IEレビュー271号 特集テーマのねらい

 現場力の強化に向けて

1 特集の背景

昨今の製造企業を取り巻く環境に目を向けてみると,決して改善活動を行い易い快適な環境にあるとは言えないでしょう。製造現場では,間接人員のみならず直接人員も大幅に切り詰められてきており,改善活動の必要性は十分に認識しながらも,十分な時間を割いていられない企業も多いのではないでしょうか。また,人件費の変動費化を受けて,非正規従業員の比率は着実に高まってきており,改善活動の知識や経験を十分に備えた従業員は少なくなる傾向にあります。本特集号では,製造企業が改善活動を進めていく際に生じる上記の課題を踏まえた上で,なおも,現場力の強化に向けて,地道に改善活動を続ける企業事例を紹介したいと考えました。また,改善活動を継続していくなかでは,活動の進捗や参加者のモチベーションに必ず山谷ができるものであり,活動にマンネリや停滞が生じた時に,活動をいかにマネジメントし,その壁を乗り越えていったのか,その勘所を明らかにしたいと考えました。

2 特集のねらい

日本の製造企業の強みのひとつとして,製造現場からのボトムアップによる地道な改善がしばしば挙げられます。確かに,日本の製造企業では,生産性の向上に向けて,従業員が一丸となり現場改善を着実に行ってきました。これが,製品のQCDを着実に向上させ,日本製品の競争力の源泉となってきました。「IEレビュー」誌でも,このような現場改善の重要性を十分に認識した上で,これまでに何度となく,現場改善の特集号を組んできました。本号でも,この現場改善を大事にするスタンスにまったく変わりはありません。ただし,特集テーマの切り口として,現場改善の事例紹介を行うと同時に,その改善活動を着実かつ継続的に行っていくためには,改善活動をいかにマネジメントしていけばよいのか,そのポイントを改善活動の勘所として,読者にお伝えできないだろうかと考えました。一般に勘所といえば形式知化されていない,文章に書き表すことのできない暗黙のノウハウということになります。
本特集では,あえてこの暗黙知の部分を,例えば,
・改善活動におけるテーマの選定方法
・改善活動を行うときの組織体制/組織人員
・改善活動に携わる人たちのモチベーションの維持・向上の仕方
・改善活動が行き詰ったときの打開方法
・改善活動を行っていく上で,本当に必要になる(大切になる)ものの見方・考え方
など,現場改善の背後にあって,活動のPDCAサイクルをうまく回し,スパイラル・アップしていくためのノウハウを,文章として記述していただくよう執筆者にお願いしました。これを通じて,読者が改善活動を実施する際の手助けとなる情報を抽出したいと考えました。このような改善活動のなかの暗黙の勘所を,少しでも形式知として読者の皆様にお伝えをし,現場力の強化に役立てたいと考えたわけです。

