IEレビュー272号 特集テーマのねらい

 元気な日本のモノづくり

1 特集の背景

未曾有の震災から,半年以上が経過した。今も,復興に向け尽力されている方々に,心より感謝申し上げたい。災害からの復旧も儘ならぬ状況のなか,さらに世界経済の減速と歴史的な水準の円高により,製造業は奈落の底に突き落とされたような状態といえよう。今回の特集は,混迷する日本のモノづくりが,再び力強く始動するための起爆剤として,元気を取り戻すことが重要であるという視点から編集している。経営業績の良い会社が,結果的に雰囲気も良くなり,元気な社風になることはあるが,逆に経営者を含めた社員の元気さ,そして活力が,実は有効な経営資源そのものであり,企業の元気さが経営業績に影響するという気がしてならない。厳しい結果を受け止めながらも,決して腐ることなく,元気に真摯に仕事や改善に取り組む姿勢は,お金やモノには変えられない貴重な経営資源である。今回は,そのような企業活動の重要な経営要素である元気の源に着目し,いかにそれを生み出すかを考えてみたい。

2 特集の着眼点

本特集では,上記の視点に基づき,元気さの根幹でもあり,高付加価値商品を生み出す日本のモノづくりを支える強みについて,モノ(製品)+づくり(生産プロセス)+体制(人・組織)という観点から,原稿を執筆いただいた。その強みこそが,元気度をアップし,業績を好転させるものと考えられる。合わせて,震災からの復旧を経験し,さらに改善すべき課題を背負ったモノづくりの強化について,有識者からの提言も掲載している。なお,日本モノづくりの強みについては,次のような点に着眼し,その具体的な実施事例を紹介した。
○震災後の復興をめざし,誇りと絆と連携をベースに,再び元気に立ち上がろうとしている企業の取り組み。
○作りすぎのムダや流れ化に着目し,製造リードタイムの短縮に着眼した継続的改善。
○現場を,人を,そして人づくりを大切にし,強い現場,考える現場を築き自立の促進を図る企業。
○日本のお家芸のひとつであり,成長戦略のひとつである環境技術・省エネ技術などを基軸とした高い製品開発力。
○お客様の声・ニーズを,異なる多面的な視点で把握し,製品企画・開発に反映している企業の取り組み。

