IEレビュー281号 特集テーマのねらい

 現場改善活性化の取り組み

1 特集の背景

最近の日本経済は六重苦のひとつである円高や株安が好転し,業界によって温度差はあるものの,全体として景気回復の兆しが見え始めているように感じられます。日本は,元々保有資源が少なく「モノづくり」を主な生業とする貿易立国であり,勤勉な国民性とチームワークを背景に米国の管理手法も取り入れながら現場改善を重ね,世界一の品質とコストの優位性を保ってきました。しかし,現在は海外への製造拠点の拡大とそれにともなう人的リソースの分散,新興国の台頭,国内需要の伸び悩み,非正規従業員の増加などが顕著になっています。それらに加え,気苦労が多い管理・監督者になりたがらない若手社員に見られる価値観の変化,団塊の世代の大量退職にともなう技能伝承問題,そして客先からの大幅なコストダウン要求など,国内製造業を取り巻く環境は依然として大変厳しいものがあります。そして,改善活動を実施しようとしても,改善のための要員不足や投資費用の問題など,数々の制約があるなかで思うような改善活動ができていなかったり,従業員が「いやいややらされている」と感じて改善活動は何とか実施しているものの下火になってしまっている企業も少なくないのではないでしょうか。このような状況のもとで,どのようにすれば改善活動を活性化できるかは,大きな課題であると考えられます。

2 特集のねらい

本特集号では,上記の背景に基づき,現場改善が生産活動を支えるベースであるとの思いのもとで,生き残りをかけスピード感をもってうまく現場改善を推進していくためのポイントを,改善事例の紹介を通じて読者の皆様にお伝えしたいと考えました。そこで改善事例は,その内容をできるだけ具体的に記述いただくとともに,どのような運営の工夫やサポートがなされて苦労を乗り越え目標を達成できたのか,あるいはどのようにして新たな現場改善へと進化することができたのか経緯を明らかにしていただくことで,現場改善を活性化させ企業体質を強化していくためのヒントにしたいと考えました。具体的には,
・ 現場改善へのトップの参画がどのようになされて現場改善の活性化につながったのか。
・ どのようにして上流部門を巻き込んだ現場改善を行い,改善成果に結びついたのか。
・ 第一線で現場改善できる人材をどのようにして育成したのか。
・現場改善が経営成果にどのように寄与したのか。
そして,長く現場改善を続けてきたなかで,どのようにして苦労を乗り越え立ち直り,新たな現場改善へと進化することができたのか,現場改善活性化への道のりを記述いただく,あるいは継続的かつ意欲的な改善活動についてモチベーションの維持・向上の工夫がどのようにされたのか記述いただくように執筆者にお願いし,具体的な実施事例を紹介することとしました。

3 記事構成

(1)論壇
論壇は,愛知工業大学客員教授の加藤典孝氏に「三現主義の徹底による日本のモノづくり活性化の視点」と題して,同氏の20数年間におよぶ現場改善の経験に基づき,事例を交えながら同氏の想いを執筆いただきました。今までの日本のモノづくりの強みがどこにあり,その背景に何があるのか,また,現在その強みが薄れているなかで,日本人が現場改善のために今何をしなければならないかが論述されています。そこでは,まず現場を良く見ること,三現(現場・現物・現実)の大切さ,そして,日ごろの教育・訓練の重要性が熱く語られるとともに,コツコツと改善行動を起こすことが改善をスピーディかつ確実なものにするキーポイントであると指摘をされています。
(2)ケース・スタディ
①TOTOは「電子基板製造工程における現場力向上への取り組み」と題して,同社における現場改善の取り組みについて紹介いただきました。第1期改善活動として,5S活動やロス分析・作業の結合・工程間の間締め・整流化・ラインレイアウト変更などを中心とした生産性と品質の大きな改善について,そして,その後,改善効果が横ばいとなってきたことを受けて,さらに大きく成長するためには土台となる基盤強化と革新的な活動が必要と考え,第2期改善活動の基盤強化事例として,作業指導票の改善・運用見直し,革新活動の事例としてQFD,品質工学活用による不良低減の取り組み,さらには,外部審査による客観的な現場力診断結果を活用し,改善につなげステップアップしていった内容がわかり易く紹介されています。
②東京セキスイハイム工業は「間仕切工程の生産性改善」と題して,鉄骨系ユニット住宅のサブ組立工程とメインラインの現場改善活動による一貫生産方式化の改善事例をご紹介いただきました。特に活動の進め方として,工程間の壁を越えたチーム編成により今まで問題とされていなかった問題点の認識・共有化が図られ,仕掛削減・運搬ロス削減・省スペース化・セル化・品質改善などにつながったことについて具体例を執筆いただきました。
③NEC長野からは「修理リードタイム短縮に向けた現場改善の取り組み」と題して,同社の保守・修理事業における生産革新活動について紹介いただきました。生産計画にしたがって作業を実施する生産現場とは異なり,修理品の数量・種類が事前に計画できない保守・修理事業に対して,現状把握と2S活動を始めとして修理用部材管理の改善,間接業務の改善などの事例を紹介いただくとともに,地味な保守・修理職場がどのようにして活性化されていったかについて紹介されています。
④三菱電機からは「海外工場での品質意識を高める取り組み」と題して,同社パワーデバイス海外工場での生産ライン構築時の実体験を基に,キッティング作業品質を例に執筆いただきました。現地従業員への品質管理教育の効果的な方法や,現地従業員の品質意識の維持方法,さらには,品質意識改善活動により現地従業員が考える力を身に付け,自発的な改善ができるようになったことが紹介されています。
⑤タカラスタンダードは「改善活動を継続する仕組みづくり」として,早稲田大学の大森峻一氏に,同社福岡工場における5S活動と改善活動について紹介いただきました。5S活動では,これまでの進め方を見直し,社内の評価チームによる厳正な評価と一定の期間の後に指摘内容について改善が完了したか否かの再評価,全員参加による積極的な活動,工場のショールーム化などを通じた停滞しない5S活動の仕組みづくりが紹介されています。
(3)プリズム
①東芝からは「IE人材における現場改善活性化の取り組み」と題して,同社におけるIEの専門家であるIEインストラクタ制度,および役職者向けIE研修を通したIE人材育成と現場改善活性化の取り組みについて紹介いただきました。
②日立製作所は「スマートシティ実現に向けたスマートな次世代ファクトリー」と題して,東日本大震災以降大きな社会問題となっているエネルギーに焦点をあて,同社における生産計画とエネルギー供給計画の統合・連携管理により製造・エネルギーの全体最適をめざす実証プロゼクトの取り組みについて紹介いただきました。

4 おわりに

論壇およびケース・スタディを通して特集内容を総括してみると,現場改善が活性化するためには,次のようなことが共通して大切であると思われます。
①まず現場をよく見ること(三現の重要性)。
② めざす姿,ありたい姿を想い描くこと(ビジョンを持つこと)。
③リーダーシップ。
④部門の枠を超えた知恵の結集と活動(全員参加)。
⑤実際にやれる人材を創る。
⑥粘り強い努力。
⑦ 上司・役員参加の報告会や外部審査・ショールーム化などを通した改善成果評価によるモチベーションの向上。
本特集号が皆様の現場改善活性化の参考になれば幸いです。
(富田 耕市/企画担当編集委員)