IEレビュー285号 特集テーマのねらい

 改善リーダーの役割と育成

1 特集テーマのねらい

企業では,取り巻く様々な環境の変化に追従するため組織改革が必要となり,現状の業務プロセスをより効率的に改善していく,または,新たな形に変革していく活動が行われる。経営トップの号令で活動体制が組織される。そして,各職場においてその推進役を努めるのが「改善リーダー」と呼ばれる人たちである。柔軟で迅速に市場変化に対応するためには,改善リーダーの担う役割が非常に重要になってくる。しかし,現在の環境は改善リーダーたちにとって非常に厳しい。多くの企業では,団塊の世代が一線を退き,永年の経験を持つベテラン社員が少なくなってきている。そのため,若手にかかる負担が大きくなっている。そして,特に製造業に代表される状況であるが,海外生産の拡大と国内生産の縮小のため,成長期の実践体験が減少していくなかで若手社員たちが十分な技術的経験を積む機会が薄れている。職場を構成する人員も多様化している。高年齢化にともない年齢構成はいびつになり,正社員比率の低下と非正規社員雇用の増加により職場をまとめていく管理も難しくなっている。このようななかでも,改善リーダーは組織が必要とする改革を進めるため,数々の苦労と向き合いながらリーダーシップを発揮していくことが求められている。今回の特集では「改善リーダーの育成」に焦点を当て,企業風土の醸成に力を入れ,業務革新活動などの取り組みのなかで改善リーダーの育成が図られている企業の事例,また,現場の改善リーダーにより改善活動が推進され,活性化された風土を作り上げている企業の事例を紹介する。各企業により置かれた状況は様々であるがケースを執筆していただくにあたり,次のような観点から事例を紹介していただいた。
①グローバル化への対応と改善リーダーの育成
②様々な業種での改善リーダーの役割・育成
③時代の変化にともなう改善リーダーの置かれた職場状況の変化
④多様な人員構成の組織の改善リーダーの育成
⑤偏った年齢構成の組織の改善リーダーの育成
昨今,IEの取り組みも製造業だけでなく,サービス業など様々な業種に拡大している。そして,広くグローバル化が進み,職場の人員構成も含め非常に多様化した現場形態になっている。そのような現場で,改善リーダーの育成に力を注ぐ企業事例を紹介することにより,改革実行におけるリーダーの役割と,組織構築におけるリーダー育成の重要性を再認識する特集としてまとめた。

