IEレビュー213号 特集テーマのねらい

 中堅・中小企業の挑戦

1 はじめに

中堅・中小企業にとって「寄らば大樹の陰」で、大企業の傘下にあって受身の経営を続けていれば安泰だった時代から、銀行の貸し渋りや系列の見直し・安い海外製品の進出など、取り巻く環境は厳しさを増している。
そこで、 これからの中堅・中小企業のあり方を「自立」と「連携」をキーワードに、逆風のなかで新たな活路を目指して挑戦する中堅・中小企業について各社の取り組みを通して考えてみたい。

2 「自立」とは

近年大企業は下請企業選定の際に、従来の系列重視から、「短納期への対応能力「品質保証能力」「技術開発能力」「企画提案能力」を重視する方向へ変わっている。それらをうけて、「特定親企業への依存度低下」「市場直結型製品開発による脱下請け」といった経営戦略が必要とされてきている。これらはすなわち、今までの受身的な取り組みからの自立を意味している。従来の自立という考え方では、「他の企業が取り組めない特殊技術を持つことによって差別化する」というものが中心であった。しかし、このような「打ち上げ花火」的なものは一過性で、商売になるとわかると大企業が参入してすぐに過当競争となり、多額な投資を行って新技術を開発しても回収できないまま大企業に利益だけを取られるというケースも多い。そこで、単なる新技術だけに頼った自立ではなく、生産体制の整備や情報化といった地道な努力によって真の自立を志向している企業を特集してみた。

3 「連携」とは

グローバリゼーションが進展し、需要動向の変化や技術革新が早いテンポで進むなか、 これらの環境変化に応じて中堅・中小企業が生き残っていくためには、ネットワークを活用した経営が有効と考えられる。従来、新しいマーケットの情報収集や取り引き先の確保というのは、系列の大企業にお任せというスタイルが主流であった。しかし、昨今は中堅・中小企業とはいえ、みずからが積極的に情報収集や情報発信を行わなければならない時代である。規模が小さく人員も限られている中堅・中小企業にとっては、インターネットの活用というのは重要な戦略と考えられる。特に、異業種交流グループや産学官連携を通じて単なる情報の収集だけでなく、「自社の既存技術の向上」や「新製品の開発」「新たな受注先の確保」などの成果も報告されている。しかし、実際には単にホームページを作成しただけというケースが多い。そこで実際に連携によって成果を上げている事例を通して、成功要因を考えてみた。

4 中堅・中小企業の挑戦

以上のような観点から、6つの事例をとりあげた。最初の4つは、それぞれの企業が置かれている立場をひとつひとつ克服しながら真の意味での自立をめざす中堅・中小企業である。これらの企業の共通点は、やはりトップマネジメントが明確なポリシーを持っていることである。取り組みの方向性はそれぞれ異なっているが、地道な努力の積み重ねが長い意味で「勝ち」につながるということを示唆しているように思われる。後半の2つは、昨今脚光をあびているネットワークを用いた企業間連携の事例である。 2つは規模も目的も異なっているが、成果の上がらない中小企業の連携における貴重な成功事例である。
(1)論壇
ここでは、実際に日本の中堅・中小企業を相当数廻られ長年にわたって指導されてきた橋本久義先生に、現状分析とこれからについて書いていただいた。「納期と品質要求をきちんと守る中堅・中小企業がこれだけ集積している国は世界のどこにもない」という言葉がこれからのありかたを示している。
(2)ケース・スタディ
①明工グループ
明工グループは、配線器機製造・販売および配電盤製造販売を行う合計5社によって構成されている。’99年5月には配線器機製造・販売のグループ5社でISO9001を取得している。しかし、顧客からの納期短縮要求、同業者間における価格競争の激化などを受けて、グループ全体で「コスト」「納期」に関する質的向上に努めている。アプローチ方法は大変オーソドックスであるが、地道な努力の底力がうかがえる事例である。
②カネハツ食品
この事例では、佃煮の製造販売をスタートとして現在は全国各地のスーパーマーケットやコンビニエンスストアと直結した製造・販売を行っている企業の情報化への取り組みをまとめてある。食品流通の分野では、消費者ニーズの多様化や、賞味期限の問題でいかに短時間で消費者の手に製品を届けるかは、単に製造の合理化だけでなく物流も含めたリードタイム短縮が重要である。ここでは、中堅・中小企業といえども積極的に情報化を推進し、流通までも含めた全体のコントロールが必要性なことが示されている。
③富士特殊紙業
この事例では、食品用パッケージを製作する会社として、飽食の時代を背景に、多品種化・少ロット化・低価格化に短納期で対応できる生産のしくみづくりについてまとめている。ここでも、短納期を実現するためのインターネットの利用や生産工程のオンライン化など、情報化投資によって生き残りをかけた取り組みがまとめられている。
④クライムNCD
クライムNCDは、金型用のCAD/CAMデータの製作を主とするいわゆるファブレスエ場である。従来、職人芸といわれてきた金型産業に対して、独特のポリシーと先見性で新しい分野を開拓してきた。ものづくりの新しい姿が示されている事例である。
⑤「TAMA産業活性化協議会」
この事例では地域の水平統合組織を利用し、異業種・産学官の連携によって「地域としての新産業創出力」を育てていこうとう取り組みである。参加規模も512団体と大きく、規模の利益を活用した「ナレッジマネジメント」の構築を目指している。そのツールの中心がインターネットを利用した産学統合検索エンジンで、個別の企業の能力に頼らない、新しいアプローチによる連携の姿が見える。ここでは、強烈なリーダシップの必要性が感じられる。
⑥「ラッシュすみだ」
東京都墨田区の町工場49社で構成されたグループ「ラッシュすみだ」によるネットワークを用いた協業事例である。ここでは、共同受注を主な目的として、いままで個別に対応してきた中小企業が、大手企業に頼らない独自の営業活動と生産の協業化によって生き残りを賭けた活動を紹介している。ここで述べられているように、まずお互いの技術・技能を相互理解し、レベルを合わせる努力のなかで共同受注に対する連帯責任を育てている。「誰かがやってくれて、それにおいしいところだけのっかろう」という連携が数多く失敗しているなか、貴重な成功事例である。

5 「縁の下」からの脱却

最近の中堅・中小企業の景気動向をみると、業種業態による格差ではなく同一業種の企業間格差が拡大し、いわゆる二極化が激しくなっている。厳しい経営環境にあっても売り上げを伸ばしている製造業は、「品質競争力の強化」や「自社製品・技術への需要増加」「新製品の開発」など、いわゆる質的競争力の強化に成功している企業である。
高度成長の過程で中小企業と大企業の格差が拡大し、従来は中小企業を弱者としてとらえることが多かった。しかし、経済が取り巻く環境が変化するなか、中小企業のもつ機敏性や柔軟性が新たな競争力として注目されている。単に規模の大きさだけで、勝ち負けが決まる時代は終わっている。
今回の特集を通じて、従来の規模による企業の序列によって「縁の下」の役割を担ってきた中堅・中小企業の変化が、新たな製造業の活性化につながると感じられたらと期待する。

参考文献
小企業庁編「図で見る中小企業白書 平成10年度版」同友館(1997年)
(斎藤 文/編集委員)