IEレビュー295号 特集テーマのねらい

 「モノづくり」組織の役割

1 特集の背景

為替や株価が流動的であり、わが国を取り巻く経営環境は不安定ではあるが、我々が真摯に取り組むべきは、モノづくりであることは言うまでもない。
ところで、この「モノづくり」という言葉、元は大和言葉であるが、1990年代後半から用いられはじめ、現在すっかり社会全般に定着した感がある。企業・行政機関・公益法人でも、「モノづくり推進室」「モノづくり戦略室」「モノづくり研究所」「モノづくり塾」「ものつくり大学」などのように、「モノづくり」という冠をつけた組織が増えている。
そこで、本特集号では、これら「モノづくり○○○」というネーミングがいかなる意義を持つのか? いかなる思いを込めてこの名称が設定されたのか? どのような状況を打破するために命名されたのか? について、そのねらいをお聞きし、モノづくり企業の進むべき方向と可能性を再確認したいと思う。

2 特集の着眼点

一例ではあるが、「モノづくり」という言葉には、「製造」「生産」が根底にあり、そこに改善力(IE/IT)・ワザ(匠/技能)・カラクリ(自動化/創意工夫)の要素が加わり、さらに部門間の壁を取り去り、活動領域を広げ、全体最適を指向した改善を進め、かつ活動に携わる人材育成も強化するという響きを持つように感じる。
本特集号では、組織の名称に「モノづくり」という言葉を取り込むことでめざした思いをご教示いただき、今後の生産関連部門の進むべき道について再考の手がかりにさせていただくこととした。

