわすための施策づくりまでのストーリーを記述いただいた。KMS活動確立のために実施した研修会や,その活動のキーワード「継続的改善(トヨタさんでさえ改善は限りなくある,ましてわが社は…)」など紹介いただいている。モチベーション向上のしかけとして「触れ合い」ミーティングや表彰制度のための診断チェックリスト,3S・見える化の実践事例も紹介いただいた。
⑤日産自動車九州工場の活動について,後藤純弘氏と藤井一郎氏に海外拠点も含めた社内での生産方式導入の取り組みと,そのなかでの3Sの役割についてお話をうかがい,慶応義塾大学の市来嵜治氏にまとめていただいた。具体事例を交えて,3Sの活性化や定着に寄与している要件についてお話いただいたが,3S自体を目的とするのではなく,同期生産を実現するなどの上位目的のなかで3Sの位置づけを明確にすること,活動に対してのフィードバックをすることなどが大切とされている。
⑥左尾電機工業所の清松益夫氏に,海外工場立ち上げからの3S,つまり「0」からスタートし,ステップを踏んで導入してきた3Sの事例について紹介いただいた。言葉も文化も違い,「5Sとは何か?」というところから説明が必要な中国人のワーカーに対し,どのように定着させてきたのかについて,解説いただいた。清掃から始まり,不良品置き場の改善など徐々にレベルを上げて「頭の3S」まで,ステップごと明確な意図を持って具体的な活動に落とし込んでいる。3Sと在庫削減や生産性向上などの各目標との関係を,しっかり結び付けて解説いただき,また,部門により進度の差が出てきた場合の考え方についても示していただいた。
(3)プリズム
①きむら5S実践舎の木村温彦氏には,5Sを街づくりの一施策としている足利市での取り組みについてまとめていただいた。5Sは企業のみのツールではないとして,市内企業からの提案で始まった。新しい箱モノを作るのではなく,今あるものをさらに磨き上げることで街づくりをするという考えである。足利の5Sは,整理・清掃という順序など,その特徴も紹介していただいた。
②中小企業大学校東京校の神宮貴子氏に,新たに開講したWeb研修「現場に学ぶ5S」を紹介いただいた。このなかで,「対象」と「観点」という概念を用いて,客観的な視点で5Sの遂行・改善度合いを評価するチェックリストを提案するなど,研修内容紹介を通して5S活動継続・定着の要件についても述べていただいた。
③日立GST(タイ)の武田和也氏には,海外工場(タイ)で,5Sを全社員の基本ルールと位置づけ本格導入した手順や,活動概要を紹介いただいた。はじめの半年「パイロット期間」に行った啓蒙活動や,その後の本格運用で行っているコンテストなど,5S活性化の工夫を紹介いただいた。

4 おわりに

本特集を通じ,5Sを活性化した状態で継続することの難しさを改めて感じた。それと同時に,仕掛ける側の強い思い,粘り強い取り組み,従業員を活動に引き込むために様々な工夫を凝らしている様子を,感じ取ることができる。寄せられた複数の原稿には,いくつかの共通点がある。過去の活動の問題点を反省・分析することで,停滞した状況を乗り越えるヒントを得る。基本だから当たり前ではなく,ひとつひとつの活動に具体的な目標を設定し,従業員がそれを理解している。活動した結果,「自分たちのためになった」と実感できるなど,5S活動に限ったことではないが,やらされている場合とそうでない場合では,結果はまったく違うはずである。今回の特集から,楽しく継続できる5Sのヒントを見つけていただければ幸いである。
(戸田 隆幸/企画担当編集委員)