IEレビュー287号 特集テーマのねらい

 生産準備・設計開発プロセス

1 特集テーマのねらい

私たちモノづくりの企業にとって重要なことは,市場競争力の増大と維持であり,そのためには,顧客ニーズに合った製品をタイムリーに,そして継続的に市場投入することが必須となっています。そして競争力の維持のためには,競合に対するQCDでの優位性の確保が必要であり,設計開発および生産準備段階で,コンカレントな活動によって,より完成度が高く,手戻りの少ない製品・モノづくりを実現し,製品コストと開発コストの両面で成果を産み出すことが強く求められています。その実現に向けた有効な手段として,デジタル・エンジニアリング(Digital Engineering,以下「DE」)という言葉が普及してからだいぶ時間が経ちました。DEという言葉は,企画・開発・設計・生産など一連のモノづくり工程において,製品に関する一貫したデータをコンピュータ上で共有かつ有効活用しながら,モノづくり工程の全体を効率化していくための取り組み全体を表していますが,その実態は10年前,20年前の技術レベルから,大幅に進展してきています。例えば,当初はCAD/CAM/CAEの活用に注目が集まっていましたが,近年ではCATや3Dプリンタ技術の登場により,従来のバーチャル事前検討から,試作の一部代用による実機検証および検査へと,活用範囲の広がりは目を見張るものがあります。すでにこれらの適用が製品開発や生産準備に不可欠な条件になっていることは事実ですが,一方で,期待通りの効果を挙げられない課題も多くあるのではないかと思われます。そこで今回の特集では,設計・生産準備プロセスにおけるIE的な視点を交えながら,「設計・生産準備における生産性向上」やデータの共有による「見える化=見える設計・生産準備プロセス作り」を果たしている最新の事例と,そこに内在している課題を共有できるように,以下のような記事をまとめてみたいと考えました。
• DEのこれまでの取り組みおよびCAD/CAM/CAEを中心とした最新のプロセス改善/改革事例の紹介。
• その際に,自社製品の特徴に合わせたカスタマイズ化や改善/改革のポイント,プロセスを定着させるための工夫や苦労。
• さらに一連の改善/改革活動からの気づきを通し,継続してQCDの向上につなげるナレッジの構築や,サポートするための仕組みをスパイラルアップさせた点。
• 一連の活動を通じて得られた経営的効果もしくは現在の課題認識。
• 最後に,まとめとして,IEの視点も踏まえ,「DE」に対する今後の期待や課題。

2 記事構成

(1)論壇
成蹊大学教授の篠田心治先生に,「IE的視点から見た生産準備活動の役割」と題して現状を執筆いただきました。本テーマは,篠田先生が企業との共同研究活動を進めているテーマであり,「生産準備にこそ,IEの視点が必要である」ということを具体的な事例紹介も含めて紹介いただいています。そのなかで,新たな思考をもって,創造的かつ想像的にラインをデザインしていくために必要なこととして,「コンセプト」と「デザインしていく順番」の重要性について述べられています。また具体的なケースとして,「価値作業・不要作業」というIErにとって馴染みのある明快なコンセプトに基づき,生産準備段階でのIE的視点の必要性について分かりやすく紹介されています。IE部門が生産準備活動に入り込み,価値作業率が高く,安くて効率的で手間のかからない,人に優しいラインのデザインをいかに実現していくか,改めていろいろな気づきを与えていただける内容になっています。
(2)ケース・スタディ
①富士ゼロックスの村野浩氏,長泰孝氏,近藤信善氏,雨宮大樹氏に「デジタル・ワーク・ウェイ(DWW)の変遷」と題して執筆いただきました。富士ゼロックスでは,10年以上前から設計・製造プロセスへの3次元モデリング導入に取り組み活動されています。全体の活動概要も紹介いただきながら,生産準備以降の工程で,いかに3次元モデルを活用し,経営的な成果を上げてきたか,そして現在,どのような取り組みを進めているかについて,具体的に紹介いただいています。具体的には,富士通の3次元仮想検証ツール「VPS/Manufacturing」とラインシミュレータ「GP4」をベースにした取り組み事例を紹介いただいています。ただし,いずれの事例においても,ツールをそのまま使うのではなく,必ず+αの要素を付け加え,個別業務プロセスのニーズを100%カバーしつつ,同社にとっての競争力の源泉となるプロセス作りを重視して,全社一丸となって取り組んできた内容について幅広く執筆いただいています。個別の事例はもとより,特に海外生産の比率が高いなかで,どのように日本における役割を果たしていくかという点でも非常に参考になる事例です。
②伊藤忠テクノソリューションズの江渡寿郎氏,大西慶弘氏に「切削加工分野におけるデジタル・エンジニアリングの活用事例」と題してその現状を執筆いただきました。同社では,長年にわたり解析,シミュレーション技術の蓄積・高度化を図り,解析ソフトウェアの販売サポートおよびサービス提供に携わっていることは広く知られています。今回は,そのなかでも近年,デジタル・エンジニアリングの要望が強い切削加工分野の解析技術動向に関して紹介をいただいています。解析ツールを使った具体的な解析事例も取り上げられており,適用分野とその可能性についても参考になると思われます。また最後に,解析ツールを導入すれば解決してくれるわけではないので,シミュレーション技術を生産の現場で活用するに当たっての解析技術や加工に対する理論的な知識の必要性と,そのための人材育成に関しても提言をいただいています。
(3)プリズム
デジタルプロセスの根本昭二氏に「デジタル生産準備ソリューション」と題して執筆いただきました。ここでは富士ゼロックスのケース・スタディでも取り上げられている「VPS」および「GP4」について,これまで多くのお客様で導入・立上げを行ってきた経験・ノウハウを基に,その基本性能,活用事例,ポイントなどを簡潔に紹介いただいています。ケース・スタディと併せて読んでいただくことで,より理解が深まるものと思います。また最後に,VPSおよびGP4を活用し大きな成果をあげられたお客様の事例公開サイトも紹介されていますので,参考にしていただけると幸いです。

3 おわりに

今回の特集を通じて,DEの進歩とその活用において,特に生産準備プロセスを中心に様々な取り組みをしていることが確認できました。また,論壇で成蹊大学教授の篠田先生が提言されている生産準備段階におけるIEの視点の必要性についても,ケース・スタディやプリズムを読み込んでいくと,改めてIEの視点を大切にし,地道に活動しているケースが多く読み取れると思います。さらに,DEのツールも紹介されていますが,ツールはめざす姿を実現するための手段であり,めざす姿をきちんと描き,その実現に向けてツールを正しく理解し,カスタマイズ化を図ること,そして,それらを実現するための人材育成の重要性についても改めて気づかせてもらえる記事になっていると思います。近年では,3Dプリンターなどが非常に大きな注目を集めており,設計・生産準備のプロセスにも大きな変化をもたらすかもしれません。しかし,その活用に当たっても「創造的な思考」を常に持ち,IE的視点をきちんと持って取り組んでいくことの必要性を再認識することができると考えます。本特集が多くの方々の参考になればと願っております。
(村上 宏幸/企画担当編集委員)