3 記事構成

(1)論壇
今回の論壇は,“東日本大震災とモノづくり中小企業の復興”について,明星大学の関満博教授に寄稿いただいた。被災地の企業は,連携と絆によって再起を進めており,「日本のモノづくり産業は,まことに逞しい」と関教授は述べている。その言葉に思わず身が震えた。関教授は,現場と支援側にミスマッチがないように,被災の形・事業の形態・時間の進み方・経営者の気持ちの持ち方などにより,必要とされる支援は異なるので,何よりも,現場を十分に実感することが必要であること,そして,地域同士・企業同士の平時からの深い交流・連携により,日本のモノづくり産業の明日をイメージしていくことが必要であることを提言されている。しっかりと胸に刻みたい。
(2)ケース・スタディ
①未来工業の瀧川克弘社長のインタビューをもとに,神奈川大学の中島健一教授に,“「常に考える」人づくりとものづくり”について,執筆いただいた。商品のオリジナリティ・人を大切にすること・成功のシナリオの3つを「常に考える」という企業文化に貫かれ,使用者の立場に立った製品開発への取り組みや,作業者を主役にする仕掛けづくりは,たいへん参考になる。人の能力を引き出す工夫を考えることこそ,経営者が真っ先に取り組むべき施策なのかもしれない。指示待ち人間を作ってしまうホウ・レン・ソウの否定,徹底した目的志向と現場確認姿勢,経営者のチャレンジを促す「私公混同」,人件費をコストとして捉えず徹底的に人を大切にしたものづくりの推進などの経営哲学に触れることができる。
②富士ゼロックスマニュファクチュアリングの小林邦夫氏と富士ゼロックスの清水目勉氏には,“継続した生産革新活動による競争力の強化”について寄稿いただいた。強い現場づくり・流れづくり(PULLの連鎖)・標準化の推進をベースに,リードタイム短縮,全体最適のアプローチ,変種変量生産への対応力強化を進めており,たいへん参考になる。作業標準書を作成するのが,海援隊ならぬ管理職で設立された「管援隊」という応援部隊であることも注目したい。また,モノづくり部門は,生産量が上がる変化に対して元気がでるため,生産計画を下限に設定する「低い構え」の考え方にも思わず頷いてしまった。数々の改善に,日本のモノづくりの強みと元気さが感じられる。
(3)テクニカル・ノート
東京大学の藤本隆宏教授には,“サプライチェーンの頑健性とバーチャル・デュアル化”を執筆いただいた。グローバル競争時代の大災害に対するサプライチェーン強化策の検討では,競争力と頑健性の両立が重要になる。頑健性を増強するためには,組織全体としての復旧能力の向上と,サプライチェーンの可視性向上・設計情報の可搬性強化に基づくバーチャル・デュアル化を中心に,技術革新や組織学習に取り組むべきと提案いただいた。頑健性を十分に確保できない場合は,在庫の増加,標準部品・共通部品の採用,ラインやサプライヤーのデュアル化など,従来の手法を補完的に用いてもよいが,それらの判断は,あくまでも競争の現実と論理に即して行うべきであり,一時の心理的反応で行ってはいけないという主張は,大いに納得でき,現実的かつ実践的アプローチとして検討すべき知見である。
(4)プリズム
①いろどりの横石知二氏からは,“世界中探したってこんな楽しい仕事はない”を寄稿いただいた。普段見慣れているものが,実は特定の顧客には,重要な意味を持つ付加価値商品であったという事例である。いろどりは,数多くマスコミで取り上げられているので,ご存知の方も多いと思う。もちろん本文で紹介されているように,意外な顧客ニーズを発掘したという話がポイントであるが,ここで注目したいのは,事業継続のために,高齢者が使えるコンピューターシステムを開発・導入したという点である。今や,農産物も計画出荷ではなく,需要出荷の時代であるから,IT化は必然であり,高齢者の方がしっかりとコミュニケーションツールとして使い切っていることに,いろどりの元気の源が感じられる。
②パナソニックによる,“Fujisawaサスティナブル・スマートタウン構想”について紹介した。スマートグリッドや省エネ技術は,日本の得意分野であり,今後成長が見込める分野である。スマートグリッドについては,実証実験も進められており,震災の体験も踏まえ,システムの頑健性強化に対する改良が加わり,さらに進化するものと考えられる。将来の成長の基軸として,日本の元気を促進する技術として期待したい。日本から,この分野における国際標準化規格を数多く提案いただき,グローバル規模の環境改善に貢献いただければと願う。日本の元気の旗頭のひとつとして,スマートタウン構想が広く浸透することを期待したい。

4 おわりに

特集内容を総括してみると,元気を出しやすい状況というのは,次のような企業の状態だと感じられる。
○企業が,人を大切にしていると同時に,各自が大切にされていると感じ取っている。
○目標管理の仕組みがあり,目標を共有化している。
○オリジナリティの高い商品を市場に出荷しており,社会に貢献しているという意識が高い。
○変化に対応できるしぶとさと粘り強さを持っている。
○変化に対応して成長する人材,志を持ち改革を牽引する人材が職場に存在する。
○悩んだ時には,視点を現場に回帰できる。
最後に,各論文から元気と勇気を与えていただき,感謝申し上げたい。今,日本の進むべき道は,やはりモノづくりをさらに磨きあげていくことにあると思われる。企業間そして産学官でお互いに連携して,切磋琢磨を続け,心新たに元気を出して,再活性化に取り組むことが大切である。今回の特集内容が,皆様の業務遂行に向けての元気に繋がればと願う次第である。
(江頭 誠/企画担当編集委員)