IEレビュー297号 特集テーマのねらい

 つながる工場

1 特集テーマのねらい

ICT(情報通信技術)をモノづくりに活用する試みとして、IoT(Internet of Things)が注目されている。IoTは様々なモノがネットワークにつながり、収集されたデータが他のデータとともに、新たな価値を生み出す仕組みである。今までもRFIDタグを活用して、現場のデータを収集し指示を出すなどの取り組みが行われてきた。現在では、センサーの小型化・低価格化が進み、より多くのデータを収集し、ビッグデータやAIなどの技術を活用して分析を高速化・高度化できるようになってきた。IoTを活用した製品やサービスの実証実験も開始されている。今後、経済活動で生じる様々なデータの活用が一層進み、様々な関係者がネットワークにつながることで、改善が加速されることが期待される。
海外では、ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアル・インターネット・コンソーシアムに代表されるように、IoTを活用したビジネスプロセスの革新、製品・サービスの革新、情報基盤の標準化への取り組みが活性化している。これらの取り組みを通じて、工場の設備が工場の垣根を越えてつながり、製造の現場と消費者とがダイレクトにつながることで、製造業のビジネス形態が大きく変わることが予見されている。
製造業やサービス業におけるIoT活用においては、プロセス・イノベーション(つながる現場・工場)とプロダクト・イノベーション(つながる製品・サービス)の2つの視点がある。本特集では、つながる工場の領域を中心に、各社の取組み状況を紹介する。

