IEレビュー211号 特集テーマのねらい

 設備力強化をめざしたlE活動

1 はじめに

バブル崩壊以降、消費の低迷により企業の業績は一向に回復の兆しを見せていない。長期の景気低迷下で各企業とも過剰な生産設備・経営資源により、高コスト体質に陥っている。日本の経済成長は大きな転換期を迎え、今後とも売り上げの大幅な伸びが期待できない状況において、企業はそのコアコンピタンスを見極め、特に固定費を中心にした積極的なリストラ策や生産ラインの統廃合、アウトソーシングの有効活用等を図ることにより、コスト削減を実施している。また、グローバルな業務提携により、シナジー効果を最大限に発揮できる企業間のパートナーシップを構築する試みや新たなビジネスチャンスを模索する企業も増えてきている。多様化・高度化した顧客のニーズをいち早く的確に掴み、品質・コスト・納期において優位性を確保した魅力ある商品をスピーディーに開発し、タイムリーに提供することが、今後とも各企業が国際競争に打ち勝つための条件であり、様々な試みが求められる。
最近、サプライチェーン・マネジメントが脚光を浴びており、顧客に感動を与える商品づくりを機軸に一企業のみならず、改善対象範囲を複数企業間のサプライプロセスに拡大した取り組みが指向されているが、これらの取り組みは、商品を企画し、設計・生産・販売といった商品開発のプロセスや受注・生産・販売といった生産システムのプロセスをよりお客様との距離(リードタイム)を短くするといった視点で見直し、そこにあるムダを徹底的に排除しようとする取り組みにほかならない。
近年の情報・通信分野の発展と普及には目を見はるもがあり、我々のライフスタイルも急速に変わろうとしているが、ITの真の経済性を見極め、それらを改善の道具として積極的に取り入れる工夫も、企業競争を勝ち抜くための重要なファクターとなる。
地球環境問題、高齢化・少子化・労働力の流動化の進行など、企業を取り巻く環境には多くの課題が山積しているが、これらの時代環境を的確に見極めスピーディーに対応することも、競争を打ち勝つためには見落としてはならない重要なポイントである。特に、近年の労働環境を考えると設備への期待や依存度が相対的に高まる。前述の通り、企業競争を打ち勝つためには従来から進めている地道な改善活動に加え、ものづくりそのものを広範囲な観点で見つめ直す取り組みが必要となるが、本特集では生産活動の重要な構成要素である設備について考えてみることにした。

2 特集テーマのねらい

様々な設備の開発・導入により、迅速な大量生産や多品種対応が可能となっている今日、製品の品質保証や向上、コスト削減や納期の短縮といった経営成果を生み出す上で、設備は重要な役割を担っている。各企業においては経営の効率化といった観点から、収益性の低い事業からの撤退や商品の見直し、生産ラインの統廃合、設備投資や経費の削減などが経営の重要課題となっており、その対応を余儀なくされている。不況のなかでも売れる商品をつくるためには、顧客のニーズに対して短期間に短納期で如何に商品を提供できるかという経営課題にも答えを出さなければならず、コスト削減などとあわせて複数の命題を同時に解決することが求められている。特に設備投資の削減は重要な経営課題であり、その対応に苦慮されている企業も多いと思う。しかしその一方で、生産活動を効率的に進めるための「設備力」という概念が確立しているとは言いがたく、同時に設備の開発や活用面でIErと生産技術者が協力して活動しないと、固有技術面の問題や工程設計面での問題を解決して安価で高性能な設備を開発・導入していくことは難しい。そういう意味から本特集号では、生産の基本三要素のなかの設備にスポットを当て、多くの企業が取り組んでいる設備の有効活用に関する取り組み事例やそこでの課題を取り上げ、IErが果たすべき役割について考えてみたい。