2 記事の構成

(1)論壇
名古屋工業大学の仁科健先生からは,「改善マインドをもつ製造中核人材の育成」のタイトルで,産学連携製造中核人材育成事業として「自動車部品産業に学ぶ中小企業の生産ライン管理者の育成」として採択された「工場長養成塾」について執筆していただいた。「工場長養成塾」における人材育成プログラムの考え方やそれに基づくカリキュラムが紹介されている。「製造現場での問題に自ら気づき,考え行動できる工場長の育成」を目的とし,職場の2S(整理・整頓)から他社の生産ラインの改善活動への参加にいたるまで,広範囲でかつ実践的なプログラムが構成されている。
(2)ケース・スタディ
①味の素の吉田宏氏,田中俊作氏からは,グローバルに展開している改善リーダーの育成について執筆していただいた。同社は世界130か国,工場数105に上る規模の国内外工場を持つ。そのグローバルな生産体制に対して展開を図ってきた改善活動推進リーダー育成の取り組みである「KAIZEN学校」と称するIE教育プログラムの歴史,カリキュラムについてまとめられている。海外工場の事例も含め,ワールドワイドな取り組みが紹介されている。
②イカイアウトソージングの萩原麻由美氏には派遣・請負事業から人材育成のあり方についてのケースを執筆していただいた。「人の力」に重きを置き,それが繋がることで「組織の力」が生まれ,大きな力を発揮するという考えで人材育成の取り組みを行っている。派遣・請負事業としての視点で「人づくり」についてまとめていただいた。
③富士ゼロックスの松本修二氏からは,国内企業が持つ課題である正社員比率の低下,社員の高齢化などによる現場管理力の低下・弱体化の課題を解決すべく組織的に取り組んだ事例について紹介していただいた。「ものつくり生産技術力を高める」こと,「現場の管理力・改善力の向上」という2つの重点方針を掲げ,現場リーダーを鍛え上げていく取り組みが書かれている。その位置付けにあるのが「基本道場」と「中核リーダー要請道場」である。一連の取り組みにより育成されたリーダーは,リーダー同士の絆が生まれ,以後ネットワークを持ち,その結果,組織の体質改善・風土改善に貢献していく過程がまとめられている。
④キユーピーの田中大喜氏,野﨑俊介氏,菊地史子氏からは,非常にユニークな改善活動の取り組みを紹介していただいた。改善活動のネーミングも,「夢をたくさん採る」という意味から『夢多゛(ムダ)採り活動』と個性的である。活動全体では,多くの人を巻き込む,やりたい気持ちを持てるというようなモチベーションアップをうまく引き出させる工夫が随所に展開されている。
⑤東芝キヤリアの青木威憲氏,東芝の大井川正氏にはIE人財育成の仕組みづくりについて執筆いただいた。グループ内の活動事例をフォーカスし,「人を大切にします」というグループ経営理念から教育・育成を継続し積上げていく事例を書いていただいた。「改善」と「連鎖する風土づくり」から「カイレン道場」と命名された教育体系は個々人のモチベーション向上や改善マインド向上を促進させていく取り組みである。
⑥三木パワーコントロールの髙木淳児氏からは,自社製品のなかで海外移管が決まりそうな製品を日本に残すための原価低減を自分たちの活動で行うという生産改革活動から,その成果として改善リーダーが育っていった経過が紹介されている。実際の現場改善の経緯と生産性・コストの面からの成果,そして,その改善の成果が自信となり,人を育てていくという良い循環のスパイラルが,その前向きな思いとともに紹介されている。
⑦日本レストランエンタプライズの三浦由紀江氏にはインタビューに応じていただいた。パート主婦からカリスマ所長になった話題の人であるが,現場の第一線にいるパート・アルバイト社員の力を引き出し,組織を活性化させていくリーダーのあり方について語っていただいた。何より現場を大事にし,力強く変化に立ち向かっていくその姿勢は,今の時代に必要とされるひとつのリーダー像として印象的である。
(3)プリズム
①G-Up Coachingの葛巻直樹氏からは,人材育成手法のひとつである「コーチング」について執筆していただいた。実際に製造現場での人材育成にコーチングを取り入れてきた筆者の経験から,その考え方や有用性,取り組むことで得られる変化などが紹介されている。改善活動などにも効果が得られるコーチングの導入についてまとめられている。
②金沢工業大学サブジェクト・ライブラリアン室の鹿田正昭室長からは,同大学図書館において,各学科および各過程から選出された教員によって構成された教育機関と図書館をリンクさせる制度であるSL制度について,その制度と学習支援についてまとめていただいた。

3 おわりに

今回の特集テーマ「改善リーダーの役割と育成」について,各企業から際立った取り組み事例を執筆していただいた。それぞれの企業が,取り巻く環境下での種々の課題に対して「改善リーダー」の重要性・必要性を認識し,各々に工夫を凝らし組織的な取り組みをされている。改善リーダーの育成は,知識・技能の修得や現場での活動の実践だけでなく,人間性の面やリーダー同士の絆という部分まで考えられている。その結果,企業ではリーダーの成長に加えて,組織そのものの強化が図られるという大きな成果につながっている。まさに「企業は人なり」ということであろう。本特集によって,改善リーダーの育成に加えて,組織を前向きに活性化させていく取り組みの参考になれば幸いである。
(加山 一郎/企画担当編集委員)