IEレビュー294号 特集テーマのねらい

 IT活用の新しい拡がり

1 特集テーマのねらい

情報技術(IT)は、組織内での集中処理を志向した汎用機の時代、組織間での分散処理を志向したPCの時代、そして組織・個人間での集中・分散処理を志向したインターネットの時代へと変遷を遂げてきた。さらに通信技術も融合し、情報通信技術(ICT)として組織・個人に加えて物質も対象としたユビキタスネットの時代へと進化している。製造現場においても、早くから業務効率の向上のためIT技術の活用が進められる中、本誌においても特集テーマとしてこれらの話題に折々でフォーカスしてきた。そのような中、近年ではクラウドやビッグデータの技術を活用したIoT(Internet of Things)、そしてインダストリー4.0といったコンセプトが登場し、年明けからはAIにも注目が集まるなど、一種のブームの様相を呈している。また、3Dプリンタ、3Dスキャナーなどの技術の活用、さらには多機能ロボットを導入する事例も多数見受けられ、ITをどのように活用していくか、多くの製造現場で検討と実施が着実に進められている。
IT活用の動向をつかみ潮流に乗ることも重要ではあるが、過度のIT化は、現場をかえって遠くし、現状を見えにくくするといった問題を生じるリスクがある。IEのねらいは、「仕事のやり方や時間の使い方を工夫し、豊かで実りある社会を築くことにある」とするのであれば、最先端の概念の基盤となるIT活用の事例はまだまだ現場には多数存在し、その内容は読者にも参考になると思われる。そこで、各社におけるITを活用した様々な取り組み事例を集めて、特集を企画することとした。

