IEレビュー269号 特集テーマのねらい

 グローバル生産管理と課題

1 特集テーマのねらい

生産管理は経営の根幹を成すものです。それゆえ,効率的な生産を行うためには生産管理が大変重要な業務であることは,疑う余地がありません。生産管理の業務は,工場経営の広い範囲をカバーするものであり,その機能も多枝にまたがり,購買・調達を始め,生産計画,在庫管理,現品管理,原価管理なども含まれると考えられます。昨今の経営環境も,グローバル規模での改革を行わなくては生き残れない厳しい状況になってきています。そのような状況下で,改めて生産管理にスポットを当て,企業の様々な生産管理面の活動,取り組みを学ぼうというのが今回のねらいです。グローバルな視点から生産拠点をすみ分けている事例,大量のデータに対して情報処理システムを上手に活用している事例,天然資源・レア資源を世界中から調達している事例など,グローバル化に対しての様々な取り組み,また直面している課題は何か。今回は,実際の生産管理系の工夫により,活動が活性化している事例,問題を解決した事例を読者が学ぶことにより,新たな気づき,発見が生まれ,また,新たな活動への一助となればと考えています。

2 記事の概要

(1)論壇
今回の論壇は,「不確実性に直面するグローバル生産管理の課題と展望」というタイトルで,武蔵大学教授の松島桂樹先生に執筆していただきました。リーマンショック後の世界の状況は大きく変わり,そのなかで日本の製造業がどう生き残るのか,生産管理の役割はどう変わらねばならないのか,深層レベルでの考察が,今必要であると述べられています。「景気回復のきざしのなかで振り返ってみれば,それは世界経済,社会構造をめぐる明らかな構造転換を意味していたといえる。このような世界の変化がモノづくりや生産管理のありかたに影響を与えないはずはない。日々,同じ製品を同じ工場で製造し続けることはもはやありえず,新たな不確実性に向け,生産管理は再構築されなければならない」。また「モノづくり経営と生産管理の展望」のなかでは,「生産管理システム再構築への新たな取り組み」や「変革が求められる情報システム」の事例を詳述していただきました。そのなかで,日本のモノづくりの生き残りをめざして,「新たな製品開発とビジネスモデルの構築」さらに「日本のモノづくりの強みを活かすためには」現場重視こそが日本人の最大の強みであり,日本の新たなビジネスモデルの必要性が説かれています。おわりに,日本の空洞化,雇用問題に触れ,21世紀のモノづくりのあり方にも言及していただきました。
(2)ケース・スタディ
①コマツ物流の田村耕司氏には,「サプライチェーン効率化のためのロジスティクスの改革・改善」と題して,コマツ本体の物流企画部門と連携し,継続的に進められてきた改革・改善活動を紹介していただきました。「物流改革の経過と進め方」,「TMS(トランスポート・マネージメント・システム)の開発」,「地方最寄り港の活用」,「海外工場の日本生産の3PL調達」について詳述していただきました。コマツの物流改善は,重量物で多種少量という製品・生産特性と,需要変動が激しいという市場環境に対応し,一義的にサプライチェーンを捉えて,販売・生産を支え全体最適での改善を進めることであり,同時に輸送,保管,梱包,荷役などの物流のムダをなくし,的確で競争力があるサプライチェーンをめざして活動されています。
②東レの永安直人氏は,「“Made in Toray”の生産・品質管理と人材育成」のタイトルで,世界の合成繊維業界の現状を踏まえ,「繊維事業とグローバル展開」,「“Made in Toray”のモノづくり」,「グローバル人材育成」を実際に活動されてきた事例,制度を説明していただきました。
繊維テキスタイルのモノづくりはCSRの視点として,①戦略物資など輸出の管理,②製品安全,③品質管理(東レ繊維製品保証システム:Toray Standards),④苦情・事故対応,および,⑤技術開示制度,⑥人材育成で対応されており,日本のヘッドクォーターである繊維加工技術部が中心となり,各事業部・国内関連会社への支援が行われています。
③山形カシオの三澤裕之氏には,自社独自事業のひとつとして展開している金型・成形事業を題材に,設計~金型製作~成形量産までの一連の生産工程において,独自のデジタルエンジニアリング技術を駆使し,自動化・効率化を実現している事例を紹介していただきました。特に金型生産においては,3Dモデルを一貫活用した「完全図面レス金型生産体制」を実践されています。これらの取り組みは,結果として国内工場が,企業のグローバル化を支える「マザー工場」として重要な役割を担うことにつながっているものと考え,国内工場にて「ものづくり」のコア技術を確立し,安定した海外生産をサポートする実践事例の紹介となっています。
④NECコンピュータテクノの奈良克夫氏は,サーバ事業を中心とするコンピュータ製品の「マザー工場としての圧倒的な強み」を創りあげるべく,1998年から生産革新活動やBTO生産をスタートさせています。これらの取り組みにより,受注から生産,出荷までの大きな流れが整った結果,工場の生産をコントロールする生産管理部門の業務がどのように変化したかについて,サーバ製品を例に紹介していただきました。
(3)レポート
ITS Japanの田中敏夫氏,NECの岩井研一氏とパナソニックの金城佐和子氏には,電機業界の共同輸配送のテーマで,ITSを活用した共同プロジェクトを紹介いただきました。「輸送分野の最近の傾向」の分析から,課題を明確にした活動が推進されています。電機共同輸配送プロジェクトのなかでは,CO2排出量削減を目的として車両の積載率・実車率改善のため,電機各社による共同輸送が検討され,今回,活動の成果のひとつとして,NECとパナソニックによる共同輸送が開始された事例を紹介していただきました。電機業界は,多種多様な商品が比較的短期間で流通するという商品特性により変化が激しい業界であり,調整が困難な競合メーカー同士の荷主主導による共同輸送が実現できたことは快挙です。
(4)プリズム
①日立東日本ソリューションズの佐藤宏氏には,「見える化」プロジェクト管理ツール“SynViz”を紹介いただきました。個別受注型の「引合」~「製造/施工」~「アフター保守」のプロセス上の課題である案件情報管理,お客様情報管理,および進捗管理をWEB環境で稼動する管理ツール“SynViz”を適用したシステム改善・改革の紹介です。ツールのコンセプトは,「情報の一元化」と「情報の見える化」。合わせて,重要なことは,“SynViz”という「見える化」ツールの導入ではなく,業務プロセスをどう再設計すべきかを真剣に議論し,業務と意識の改革を断行する点です,とも言及されています。
②サプライチェーンカウンシル(SCC)の小野耕司氏には,「プロセス参照モデル-SCOR」を紹介していただきました。従来のボトムアップのものづくり技術だけでなく,トップダウンのものづくり戦略が不可欠であり,戦略を構築するフレームワークを提唱していただいています。昭和時代の産業界の巨人たち(本田宗一郎,松下幸之助,盛田昭夫など)が,実はSCORモデルを誰でもが理解できる言葉で頭のなかに構築していた,と密かに想像していた,という話も披露していただきました。

3 おわりに

以上,論壇,ケース・スタディ,レポート,プリズムの各記事を通読すると,各社環境の変化に対して,戦略をねり,コンセプトをしっかり持って活動されていることが理解できます。狭義の生産管理部門に限らず,直接部門・物流部門・サービス業など,あらゆる部門・業種が改善の対象となっている事例,現地特有の工夫で成果を挙げている事例,情報処理システムを活用した事例や人材育成と連携した活動事例など,切り口は様々ですが,自社の特徴を生かした改善・革新活動は,読者の方々に,大いに参考になるものだと思います。
(永田 嘉和/企画担当編集委員)