IEレビュー270号 特集テーマのねらい

 部門間のつなぎ・流れに着目した物流改善

1 特集テーマのねらい

今回の特集では,現場での改善を事業全体に活かすという視点で,物流を切り口に学ぶことを目的としている。一般に,各部門単独での改善だけではなく,例えば,調達,生産(工場内部品物流を含む),販売などの各機能がつながり,同期化した流れを作ることが,真の企業の競争力につながる。それによって,現場の改善の成果も経営的にも活きてくるのである。部門間連携の例としては,生産に合わせた調達(調達・生産連携)や,売れに合わせた生産(生産・販売連携)などが挙げられる。前工程の部門と後工程の部門が連携する際に,前工程には,後工程の要求に応じて,サプライヤの視点に立って,部門間のつなぎや流れを作る対応能力が求められる。機能を連携させ,部門間物流を改善する上では,物流の改善だけでなく,部門間の情報の流れ・情報共有の仕組み・情報管理の仕方を改善することも必要になる。しかし一般には,部門間連携を進める上で,部門間のニーズや思惑が異なることが頻繁にある。例えば,販売部門が売上高や損益で評価される場合,需要変動に対して欠品を恐れて在庫を多く持ちたいという意向がある。一方,生産部門は棚卸で評価される場合,できるだけ平準化して生産し,将来の在庫廃棄損に繋がりかねない過剰な在庫を持つことは避けたいと考える意向がある。同様の部門間での思惑の違いは,調達部門と外部サプライヤの間など,部門(経営主体)が異なれば不可避的に発生するが,サプライサイドの改善レベルを適切に評価し,その成果を対応能力として正面から評価するケースが多いとは言えない。このように相反する問題をどのように解決するか,また,改善結果を部門間で共通に評価できる指標をいかに構築していくかが課題になっている。 部門間連携にスポットを当てた物流改善の事例を読者に提供することで,読者が部門間連携を含む改善課題解決の糸口に気づき,経営に結びつく新たな改善活動に取り組むきっかけとなることを期待している。