2 記事構成

(1)論壇
法政大学の西岡靖之先生に、「IoTが変える新たなIEの時代~ものづくりを中核とした第4次産業革命のこれから~」と題して執筆いただいた。
日本の生産現場では、管理者、技術者のレベルが基本的に高く、そのことが結果的に個別のITが工場全体、企業全体でつながることを妨げている。IT化はトップダウン型であるのに対して、日本の現場はボトムアップ型である点にもその原因がある。日本の製造業はこれまで、最小の資源で最大の価値を引き出そうとするIEの技術と考え方によって世界のトップに躍り出たが、このプロセスは高い現場力により支えられていた。IoTはボトムアップ型であり、IEで培われた標準化の取り組みが有効となる。よって、IEに取り組んでいた者がそのままIoTに取り組む必要性を示している。その他、論壇では、標準化の2つの側面、“ゆるやかな標準”であるIVI、そしてEMSならびに中小企業についても言及されている。最後には、IEプラスIoT人財が中核となって、オープンマインドで外部の企業、海外の企業ともつながり、ボーダレスな世界の中で、企業が持つ誰にも負けないコア技術を守り育てていくことの必要性が指摘されている。
(2)ケース・スタディ
①住友電気工業の濱田徳亜氏には「生産システム進化のためのIT活用~異常とムダが見え続ける仕掛け~」と題して執筆いただいた。
同社では、同社流のジャスト・イン・タイム生産の実現をめざして、「組立型」、「材料型」、そして「長モノ型」の3製品の形態別に生産システムを構築し、改善を行っている。3製品の形態別に最適な生産システムの構築を進める上で、情報の見える化は必須で、モノの流れと情報の流れのそれぞれの「よどみ」を最少化するためにITを活用している。「見える化」は、単なる表示の意味のみならず、「気づかせる/知らせる」「迅速に対応する/先手管理する」ところまでを指すが、現時点では「気づかせる/知らせる」までをIT活用の範疇として取り組まれた内容について、事例も含めて紹介されている。
②ダイキン工業の北出幸生氏には「空調機保守サービスにおけるIT活用~空調機のセンサデータを活用した故障予知および省エネ制御サービス~」と題して執筆いただいた。
同社では、製品のアフターサービスを顧客満足度の重要要因と捉え、横浜と大阪に「ダイキンコンタクトセンター」を設置し、全国各地のサービスステーション、部品センターともネットワークで接続し、24時間365日対応の体制を構築している。また、故障を未然に防ぐために機器の状態を監視し、得られたデータを分析するといった先手管理の仕組みも構築している。記事では、空調機の遠隔監視システムやクラウドを活用したサービスコンテンツを紹介している。
③レンゴーの衣斐康二氏には、「レンゴーがめざすIoT~IoTを活用した段ボール工場の省エネ~」と題して執筆いただいた。
同社では、創業110年を迎える2019年に向けた中期ビジョンの中で、IoTをはじめとする情報通信技術の活用についても触れている。同社のIoTは、一般的なIoT(Internet of Things)と併せて「様々なモノや技術を社内外のネットワークで連携する」といった意味を込めてIoT(Intranet of Technology)を定義に加えている。同社の製品である段ボールは製品としての差別化が難しく、その製造方法自体が企業競争力となる。そのため、製造とエネルギー使用の履歴データ解析によるスマート工場への取り組みを進めている。
④日本電気の杉山圭一氏・小梁川秀樹氏には「NECの考えるIoT時代のものづくり」と題して執筆いただいた。
同社では、IoTを活用した次世代ものづくりを支えるソリューションとして、2015年6月に「NEC Industrial IoT」のコンセプトを発表し、同年11月より自社生産拠点にてIoTを活用した実証事件を開始している。記事では、NEC Industrial IoTの4つの特長を示し、同社での実証の事例、さらに「次世代ものづくり」に向けた取り組みについて紹介している。
⑤鹿島建設の赤木宏匡氏・國近京輔氏・森田順也氏には「スマートデバイスを活用した施工合理化~建設現場のIT化~」と題して執筆いただいた。
同社では、2012年4月よりスマートデバイスの導入を開始、離散して稼働する建設現場において合理化を促すことを目的に活動を進めてきた。スマートデバイスの特徴を、自由な操作性、優れた携帯性、通信機能、手書き入力と写真撮影、ファイル閲覧、そしてネットワーク機能といった点でまとめ、それぞれに関する事例を示している。またGPS機能を活かして開発された2つのシステムも紹介されている。その成果の一例として、間接業務における労務費が30%削減されている。
⑥パナソニックの荒井直人氏に「IE&ITソリューションによる現場革新~IEとITを融合させたソリューションの活用による生産革新活動の加速~」と題して執筆いただいた。
同社では、「モノづくり基礎体力」づくりに位置づけられる「A-Nextセル生産革新」活動において、同社のモノづくりの活動の方向性を示した“モノづくりアセスメント”を活用した活動を実施している。活動に際して、IEとITを融合させたソリューションツールである「標準作業ナビ」を開発している。記事では、その活動における4つの課題を示し、その課題解決のために開発を行ったウエアラブル機器を用いた改善事例も紹介されている。また、ITの活用について、IEと組み合わせることの有効性についても述べられている。
(3)プリズム
構造計画研究所の野本真輔氏に「見える化と業務プロセスフリーがもたらすSCM改革」と題して執筆いただいた。同社が開発・販売および導入支援を行う生産管理システム「ADAP」について、当初、リードタイム短縮による在庫削減を目的としてシステムが開発されたが、「つながりの見える化」と「業務プロセスフリー」の点で改善の効果が見られた点についてまとめられている。

3 まとめ

今回の特集を通じて、モノづくりの様々な現場にてさらにIT化が拡がっている実態が確認できた。そして、IT化の拡がりにIEの見方が不可欠である点も、すべての記事を通じた共通のポイントであった。
本特集号に際して、ご多忙の折にも関わらず、記事の執筆に関してご協力をいただきました執筆者の皆様に、心より感謝申し上げて結びとしたい。
(皆川 健多郎/企画担当編集委員)