3 記事構成

(1)論壇
東邦チタニウムの一杉好一氏には,「TPM活動からの成果事例」と題して,本特集号における論壇を執筆いただきました。同社における独自のTPM活動の内容と成果が報告されています。近年では,従業員のさらなる能力の開発と発揮に向けて,従業員の働きがいやメンタルヘルスケアといった問題にも大きな関心が寄せられています。本稿ではEPA(Employee Assistance Program)との融合という形での新たなTPM活動の試行が報告されています。また,設備オペレータの自主保全力のアップをねらった「天川流自主保全」や設備保全の8の字展開,作業ストレスの低減活動,モデル職場を通じたヒヤリ・ハットの撲滅と安全職場の形成活動を具体的に紹介いただきました。
(2)ケース・スタディ
①菊地歯車の阿部雅和氏,大角有司氏には,「当たり前のことを愚直に」とのタイトルでケースを執筆いただきました。同社は,レクサスLS600h用のギヤを量産するなど,経済産業省が主管する「元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれている会社です。同社では,これまで長年に渡り5S活動を地道に展開してきていますが,そのなかで生じた活動の壁を打破するための取り組みを具体的に紹介いただいています。キーワードは,「当たり前のことを愚直に」ということになろうかと思います。また,5S活動を基盤にした「かんばん」の導入にも言及をいただいています。
②NEC山梨の塚目政勝氏,坂本雄仁氏には,「現場を主役に全員で現場を助ける改善活動」との題目で,同社で行われている現場改善活動の取り組みを紹介いただいています。これまでに行われてきた同社の活動経緯を踏まえた上で,近年の活動の内容やテーマ,組織体制などを示していただいています。社長巡回など,トップやスタッフ層と現場との巧みな連携のなかで,自社設備による大幅なコスト削減など,大きな効果を生み出すまでの活動の経緯を丁寧に紹介いただいています。
③アキレスの山本峰征氏には,「5S運動での職場活性化とボトムアップ」との題目で,同社で進める「アキレスの5S活動」について,紹介いただきました。同社では,2007年より5Sを開始して,現在5年目を迎えています。5S活動を効果的に展開するための組織体制のあり方をはじめとして,5Sの基本的な考え方,関係者のモチベーションを維持・高揚させるためのイベント開催の取り組みなどを,丁寧に紹介いただいています。
④オーエイの山田啓之氏,久保誠氏,さらに,青山学院大学の栗林渓氏,松本俊之氏には,「改善活動におけるステップアップのためのチャレンジ」との題目で執筆をいただきました。同社では,精密プレスによる板金加工および高級焼付塗装を手掛けておられます。本稿では,同社の改善活動が足踏み(マンネリ)を迎えたときに実施した,金属製バイオリンの製作プロジェクトに取り組んだ内容を紹介いただきました。プロジェクト参加者のやる気がみなぎってくる様子がありありと伝わってくる原稿であり,また,自社の製造技術を高め,伝承する取り組みとして,非常にユニークで有効なものではないかと思われます。
⑤深井製作所の大沢悟郎氏,山崎誠一氏,坂本守氏には,「全社的5S活動の定着化」とのタイトルで,同社で全社的に展開される5S活動について,紹介いただいています。本記事は,慶応義塾大学の市来嵜治氏によるインタビュー記事ですが,記事全体に渡り,同社で取り組む5Sが具体的に分かり易くまとまった記事となっています。特に,4章の「活動を活性化させるための要件」では,同社での活動が実際に行き詰った時の打開策や,大切な平常時からの心構えが的確にまとめられており,5S活動を実践していくなかでの貴重な情報が詰まった原稿となっています。
⑥三菱電機の齋藤博志氏,田尻一光氏,高尾義親氏には,「TOC理論に基づいた現場改善の仕組みづくり」との表題で,同社のパワーデバイス製作所における取り組みを執筆いただいています。工場における生産経路や生産管理の複雑さや,工程負荷および工程能力のゆらぎの発生などを基本的な背景としながら,製造ラインの生産性向上に向けた取り組みを紹介いただきました。エリヤフ・ゴールドラット氏が提唱する制約理論に基づき,JITの考え方をうまく組み合わせながら半導体ウエハの製造プロセスを改善する同社の活動が分かりやすく紹介されています。
(3)プリズム
①アインファーマシーズの首藤正一氏には,「調剤薬局における安全性と効率性の追求」とのタイトルで執筆をいただきました。近年では,生産システムのみならずサービスシステムに対しても広がりを見せるIE技術ですが,本稿では,ITを利用した業務改善の事例を紹介いただいています。
②五葉コンサルティングの楊典子氏には,「シックスシグマの正しい使い方」と題して,報告をいただいています。シックスシグマについては,使いようによっては非常に有効な手法であるにも関わらず,一方で,ベールに包まれた部分も多く,食わず嫌いの偏見も多いように思われます。本稿では,このような偏見を払拭するべく,シックスシグマの実際の姿に迫っていただきました。
(稲田 周平/企画担当編集委員)