2 記事の概要

(1)論壇
上智大学教授の荒木勉先生に,RFID活用によるシームレスな物流の実現について寄稿いただいた。サプライチェーン上の部門間・企業間連携を深めてシームレスな物流システムを実現することが期待されている。RFIDとインターネットを組み合せることで,人件費をかけずにリアルタイムにサプライチェーン全体の状況を把握し情報共有することができる。このような観点から,RFIDの歴史や方式,流通・物流分野への活用,今後の展望について,国内外の豊富な事例をもとにわかりやすく解説いただいた。
(2)ケース・スタディ
①リンナイの小杉將夫氏,安田一司氏,宮崎宏氏に,暖房機器や給湯機器などを対象とした販売と生産の同期化への取り組みの経緯や活動について寄稿いただいた。まず,同社では,製造部門主体で1個流しや平準化生産に取り組み,多様な受注に対して納期遵守できる強い営業・生産連携を構築してきた。次に,製品物流を改善するために物流機能を自社に取り込み,営業・生産・物流部門が連携して物流経費を削減してきた。さらに,営業部門の事務作業を改善することで,営業担当者の顧客訪問時間を倍増させている。その結果,営業部門から製造部門に鮮度の高い情報を提供できるようになり,営業と生産の同期化レベルがさらに向上し,滞留在庫の削減につながっている。
②三菱電機の石塚宏氏に,冷蔵庫やエアコンを対象とした製品物流の改善活動について寄稿いただいた。製品物流(輸送・保管・包装)の現状を見える化し,発生している物流費と付き合わせることで改善の着眼点を明確にしている。そして,国内外の生産部門や営業部門と連携して,トラックやコンテナの積載効率改善,倉庫活用度向上など物流JIT活動に地道に取り組んでいる。包装設計では製品設計者を巻き込んで物流費の低減につなげている。このように,現場重視や連携強化の視点で活動することで,対売上高物流費用率を改善し続けている事例について紹介いただいた。
③NECパーソナルプロダクツの若月新一氏に,パソコン事業において,トヨタ生産方式を機軸とした生産革新活動と先進ITシステム活用の両輪で進めてきたサプライチェーン改革について寄稿いただいた。需給管理・部材調達・生産・デリバリーのプロセス全体の繋ぎの強化や,サプライチェーンのスピードアップ活動の全体像を紹介いただき,そのなかで,ITシステムとRFIDの活用について詳しく解説いただいた。ITシステムで扱うデータを一元化して全部門が共通のデータを見て意思決定し行動できることに注力してきている。現場とITシステムをつなぐ場面でRFIDを導入し,モノと情報の一元化を実現している。RFIDは生産進捗管理,BTO(顧客が指定した仕様に基づく受注生産)での生産指示,部品納入管理などに活用されている。その結果,生産性,棚卸,品質,デリバリーで大きな成果が出ている。
④リコーの原口紀昭氏に,顧客ニーズの多様化に応えるデジタル複写機の生産において,RFIDを活用している事例について寄稿いただいた。部品入出庫管理にRFIDを導入し,バーコードの読み取りという価値のない動作を削減している。工場コンフィグ(顧客が指定したオプションを工場で装着するカスタマイズ作業)においては,工程間同期化1コ流しをめざした生産方式への取り組みに加えて,RFIDでコンフィグ部品の手配や部品の取り付けの確認を効率化している。工場間のユニット輸送では,RFIDで収集したデータをもとに物の流れを見える化することで,在庫削減を実現している。
⑤叶匠寿庵の松本慎一氏に,和菓子製造小売業における全社一丸となった生産革新活動について寄稿いただいた。購買~生産~品揃え・包装~製品物流~販売店の間で流れを作り,後工程引き取りで売れた分だけをタイムリーにつくり出荷できる仕組みを実現している。ムダどりで生まれた活人を活用して,外部委託していた業務の内部取り込みも進めている。その結果,生産性向上や在庫削減などの成果が出ている。製造・物流・購買・商品企画・販売部門が連携して全社的な改善(重点販売商品を決めて売上高を増やすなど)にも取り組み成果を挙げている。
(3)プリズム
①日通総合研究所の大出一晴氏に,インドシナ半島の陸路国境通過輸送(クロスボーダー輸送)のなかで,3つのルート(東西回廊,南部回廊,インドルート)の現状と課題について寄稿いただいた。東西回廊では,海運に比べて輸送リードタイムの大幅な短縮が実現できている。一方,インドルートはいくつかのルートが提案されており,今後の開発が期待されている。
②星日産業の柴田擴志氏に,生花輸入でのサプライチェーン構築について寄稿いただいた。顧客からの注文を引き付け,かつ,ロスなく完売するために,海外農園との直取り引きによる切花数量の確保,航空・トラック貨物スペースを年間契約で確保しそのスペースを使い切る有効活用,自社通関,市場や卸を通さない販売プロセスなどを工夫している。
③アスプローバの高橋邦芳氏に,サプライチェーン全体のスケジュールを作成し,サプライチェーンの可視化,全体最適化を支援する汎用ソフトウェア「Asprova SCM」について寄稿いただいた。サプライチェーンカウンシルのSCORモデルに準拠してサプライチェーンをモデリングして多様な計画業務へ適用できることや,導入効果について紹介いただいた。

3 おわりに

上述のように,今回の特集では,つなぎ対応力向上に取り組んでいる物流改善の事例を幅広く取り上げた。生産と販売の連携強化,顧客ニーズの多様化や需要変動に対応した生産やデリバリーの改善,工場内やサプライチェーンの一気通貫をめざした改善,部門間にまたがる改善に向けた情報インフラの活用などである。3月11日に発生した東日本大地震の影響で,東日本の物流インフラが大きく損傷し,サプライヤや顧客を結ぶサプライチェーンが寸断された。今まで当たり前のように利用していた物流インフラの大切さを改めて感じている。物流インフラやサプライチェーンの復旧後,さらなる改善を進める上で,今回の特集が少しでも役立てば幸いである。
(榎本 昌之/企画担当編集委員)