IEレビュー273号 特集テーマのねらい

 IE教育で伝えたいものは何か

1 特集のねらい

東日本大震災の影響を受けて電力事情が悪化し,国内生産の高コスト化に対する懸念が強まると同時に,空前の円高を受けて,海外からの部材調達や海外生産の拡大など,モノづくりの現場は急速に多様化・グローバル化が進んでいます。また,タイの洪水による生産現場や調達先の被災,欧州金融危機による不況の波など,事業環境は非常に厳しい状況になっています。このような状況で,世界中の企業を相手に勝ち残るためには,モノづくりの現場力をより高めていく必要があります。モノづくりの現場力を高めるためには,それを支える「人」の育成が重要かつ不可欠です。現場において問題点を発見し解決していける人材,モノづくりにおける技能やノウハウを継承し進化させていく人材,さらには,急激に進む多様化・グローバル化に対応していくために海外との文化,風土,環境などの違いを考慮して国内と海外を融合できる人材など,モノづくりの現場力を支える人材の育成が重要となっています。その現れとして,多くの企業では,改善活動を支えるための人材育成が行われています。しかしながら,育成に非常に時間がかかる,多様化・グローバル化に対応できる指導者が不足している,改善活動から生み出される結果がうまく経営貢献につながっていないなど,改善活動を支えるための人材育成のあり方や,伝えていくもの自体を変える必要があるのではないかと問われているケースも少なくありません。今回は,事業環境が変化しているなかで,若手教育,製造現場の人材教育,工場長クラスの研修など,改善活動を支えるための様々な人材育成の事例と,IEレビュー編集委員による座談会を通して,
①どのような人材が必要か(ニーズ)
②なぜ必要なのか(背景,ねらい)
③どのように取り組んでいるか(仕組み)
④苦労している点・工夫している点
を紹介しています。教育した人材に期待するもの,教育を通して伝えたい資質,考え方,必要とされるIE教育,改善活動とは何かについて探求していただき,今後の改善活動を支えるための人材育成について,新たな気づき,きっかけとなることが,本特集のねらいです。

2 記事の概要

(1)論壇
今回の論壇は,「“ムダ取り”と“人創り”~もったいないの薦め~」というタイトルで,愛知工業大学客員教授の加藤典孝先生に執筆していただきました。これまでに経験された生産革新活動から学んだことを人材育成のキーワードとして整理し,現場教育訓練の8つの事例で具体的に述べられています。改善した結果を維持し,さらなる改善を続けることは難しく,だからこそ,「現場の事象を観察し,そこに潜むわずかな“ムダ”を見つけ出す眼を養い,見つけた“ムダ”を排除する意志」と,「現場での改善の積み重ね(授かった知恵も使わなければ即座にさびる)」が重要であると説いています。
(2)ケース・スタディ
①AGC旭硝子
篠田正行氏に,「現場力向上につながる人の育成」と題して執筆いただきました。現場力を向上させ,現場を改革するのは「人」という考えに基づき,IE教育を通した人材育成について紹介いただいています。求められる能力と人材像を5つの資質に整理し,それぞれの育成ポイントとともに提示していただいています。また,人材育成のための階層的改善プログラム,改善専任組織による改善活動推進の支援体制などを具体的に提示いただいています。「日々自分の仕事を改善する」という強い信念のもとに,改善活動を浸透させていった興味深い事例です。
②オークマ
谷本修氏に,「若年社員の教育~新入社員から3年目まで~」と題し,次の世代を担う新人や若手のモノづくり教育に焦点を当てて,執筆いただきました。教育体系とその内容を具体的に紹介していただいていますが,そのなかで,若手の時から幅広い技術力と熟練した技能を教育することが,成長のスピードアップであり,現場を熟知しているからこそ技術開発の速さに対応できる,そのためには実際に現場に入り,現物を理解し,自らが考える習慣を身につけることが重要だと説いています。また,教育を通して伝えたい考え方も具体的に提示していただいています。
③TDK
山崎雅之氏に,「自立型モノづくり人材の育成と職場づくり」と題して執筆していただきました。近年の事業環境下で生き残っていくため,TDKのDNAを次世代に伝承する「モノづくり伝承塾」の考え方を取り入れ,製造プロセスの革新を自ら作り出せる強力なリーダーの育成に取り組んでいます。このなかで,リーダーのめざすべき姿と育成プロセスを,具体的な改善事例を通して紹介していただいています。
④トヨタ車体
平田洋行氏に,「IE教育を徹底した柔軟な生産ラインづくり」と題し,トヨタグループ№1の品質を獲得するきっかけとなった,いなべ工場での「基本の徹底活動」を紹介していただきました。全員参加型の「基本の徹底活動」により,現場の問題点を見つけ,解決し,指導する力を監督者に習得させると同時に,改善活動の成果を現場技術として蓄積させる取り組みから,新製品開発段階からもっと創りやすくする取り組みへ展開した事例を,具体的に提示していただいています。そのなかで,基本の積み重ねが「現場の技術力」であり,人が育つことで職場の風土が変わり,現場力が向上していくと説かれています。
⑤リコー
横山篤志氏,日吉泰之氏に,「現場力向上に向けての人材育成の取り組み」と題して執筆いただきました。生産現場での様々な課題を改善し,現場力を向上させていく現場リーダーの育成について具体的に紹介いただいています。育成レベルのばらつきを生じさせない教育プログラム,教育する人材に期待する能力や役割,現場リーダの能力を向上させるためのサポート体制,教える側の講師の育成,レベルアップの大切さなど,人材育成体系構築の考え方がまとめられています。また,海外拠点での人材育成の考え方とその取り組みについても提示いただいています。
(3)座談会
本特集号では,上記のケース・スタディに加えて,IEレビュー誌編集委員(産業界+学界)による,本テーマに関する座談会を開催しました。それぞれの組織で行われているIE教育や改善リーダ教育の実状を通して,人材に求められる資質,教育のなかでどのようなことを伝えたいか,期待する効果などについて,互いの意見を述べています。そのなかで,人材育成には時間がかかるがそれぞれの企業のニーズに合わせて,実践的な教育を行い,改善しようという意識を持った人たちをたくさん育て,継続的に活動を続けられることが企業の強みになるのではないかとまとめられています。
(4)プリズム
①アヴァシス
河口敦紀氏からは,「お客様の声から生まれた“アッとマニュアル”」と題し,言葉や文字では伝わりにくい技能やノウハウを効果的に伝えることができる動画マニュアルの有効性と,動画マニュアルを製作するツールを紹介いただきました。267号で紹介したツールを実際に活用したお客様の声をもとに,より簡単に製作できる新しい教育ツールとして改良し,導入後の効果も具体的に紹介いただいています。

3 おわりに

以上,論壇,ケース・スタディ,座談会,プリズムの各記事を通して,教育のコンセプト,教育した人材に期待するもの,教育を通して伝えたい資質,考え方などを紹介しました。共通していえることは,「基本を地道に積み上げる」,「改善しようという強い信念」ではないでしょうか。ツールや分析手法は,時代とともに進化していくけれども,改善活動を支える人材育成の根本,伝えたい資質・考え方は,時代によらず変わらないのではないかと感じています。
(梶川 真紀/企画担当編集委員)