IEレビュー276号 特集テーマのねらい

 現場改善を通じた改善力の向上

1 はじめに

中国企業をはじめとする海外企業の台頭,最近のヨーロッパ諸国の経済危急に端を発する急激な円高の進展など,日本の製造企業にとって,まったく気を抜くことのできない状況が依然として続いています。日本の製造企業は,優れた品質の製品をリーゾナブルな価格で提供する製造現場でのモノづくり力を武器に,これまでも幾度となく,その困難を乗り越えてきました。昨今では,米国のいくつかの成長企業を規範として,現場改善に振り向ける力を,もっと製品開発部門にシフトすべきとの急進的な意見も漏れ聞こえます。しかしながら,両者は車の両輪であり,互いの力をバランスよく高めていくことが重要ではないでしょうか。特に,IEの視点から日本の製造業を俯瞰するとき,日本の製造企業がさらに競争力を高めていくためには,「モノづくりはヒトづくり」としばしば言われるように,改善活動に携わる人たちの能力ややる気を高めるための仕組み作り・仕掛け作りを続けていくことが必要不可欠だと思われます。

2 特集のねらい

本特集号では,上記のような事柄を背景としながら,特に日本の製造企業が元気を出さなければいけない今だからこそ,その原点となる現場改善を特集テーマに取り上げました。この際,現場改善の事例を読者にご紹介するにあたってはひとつには,どのようなテーマを,どのような考え方や手立てで,各社が問題解決していっているのかを明らかにしたいと考えました。これを通じて,読者企業における解決すべき課題や取り組むべき問題を,昨今の製造環境を踏まえたなかで,改めて振り返っていただくためのヒントやきっかけが得られないだろうかと考えました。また,その問題解決のための手立てを読者の皆様へ提供したいと考えました。さらに,今回の特集を組むにあたっては,その現場改善活動に携わる人たちにどのような成長(改善力の向上)があったのかを明らかにしたいと考えました。個々の人材の成長の内容には様々なことが考えられますが,例えば以下のような事項を,個々の人材の改善力の向上として捉え,執筆を依頼しました。
・IEやQCに関する分析・改善技術(技法)の習得
・問題解決力の向上
・組織マネジメント力の向上
・リーダー力の養成
・モノづくりに対する当事者意識や責任感の醸成
改善活動の直接的な効果だけに焦点をあてるのではなく,改善活動の実施前と実施後の人的な変化,間接的な効果に注目することで,現場改善活動の必要性や重要性を改めて検証してみたいと考えました。現場改善の重要性を否定する企業はありませんが,一方で,現場改善には,「マンネリ感」や「やらされ感」,結果として,参加者のやる気意識や責任意識の減退が常につきまといます。このような現場改善を行っていく際の大きな壁を乗り越えていくためには,現場改善の直接的な効果だけに注目するのではなく,そこに関与する人たちの改善知識の向上や,改善活動への関心の醸成,やる気意識の高揚などの間接的な効果に目を向ける必要があると考えた訳です。このような視点のもとで,経営者層や管理者層をも一丸となって,現場改善をより長期的かつ組織的に取り組んでいくことの必要性を,読者の皆様と一緒に再考したいと考えました。

3 記事構成

(1)論壇
論壇は,慶応義塾大学の坂爪裕先生より,「3Sの徹底を通じた発見型改善のすすめ」と題して,製造企業における持続的な改善活動の進め方について論を進めていただいています。改善活動を,消耗型改善と発見型改善の2つに分類した上で,手段・手法を出発点とする消耗型改善ではなく,3S(整理,整頓,清掃)に基づく発見型改善の実施が,製造企業の持続的な競争優位性を確保する上で重要であることが示されています。改善活動の基礎中の基礎として,しばしば紹介される5S活動ですが,論壇では,なぜ3S活動の実践が,従業員の問題発見能力の向上に結び付くのか,そのメカニズムが理論的に示されています。
(2)ケース・スタディ
①NECソフトウェア北陸:同社からは,「組織力向上による現場改善活動」と題して,事務センターにおける仕事の付加価値および生産性の向上に関する取り組みをご紹介いただきました。現在,IEは,病院やホテルなどの製造業以外の様々な現場でも利用されはじめています。本稿では,同社における事務部門の統合化を契機に,この事務センターでの仕事の現状把握にはじまって,改善目標の設定や成果の見える化など,仕事の付加価値を高めていくための取り組み内容が読み取ることができます。
②アッシュ・セー・クレアシオン:アンリ・シャルパンティエなどの洋菓子の製造・販売で知られる同社からは,「現場改善を通した従業員の成長」と題して,製造工場における現場改善活動のいくつかをご紹介いただきました。梱包工程の内製化やセル生産を活用したモノの流れの整流化などの,改善事例を示していただくとともに,改善活動における人的・組織的な改善の取り組みについてもご紹介いただいています。改善活動の行うにあたっての心構えとして,やってみてから考えることの重要性が示されています。
③旭製作所:「成果を上げるための『集中の仕組み』」として,同社における納期順守率の維持・向上,製造リードタイムの短縮に取り組んだ現場改善事例をご紹介いただいています。TOC(Theory of Constraints)理論に基づくS-DBR(Simplified Drum Buffer Rope)の導入を行い,顧客受注に対して,残業時間を短縮しながら,安定的に注文に対応できる仕組みを構築した事例をご紹介いただきました。
④新神戸電機:本稿では,同社における設備保全の取り組みをご紹介いただきました。内層回路板への基準穴あけ工程におけるドリル設備のスピンドル交換の事例を取り上げ,そこでの予知保全に取り組む様子をご紹介いただいています。ドリルの芯振れを計測するための振動計の導入やスピンドルの振動波形を解析するためのFFTアナライザーの導入など,予知保全を可能にするための方具体的な方法と,それらの活動を自主保全にまで落とし込むことの大切さを強調していただきました。
⑤ミツバ・利根工場:同社からは,「TPM活動をベースとした改善力の向上」と題して,トップダウンを中心とするTP(Total Productivity)活動と,全員参加型のボトムアップ活動であるTPM(Total Productive Maintenance)活動からなるW-TPM活動の内容をご紹介いただいています。そこでは,MFCA(Material Flow Cost Accounting)の手法を利用して,ワイパーモーターの組立ラインでの改善事例などを執筆いただいています。
(3)テクニカル・ノート
本特集号では,上記のケース・スタディに加えて,「『営業プロセスのロス』解決と『営業の7つ道具』による展開の考察」と題して,東京工業大学の鷲谷早紀氏と寿精版印刷の鷲谷和彦氏のテクニカル・ノートを掲載いたしました。本稿では,受注活動における潜在需要の掘り起こしに向けて,営業活動におけるロスを6種類に分けることを提案しています。さらに,その分類に基づいて,ロスを排除していくための7つ道具を提案しています。
(4)プリズム
今回の特集テーマに関係する短編記事として,2件のプリズムを投稿いただいています。1件目は,大阪工業大学の皆川健多郎先生より,同大学で開催されている「ものづくりマネジメントセンター」での取り組みをご紹介いただきました。また,2件目は,ベーシック・マネジメント研究所の高原昭男氏より,製造現場におけるコーチングの必要性やその展開方法をコンパクトにご紹介いただいています。

4 おわりに

本特集号を通じて,特集テーマで掲げた「改善力」について,多少でも日本のモノづくりに役立つ視点が提供できればと期待しています。
(稲田 周平/企画担当編集委員)