2 記事構成

今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ3件の記事を掲載している。主な内容を以下に要約する。
(1)論壇
(一社)クラウドサービス推進機構の松島桂樹氏に「つながる町工場~中小企業にとっての第4次産業革命~」と題して、日本のモノづくりの大半を担っている中小企業の成長に向けて、第4次産業革命における「つながる町工場」の意義について執筆いただいた。
2016年6月に閣議決定された日本再興戦略2016は、第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能)をわが国全体に普及させる鍵は中堅・中小企業であると述べている。かつて日本の多くの地域では、地元の企業同士がつながっていた。専門性を有する複数の企業が協力し合うことで、顧客企業から受注した多彩な仕事に取り組んできたが、大企業の工場の地方移転や海外移転は、中小企業の移転や廃業を招き、地元企業同士のつながりが弱体化してきた。今後、地域の地元企業が主体的につながらない限り、中小企業の生き残りは難しくなっている。
IoTの導入は、中小企業が多大な費用をかけずに企業間のつながりを強化する有力な手段となり得る。現場にセンサー機器を導入するだけではなく、新しいビジネスモデルを開拓する絶好の機会にもなり得る。上述の状況を踏まえて、中小企業のIoT導入のステップや、つながる町工場の実践事例について説明いただいた。今後の課題として指摘されているように、つながる町工場の実現に向けて、中小企業の経営者が経営のイノベーションに挑戦することを期待したい。
(2)ケース・スタディ
①リコーインダストリーの西澤貞明氏に、「“見える化”を基にした“つながる工場”~インテリジェントプロダクションシステム(IPS)の実践事例~」と題して執筆いただいた。
同社では、つながる製品の取り組みとして、お客様に提供した製品をリアルタイムに監視するリモート管理サービスを10 年以上前から提供し、不具合の未然防止や故障停止時間の短縮において成果を上げている。本記事では、つながる工場への取組みを中心に説明いただいた。
同社では、IPSというシステムを構築し、工場内の設備稼働情報、画像情報、現場情報を見える化し、品質早期安定化、稼働率向上、予知による予防保全の面で効果を上げている。例えば、IPSを活用して、稼働データと画像データを付き合わせることで、現場で起こっている事象をより一層見える化でき、解析時間を短縮することで意思決定を迅速に行えるようになった。さらに、複数の工場や工程で同じ製品や部品を生産している場合、遠く離れた拠点の工程を遠隔監視で見える化し、マザー工場にいても管理・改善を可能とする仕組みの構築にも取り組み始めている。
②東芝の山崎貴美子氏に、「IoTでつなぐ東芝の次世代ものづくり~製造業としての知見を活かしたソリューション開発~」と題して執筆いただいた。
同社は社内生産において、IoT技術を活用して現場の稼働状況をリアルタイムに把握し、分析結果をもとに改善施策を現場に適用することで、品質改善や生産性向上を実現してきた。また、つながる製品への取り組みとして、お客様に提供した製品から得られるビッグデータを活用して、故障予知や予防保全などの面で成果を上げている。
同社は、これらの経験を通して、情報の収集、蓄積、活用において課題が多いことを認識し、製造業としての知見を活かして、課題を解決する新たな情報基盤を構築してきた。社外に対しても次世代ものづくりソリューションとして、情報収集、情報蓄積の課題を解決し、目的に応じた情報活用を実現することをトータルに提供している。また、導入前にIoTの必要性や有効性を見極めるために、モノづくりにおける課題を明確にした上で、施策立案、実施、運用定着までをフルサポートする「ものづくりソリューションプログラム」を提供している。
③コマツの栗山和也氏に取材にご協力いただき、大阪工業大学の皆川健多郎先生に、「コマツ流“つながる工場”」と題して取材した内容について執筆いただいた。
同社のつながる製品への取り組みとしては、機械稼働管理システムKOMTRAXが有名であるが、本記事では、つながる工場への取り組みを中心に説明いただいた。同社では、自社工場の生産改革だけではなく、工場が協力企業、代理店、さらに建設・鉱山機械などの稼働現場やお客様とも直接つながる「つながる化」をめざしている。
同社は自社のモノづくり現場において、つながる工場の実現に向けて、ICTを活用して生産から販売まですべての工程がリアルタイムに連結/循環する統合システムを構築してきた。例えば、溶接においては、溶接コントローラをネットワークに接続することで、海外拠点にマスターデータを展開したり、海外拠点での品質の見える化を実現した。また、機械加工においては、解析・制御・プロセス改善を支援する外づけのコントローラを開発・導入し、加工時間の短縮を実現している。
このように、工程に潜むムダを見える化して状況を解析し、解析結果をもとに制御を行うことで、徹底したムダの排除を行っている。IEの基本的な考え方に沿い、ICTを活用することで改善活動を加速させて成果を出している。さらに、つながる工場の取組みを社内にとどまらず、現在は協力企業にも展開・促進している。

3 おわりに

本号の特集では、つながる工場の実現に向けて取り組んでいる事例を紹介した。IoTの導入により、情報を大量に収集・分析することが自動化できれば、人は解析や改善施策の検討により多くの時間を割くことができるようになるであろう。また、今までつながっていなかった人々がつながり、コミュニケーションが活発になり、連携強化につながるきっかけになることも期待できる。本特集がIoT活用の取り組みを読者に提供することで、読者がIoTを理解し、人を活かし、知恵を出し合う動きが加速するきっかけになれば幸いである。
なお、本誌294号(2016年3月発行)では、特集テーマとして「IT活用の新しい拡がり」を取り上げ、ITを活用した様々な事例を紹介している。法政大学の西岡靖之先生が執筆した論壇「IoTが変える新たなIEの時代~ものづくりを中核とした第4次産業革命のこれから~」では、IE人財が中核となってIoTに取り組む必要性を主張されている。従来のITシステムは要件定義にそってトップダウンに設計していくのが一般的だが、IoTはモノを起点としたボトムアップなIT技術である。IoTの登場により、日本の生産現場は得意とするボトムアップ的なやり方でIT化を進め、見える化、つながる化を一気に進めることが可能になると説明されている。この論壇のほかに、レンゴーやNECなどにおけるIoTの取り組み事例についても紹介されているので、本号と合わせて参照いただきたい。
(榎本 昌之/企画担当編集委員)