IEレビュー289号 特集テーマのねらい

 こだわりの現場改善

1 特集テーマのねらい

政権交代後の一連の経済対策は,わが国経済を回復傾向へと導いている。消費増税による駆け込み需要による反動も全体的には和らぎつつあるようである。さらには,海外の先進国を中心とした経済状況の回復もこれに拍車をかけている。この状況に乗じてか,年明け早々から国内への生産回帰のニュースも聞かれるようになってきた。このことは,これまで以上にモノづくり現場における改善活動への関心を引き上げることにつながっているといえよう。企業の競争力を向上するためには,開発力,製品設計力,販売力などを高めていくことは必須であるが,それらを生み出す現場力を高めることも併せて取り組むべき課題である。先般,当協会にて編集出版された「現場力を鍛える」では,この現場について,「最終顧客に一番近い場」,「問題が一番顕在化する場」といった表現をしている。またこの現場では,「常により良い条件を志向した活動が取り組まれている」とも述べられている。その活動こそ,現場改善といえるであろう。しかしながら,持続可能な企業の成長を考えたとき,現場改善に求められる課題は大きい。現場改善の活動を形式的に取り組むだけでは,真の成果は望めない。またやみくもな現場改善は,現場における人材の疲弊を招き,活動はいずれマンネリ化し,そして停滞してしまう。現場改善の活動を停滞させず,かつ促進させるためにはどうすればよいのであろうか? モノの流れをつくる,人を中心にする,ITを活用して見える化を徹底するなど,その切り口は様々であるが,活動を支える「こだわり」を有することもそのひとつとして考えられる。そこで本特集号では,以上の背景に基づき,生産活動の原点ともいえる現場におけるさまざまな「こだわりのある現場改善」の活動について,その優れた事例を紹介し,その見方や考え方,そしてポイントをまとめ特集としたいと考えた。以上より,この特集では,主に現場改善に関する各企業の取り組みについて,以下のような記事をまとめてみたいと考えている。
• IEの基本となる原理原則をベースとした取り組み
• 設備の改良,自働化への取り組み
• 現場の人材が活性化する楽しさを追究した取り組み
• ITを活用した見える化を促進した取り組み
• 間接部門におけるIE的視点による現場改善の取り組み

2 記事構成

上記のねらいにそって,今回の特集では,以下の論壇1件,ケース・スタディ5件,プリズム2件の記事を掲載している。主な内容を,以下に要約する。
(1)論壇
政策研究大学院大学の橋本久義先生に,「中小企業は日本のまごころ・世界の宝~いまこそ発揮せよ,日本の現場力~」と題して執筆いただいた。大企業を中心とした業績の回復により,日本経済は景気回復への道の途上にある。一方で,その成果が充分に中小企業にまでは浸透していないといった意見もある。そのことについてグローバル化,IT化,そしてサービス産業化といった観点から説明をし,中小企業の業績回復の前提条件は整いつつあると述べている。また,中小企業の現場力について2社の実例を紹介し,日本経済の源泉としての中小企業,そしてその現場力の重要性について主張されている。
(2)ケース・スタディ
①東レの伏見博幸氏に,「オペレータによる情報通信技術活用にこだわった生産現場の改善活動」と題して執筆いただいた。ITを活用した見える化を支えるシステムは,オペレータが見たい情報を適切に表現する必要がある。同社では,オペレータ自らがシステムを構築し,それを活用した改善活動にこだわり,取り組みを進めている。オペレータ層に対する情報通信技術活用への動機づけ,支援,そしてExcel教育は,情報通信技術の能力を底上げし,そのことが改善活動を支えている。本記事では,その取り組み内容と改善事例が紹介されている。
②クボタの東隆尚氏に,「タイ生産拠点における改善活動」と題して執筆いただいた。グローバル化の対応として,多くの企業が海外へ生産拠点の進出を行っている。同社でも農業機械産業のグローバル化の進展に対応すべく,2007年にタイに工場を設立,海外での一貫生産の取り組みを開始している。本記事では,様々な問題が生じるなか,品質を最優先した現地化へこだわった取り組みが紹介されている。またクボタの5ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)の海外における成果についても紹介されている。
③日鐘の嶋啓視氏,カネカの是枝義郎氏に,「カネカ生産・技術(モノづくり)ポリシーを基盤とした製造力強化」と題して執筆いただいた。カネカグループでは,創立60周年の2009年に長期ビジョン「KANEKA UNITED宣言」を制定している。ここでは4つの成長分野にフォーカスし,「カネカ生産・技術(モノづくり)ポリシー」を基盤とし,こだわりを持った改善活動に取り組んでいる。今回は,その事例のなかから,合成繊維(カネカロン)の製造を請け負っている日鐘が自立して取り組んだ改善事例について,グループ企業との価値観の共有とその取り組みについて紹介されている。
④島津製作所の平井毅氏に,「問題解決プロセスにこだわった小集団改善活動の推進」と題して執筆いただいた。同社では小集団改善活動を1985年からスタートしている。その後,1995年には推進事務局を設置し「自分のことは自分のために自分でやろう(Do It Ourselves)」といったDIO活動を展開している。活動の目的を人材育成とし,問題解決プロセスを経験して体得することこそがDIO活動であるとこだわった同社の取り組みが紹介されている。
⑤村田機械の荒谷浩之氏,本田真一郎氏に,「国内生産へのこだわりと新たな『自働化』への取り組み」と題して執筆いただいた。同社では,海外生産市場への対応とし国内での生産にこだわりを持っている。国内で開発と製造が互いに影響しあうことにより,付加価値の高い製品を開発することができるとの考えからである。しかしながら,国内生産を実現するためには,製造現場も同様に付加価値を高める必要があり,従来,熟練技能が必要とされた工程に対して,新たな「自働化」の観点で取り組みを進めた。本記事では,そのプロセスと成果が紹介されている。
(3)プリズム
①香川大学の石井明先生に,「感察工学のすすめ」と題して,執筆いただいた。製造現場の自働化への流れは産業用ロボットの活用も含めて加速をする一方,人の視覚を使って行う作業や動作もまだ多数ある。目視検査もそのひとつである。本記事では,佐々木章雄氏が提唱する「周辺視目視検査」を人の視覚情報処理の観点から解明を試みる感察工学を紹介している。そして,この取り組みの背景には「見逃しゼロ」の目視検査技術の確立へのこだわりがある。
②日本生工技研の若山昇一氏に,「今こそビデオIEで現場力の強化を」と題して執筆をいただいた。作業改善に取り組む企業は多いが,時間の測定やその後の分析に時間がかかるといった問題がある。この解決の手段としてビデオ分析の手法があるが,そこにも問題はある。本記事ではこれらの問題をまとめ,同社の開発したタイムプリズムの有効性と特徴を紹介し,ビデオIEに必要な3つの要素について述べられている。

3 まとめ

今回の特集を通じて,現場における改善活動は脈々と取り組まれ,かつその背景にはぶれない軸を持った「こだわり」が確かに存在していることが明らかとなった。折しも国内生産の機運が高まる今日,これらの事例がそのまま自社の取り組みに活用できるとは限らないが,そのこだわりを追究する本質的な考え方は広く多くの現場にも適応可能であると考える。ぜひとも現場改善の取り組みに対して,改めて「こだわり」といった視点で見直しを行い,さらなる成果へと進化していくことを期待したい。
(皆川 健多郎/企画担当編集委員)