IEレビュー296号 特集テーマのねらい

 ここにも「現場改善」

1 特集テーマのねらい

イギリスのEU離脱決定にともなう為替変動、頻発するテロなど、依然先行き不透明な状況が続いている。不透明であるからこそ、迅速に変化に対応することが求められる中、企業にとって変化に対応する力の1つである、「改善」のニーズも増していると言える。
一方、顧客ニーズが多様化している現代において、それぞれの状況に即した、実効性のある改善を実施するには、経営視点からのトップダウンだけでは限界があり、実際の「現場」からのボトムアップの視点も求められる。また顧客ニーズと直に触れ合う機会の多い、サービスの「現場」でも、ニーズに合致した様々な改善が実施されていることは想像に難くない。
これらを踏まえ、「現場改善」をテーマとして、製造業の現場のみならず、製造以外の現場も含み、現場の生の声を反映した各企業の改善事例を集めて、「ここにも『現場改善』」と銘打って特集を企画することとした。

2 記事構成

上記のねらいにそって、今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ5件、プリズム1件の記事を掲載している。主な内容を、以下に要約する。
(1)論壇
首都大学東京の梶原康博先生に「標準時間に基づくIE活動」と題して執筆いただいた。
ある企業の組立ラインは、国内外のサプライヤーから、多種類の部品がパレット単位で搬入され、組立ラインに過剰な在庫が滞留せず、かつ部品の品切れが起きないように、部品在庫を見ながら出庫作業が行われている。そして、部品の種類により、1箱当たりの部品収容数が異なる。いかにも同じような悩みを抱えている企業がありそうな事例に対し、作業測定、出庫作業の標準時間設定、出庫スケジューリング、検証、再作業分析、出庫回数の分析という一連の進め方が、ステップごとに、手法、データの両面から記されている。
また、IE活動の効率化技術ニーズが高まっている現状を受け、屋内位置測定技術として、3次元位置測定のRFID装置システム構成と位置検出の考え方、動作分析技術として、光学式、磁気式モーションキャプチャの長短所、分析例が紹介されている。
(2)ケース・スタディ
①新日鐵住金の戸田優氏には、「IEアプローチで出勤時渋滞を解消」について執筆いただいた。
東京ドーム237個分の敷地に、関連、協力会社を含め1万人超が勤務している八幡製鐵所において、公安保安対策の一環として、通用門での身分証明書による、本人、所属、目的確認の実施が義務づけられたことにより、出勤時の車両渋滞が伸び、近隣住宅街に影響をおよぼすこととなった、戸畑地区の通用門4つの中で、メインとなる飛幡門での渋滞緩和の取り組みを取り上げている。
必要入門台数1,700台/時に対し、入門可能台数は1,200台/時という状態において、「ECRS」「オズボーンのチェックリスト」などを活用し、車両通過時間の短縮、必要入門台数の削減、入門可能台数の増大といった対策を打つことで、住宅街への影響が見られないどころか、通過する車両が途切れる場面が見られるほどに改善を進めている。
製造現場とは違ったIEで進めた改善活動においても、基本的には製造現場での改善活動と変わらないことを実感したと紹介されている。
②アズビル機器(大連)有限公司の孫徳貴氏、島田隆之氏には、「中国大連工場の現場改善」について執筆いただいた。
アズビルの海外生産拠点である同社において、中国現地スタッフによる省人化と、設備改善(手離れ化)による現場改善について、切削加工ラインの改善を一例として取り上げている。2005年から2015年の10年間で平均給与が約3倍まで上昇している状況下、作業者省人3人⇒2人、LT短縮66H⇒4H、工程CT短縮155分⇒55分と、高い目標を掲げ、3日間の集中的な自主研(関連部署からスタッフを集め、1つのプロジェクトとして実施する改善活動)で改善を実施している。工程レイアウト検討・実施、2Sによるムダの顕在化、作業改善と設備改善、作り込み品質改善、効果確認と活動を進め、目標をほぼ達成した。中国現地社員の実行力・スピードと、日本人の思慮深さを組み合わせて高価値“アズビル”を創造しますと結んでいる。