3 記事構成

(1)論壇
一橋大学の延岡健太郎先生からは、“ものづくりと価値づくり”について寄稿いただいた。
ものづくりは手段にすぎず、価値づくりに結びついて社会に普及することにより、初めてイノベーションとなる。モジュール化・標準化の台頭により、ものづくりだけでは価値づくりに結びつかなくなっている現在、擦り合わせ型で凝ったものづくりを極めつつ、その技術によって意味的価値を創出することが大切である。「擦り合わせ型商品+意味的価値付加」で優位性を保つためには、特定分野で蓄積された模倣されにくい設計開発力と凝ったものづくり能力の蓄積により、価値づくりに挑戦することが、今後の日本が挑戦すべき道とのメッセージをいただいた。
(2)ケース・スタディ
①日立製作所の堀水修氏は、“日立グループのモノづくり組織の役割と活動紹介”について執筆いただいた。
日立グループでは、「受注から製品開発・生産・物流に至るトータルプロセスにおいて、ハード・ソフト(=システム)を対象とした総合技術」として捉え、モノづくり改革に取り組んでいる。開発設計に踏み込んだ取り組みとしてMD(モジュラー設計)やPM(プロジェクトマネジメント)の推進、モノづくり評価による製造現場力の強化、部会を中心とした技術・技能力の伝承体制、また、現在注目されているIoTのモノづくりへの適用など、総合的な取り組みを紹介いただいた。
②新日鐵住金の中尾憲午氏からは、“一貫プロセスにおける効率化・合理化とAC&M活動における現場力向上”について執筆いただいた。
2000年以降に発行された「IE レビュー」誌の特集テーマを分析いただいた結果、ものづくりの対象は、上流から下流までの広義のバリューチェーンであり、ものづくり力として、顧客ニーズを的確に把握し早期に商品化する力、開発から量産までの早期立ち上げを実現できる部門間連携力、変種変量への対応力、製造設備の内製化力などがあがった。また、自主管理活動とTPM活動を統合し、さらに経営活動として昇華させたAC&M活動を紹介いただいた。
③島津製作所の吉久一志氏、二宮一郎氏からは、“「モノ作りセンター」の役割”を執筆いただいた。
1998年に設立された「モノ作りセンター」は全社共通部門であり、製造子会社含め、加工技術指導・標準化推進、事業戦略上必要不可欠なキーパーツや精密部品の内製化促進、QCD改善にチャレンジする人材育成などをミッションとしている。また、開発・設計部門、製造子会社、協力会社とも連携しながらモノ作り活動の場を広範囲に拡大し業務を進めている。3Dプリンタで作成した治具など、改善事例も数多く提供いただいた。
④ニコンの細水真人氏には、“生産設計組織「TeamD」による上流からのものづくり改革”を執筆いただき、IEそしてものづくりの本質に近づく事例を紹介いただいた。
設計部門と生産技術部門が連携する(設計段階で毎日膝を突き合わせる)ことにより、製品や部品の形状を確認しながらQCDすべてを考慮した製品設計を一緒に作り上げる仕組み「毎日がDR」は、ものづくり組織にとって重要な視点となろう。新組織を設計と生産技術のどちらの部門へ統合すると良いか含め、内部適合と組織マネジメントの重要性について言及いただいた。
⑤大同特殊鋼の山田龍三氏からは、“「大同モノづくり改革活動」の役割”について執筆いただいた。
12年目を迎えた改革活動は、モノづくり力を、品質・コスト・納期・サービスといった付加価値を生み出すプロセス全体の力と位置づけ、将来の会社を支えるための現場力強化「モノづくり改革」とそれを実現するための「人づくり革新」という両輪を回しながら進められている。活動モチベーション継続のための取り組みなど、着実な進め方を紹介いただいた。
⑥積水化学工業の菊池好洋氏には、“積水化学グループにおける「モノづくり革新」”について執筆いただいた。
積水化学では、カタカナで「モノづくり」を表記し、モノは単に物質としての物でなく、バリューチェーン(調達/開発/製造/販売/サービスまで含めた連鎖的活動)全体を含めて改善対象として考えている。また、改善手法としてIEを導入しているが、積水流IEでは、現状方法にとらわれずに目標を達成するための最適方法を追求する「設計的アプローチ」を重視している。また、VE技術と融合を図り、改善対象作業の目的(機能)を明らかにしながら進める方法を紹介いただいた。
(3)対談
今回は、キャステムの戸田拓夫社長と河野宏和委員長に対談いただき、“ものづくり強化には「想い」が大切”というメッセージをいただいた。
精密鋳造という業界で多くの企業が淘汰される中、独自の発想とマネジメント力、そしてチャレンジ精神により、先端を走る戸田社長のものづくりにかける情熱は、大変心を揺り動かされる。会社を鍛えるため、難しい業務にあえて取り組むチャレンジ精神、開発は社長直轄、思わず、下町ロケットの佃製作所を思い浮かべた。全社員と語り合いコミュニケーションを深めること、紙ヒコーキ滞空時間のギネスホルダーとなることなど、戸田社長の経営哲学が満載である。一読後、ぜひとも自身に問いかけていただきたい。「夢を描いて仕事をしているか?」と。
(4)プリズム
ものつくり大学の関根次雄先生に、“ものつくり大学設立のねらいと活動”について寄稿いただいた。
大和言葉としての「ものつくり」を冠する大学。ものづくりのベースとなる知識労働と肉体労働の両方を行える知行合一の者づくり(ひとづくり)の意味も兼ねる。ものつくり大学では、IE=生産技術ととらえ、製造プロセスや工場設計、生産性や品質の管理技術、現場改善における分析手法など、事例を交えながらの授業を行っているという。このように、本来のテクノロジストの育成を図る大学の拡大に期待したい。

4 おわりに

本特集で印象に残った内容は、「モノづくりはもちろん重要であるが、あくまでも手段であり、その先に価値づくりという目的があるということ」「モノづくり組織とは、生産・製造だけでなく、エンジニアリング・プロセスやSCMプロセスも含んでおり、それぞれ連携が重要であること」「モノづくりは、者づくり(人づくり)が必要不可欠な条件であること」という3点である。
今回の特集記事が、読者企業の経営革新・組織再生・改善活動展開において、有益な知見となれば幸いである。
(江頭 誠/企画担当編集委員)