3 設備の有効活用について

設備の有効活用については、大きく分けて2つの課題がある。ひとつは設備を開発する時の問題である。例えば、多機能で、使いやすくて寿命が長く、汎用的でメンテナンスしやすいといったスペックを満たす設備を如何に安く開発していくかという課題である。そこでは、生産技術的な対応・研究開発、試作を通じた改良、CAE/CADシステムの活用、専門メーカーとの協業といった様々な対策が実行されることになる。
もうひとつの課題は、導入された設備を故障なく長く使っていくための改善活動である。そこでは、後述するTPMに代表されるように、5Sや自主保全に代表される日常的な点検・改善活動、オペレータの教育と育成、保全部門や製造技術部門との連携、設備の技術的改造といった対策が実践されることになる。開発された設備を有効に使いこなしたり設備改善を進めていく際には、多くの企業がTPMをその手法として取り上げ実践している。TPMは現場に力点を置いた全員参加の設備改善活動であり、不良0故障0をめざしたPM分析や7つのステップを踏んだ点検の徹底、体系的なロス・ムダの発見・排除やオペレーターのスキル向上・人材育成など、IEの立場から見ても学ぶべき点が多い。不良0故障0を目標にTPMに基づいた継続的な体質改善を進めている企業の事例を研究するなかから、設備改善の進め方における課題や改善活動の質をさらに向上させていくためにIErが果たすべき役割やIEに課せられていく課題を考えていくことは極めて大切である。
上記に示した、設備開発、設備の有効活用といういずれの課題においても、IEの考え方、さらにはVA・VEを含めた管理技術は、重要な役割を果たすはずである。同時に、各企業が狙っている設備の在り方や工夫している点・努力している点などを聞き出し、今後の設備開発の視点や有効活用の在り方を整理するなかから、今後のIE活動に求められる視点や考え方を冷静に見つめ直すことは、生産システムにおける設備の比重が高まるなかで、lEの将来展望を考えるためにも意味のあることと考えられる。
本特集号では、上に述べた視点に基づいて、設備力強化をめざした企業活動の事例と、その背後にある考え方を紹介したいと考えた。

4 記事について

論壇の中村氏には「21世紀のものづくりに向けて設備力強化をめざすIEの役割」という題名で、キャッシュフロー重視の経営への移行という時代的背景も含め、ものづくり経営の課題を分かりやすく説明頂き、今回の特集で取り上げている設備力に対する考えや、その設備力強化に向けてのIEの役割について提言を頂いた。
設備は将来価値・将来収益を生み出す資産であり、知恵の塊として認識すべきであるという言葉が非常に印象的である。
ケース・スタディについては、6社の記事を掲載している。イビデン(株)の関屋氏には、製品寿命の短命化に対応するためにコンカレント・エンジニアリングがやりやすいセル化設備生産システムの事例を紹介して頂いた。製品も設備も、目先の変化だけに捕らわれるだけではなく、多世代交代といった長いスパンで捕らえることも必要であるという提言も、今後の参考とすべき考え方と思われる。サンデン(株)の小島氏、角田氏には、サンデン・プロダクト・システムの構築のなかで、量変動への対応と固定費削減といった課題に対する解決を、計画段階で実施した事例を紹介して頂いた。川崎重工業(株)の本庄氏には、組立工程の人的不具合に対して、人による作業工程の品質保証能力を定量評価しどの工程に不良発生の危険性が潜むかを事前に予知し、作業改善を行う品質評価システムを紹介して頂いた。三洋電機(株)の有坂氏には、保全作業におけるトラブルシューティングや整備作業を支援するシステムを構築し、保全業務の効率化を図った事例を紹介して頂いた。横浜ゴム(株)の片桐氏には、タイヤ5工場で取り組まれているTPM活動のなかから、ステップアップ活動とこだわり改善と名づけた改善活動を、全設備に対して全員で実施する自主保全活動を紹介して頂いた。豊田工機(株)の白井氏には、設備の健康管理という視点で実施されている設備保全活動について紹介して頂いた。
いずれも、多くの知見を含んだ内容であり、今後のlE活動に求められる視点として大切なものとなっている。
(西田 賢一/編集委員)