③経営技術研究所の藤井春雄氏には、「IEでいちごパック詰め作業の改善」について執筆いただいた。
「いちごパッキングセンター」からの作業改善指導依頼により、いちごの選別出荷作業にIEを活用した生産性向上を図った事例を取り上げている。
いちごは3~4月に出荷のピークを迎え、最盛期はパック詰め作業に追われて休む間もない状況になる。パッキングでは、美しく、隙間なく、動かないように詰め、1パックの規格は270g、大粒から小粒の選別も行うという作業を、27パック/人時で行っている。これに対し、工程分析、稼働分析、動作研究、時間研究といったIE手法を活用し、問題点の抽出、原因と改善策の立案、作業改善表に落とし込むという一連の活動を説明している。
問題の重点をとらえ、あらゆる角度からアイデア発想し、お金を掛けない“作業改善”を進めた結果、約30%の生産性向上が図れている。
④東芝ロジスティクス二本柳徹氏には、「太陽光モジュール業務における荷役作業工数の削減と庫内の5S推進」について執筆いただいた。
東芝グループ内での現場課題解決に対する小集団活動であるBEST-10活動の、事業場代表に選ばれた北関東ロジセンター千葉デポでの改善活動を取り上げている。千葉デポでは、太陽光モジュールが倉庫全体の40%を占める最重要製品となっているものの、取り扱い物量が、1年前対比半減。軽作業の作業工数削減、保管エリアのレイアウト変更と庫内の5Sをねらい活動を開始し、問題点の抽出、対策の立案、実施、効果の確認、歯止め、と取り組み、改善目標を達成している。
また小集団活動により、実効果に加えて安全意識が高まり、チームワークがよくなり、活発に意見をぶつけ合える職場となったことを紹介している。
⑤きむら5S実践舎の鈴木浩也氏には、「5Sで創る職場環境」について執筆いただいた。
2008年に設立された、足利5S活動の例として、創業100年以上の老舗料亭、相州楼での活動を取り上げている。5Sという言葉の意味もよく知らず、半信半疑でスタートした女将と若女将が、思い出がたくさん詰まったモノも、自ら決断して車のハンドルを握り、ゴミ収集センターに何往復もする。従業員もできることからコツコツと始め、お客様の反響を肌で感じ、何の改善に取り組もうかと自分たちで考え始める。活動を通じてコミュニケーションがよくなれば、必然的に職場環境が全体的に底上げされ、お客様の価値向上にもつながる。従業員一丸となり現場改善を楽しんでいる姿が伝わってくるような、活動事例が紹介されている。
(3)プリズム
日本IE協会のIE拡大推進委員会にて、「2016年日本経営工学会春季大会」記事を執筆いただいた。
日本IE協会が今後も成長し続けるために、サービス業への活動領域拡大を必須要件と捉え、2016年日本経営工学会春季大会サービス研究部門にて発表した、都内大手ホテルの1階に位置する物販店舗を対象に、スタッフの生産性向上を目的とした活動内容を取り上げている。
サービス業の中でも人的依存度が高い接客業へのIE手法導入として、ゲストとスタッフの人数バランスを表すG-Sバランスシート、製造業で広く使われているMan-Machineチャートの応用であるG-Sチャートを活用し、改善を進めた実例に加え、発表当日の日本経営工学会の模様も紹介している。

3 まとめ

今回の特集では、「ここにも『現場改善』」というテーマの通り、老舗料亭の現場改善、農作物パックの現場改善、物流倉庫の現場改善、出勤時渋滞緩和の現場改善、物販店舗の現場改善、海外スタッフによる製造現場改善と、多種多様な現場改善の事例を紹介することができた。
IE手法を活用した改善は、現場の種類、投資の大小に関わらず進められることが、各事例からも読み取れ、今後、IE活動のすそ野が広がっていく期待に胸がふくらむ。
(川島 哲/企画担当編集委員)