IEレビュー292号 特集テーマのねらい

 本質的安全への取り組み

1 特集テーマのねらい

「IEレビュー」誌では、これまで安全の問題に絞って特集テーマを企画することはなかったと思います。どちらかと言えば、安全は当然の要件として、その上に成立する生産性向上やQCDの改善に関する事例などを多く取り上げてきました。
しかし、昨今の事例には、当然保証されるべき安全が十分に担保されていないケースも見られます。安全は一度でも崩れると、消費者や働く人たちに危険をおよぼすだけでなく、長期的に企業の経営に大きなダメージを与えます。
そこで本特集では、「本質的安全への取り組み」をコンセプトに、下記の2つの視点で特集テーマを選定し、広く読者の皆様の参考になる特集にしたいと考えました。
<視点1>企業の安全への取り組み事例
QCDの原点として、今一度安全の本質を見つめ直すために、各企業で行われているヒヤリハット、KY(Kiken Yochi)活動、ZD(Zero Deffects)活動など、本質的安全への各社の取り組みを紹介し、読者の皆様の活動の参考にしていただく。
<視点2>マネジメントシステムやISOの動向
本質的安全への取り組みに対するサポート・推進をする立場の方々から、最新の取り組み内容や動向を含めた活動を紹介し、改めてその意義や有効性そして最新動向を共有し、今後の活動の参考にしていただく。
皆様の活動の参考にしていただけると幸いです。

2 記事構成

(1)論壇
公益財団法人労働科学研究所の余村朋樹氏に「組織の安全性を向上させる取り組み」と題して執筆いただきました。副題に~産業組織へ安全文化の考え方を導入する具体的方法~とあるように、様々な活動によって“安全文化”を醸成するステップのポイントや“安全文化”の醸成度合いを見える化できるツールが分かりやすく紹介されています。
特に、管理者、責任者、現場作業者という組織階層・構造別の安全に対する相互評価による層間ギャップ(共有性)の測定により“安全文化”の醸成度合いの見える化し、そしてその結果を踏まえた改善促進を図る考え方は、多くの企業の参考になりうると思います。
さらに、組織内の業務の分業化や外注化が進んでいる現在、このようなアプローチが重要になること、そして、常に今の安全に対する取り組みが、最適の解ではないかもしれないという意識を持って、5~10年の長いスパンで“安全文化”の醸成に取り組む事が重要であるということも提言されています。
(2)ケース・スタディ
①中央労働災害防止協会の斉藤信吾氏に「安全衛生活動に取り組もう」と題して執筆いただきました。
労働安全衛生システム(OSHMS)について、基本的なことから分かりやすく紹介していただきました。
リスクアセスメントやKYTといった手法、目標達成意欲の増進や責任と権限といったマネジメントの進め方のポイントなど、一読してあらためてその意義・重要性について認識することもありました。
2014年の労働安全衛生法改正により、ストレスチェックや化学物質のリスクアセスメントが義務化されています。日常の本質的安全への取り組みにあたっては、安全に対するプロフェッショナル機関の力も上手に借りて進めていくこともこの機会に考えていただければと思います。
②社会福祉法人「光友会」の一杉好一氏には、「わが安全活動の回想」と題して執筆いただきました。
氏が東邦チタニウムのTPM推進室長を勤めていた際のTPM活動と連携した安全活動の取り組みが紹介されています。
TPM活動をベースに、トップダウンとボトムアップの活動を上手に融合させながら、安全活動を展開されてきており、特に作業のやりにくさ≒作業ストレスレベル評価という実態を可視化する手法に昇華させ、安全への感性を高め、モチベーションの向上を図り、PDCAサイクルを廻すのに有効なプロセスにした一連の取り組み内容は秀逸であると思います。
また、体験型学習の重要性についても触れられ、具体的な取り組み事例も紹介されています。
③慶應義塾大学の市来嵜治氏には「ヒヤリハットを安全文化の醸成に活かす」と題して執筆いただきました。
副題に~東京地下鉄・綾瀬車両基地の取り組み~とあるように、東京メトロ綾瀬車両基地での現場インタビューを通して、本質的な安全への取り組みについて考察いただいています。
過去に起こった脱線衝突事故を契機として、二度と事項を起こさせないための様々な取り組みが行われていますが、今回は、綾瀬車両基地におけるヒヤリハット活動の推進を中心に紹介されています。特に「作業員にいかにヒヤリハットを投稿してもらうか」という、推進部門の知恵と工夫が、具体的に紹介されています。
例えば、投稿内容は上司・推進部門が積極的に動き、事務所も含めた全員で対応してくれる、ということを職場のなかで見えるようにして、「投稿しようかな」という気持ちにさせるなど、推進者の皆さんが共通して悩んでいることの解決のヒントも多くあります。
④SWS東日本の内海尚氏に「本質的安全への取り組み」と題して執筆いただきました。
住友電装グループの一員であるSWS東日本は、本質的安全化の実現に向け、2005年から地道にモノの面、人の面の双方で災害“0”に向けた改善に取り組まれています。
そうした長年にわたる活動を通じて、本質的安全化の取り組みに重要な3つのポイントを的確に整理され、「安全の3つの共有管理」、すなわち“変化点管理”、“作業遵守管理”、“異常管理”の3つの視点でPDCAのサイクルを廻しながら、現在も事業所全体で取り組み、着実な成果を挙げてきている内容を、具体的な事例を交えて紹介いただいています。
この3つのポイントは皆さんの参考になると思います。
(3)プリズム
中央労働災害防止協会の斉藤信吾氏に「労働安全衛生マネジメントシステムのISO規格化」と題して執筆いただきました。
2016年度に制定が予定されているISO45001の現在の検討状況や、その特徴が分かりやすく整理されています。このような規格化に関する動向についても、この機会に認識いただき、今後の活動の参考にしていただきたいと思います。

3 まとめ

今回の特集では、「本質的安全への取り組み」と題して、企業における取り組み事例と、マネジメントシステムやISO化の動向などの2つの視点で紹介させていただきました。
企業の取り組み事例では、SWS東日本、一杉氏から地道な活動を通じて、独自に工夫された推進の仕組み・ツールなども交えながら紹介いただきました。
東京地下鉄のインタビュー記事でも、ヒヤリハット推進を中心に多くの企業が共通している悩みを解決するヒントもあったと思います。
一方で、OSHMSなどのマネジメントシステムや、今後のISO化との連携しながら、全社視点でのPDCAの継続サイクルを廻すのに有効な手段であることも改めて認識できたと思います。
そして、論壇で余村氏から紹介された組織へ安全文化の考え方を導入する具体適方法は、自社の安全活動による「安全文化」の定着度合いについても定量的に把握できるヒントとなったと思います。
「本質的安全の追求」に終わりはありません。トップからボトムまで、すべての組織構造で安全に対する意識を維持し改善していくためには、地道に長期的なスパンで取り組むことの重要性を改めて考え直す機会になる特集記事でもあると思います。
本特集が多くの方々の参考になればと願っています。
(村上 宏幸/企画担当編集委員)