IEレビュー298号 特集テーマのねらい

 現場が育てる改善人材

1 特集テーマのねらい

経済のグローバル化、為替の急激な変動などを背景に製造現場の海外移転が続き、産業の空洞化は着実に進んでいます。それに加えて超高齢社会の到来で、高齢者・女性・外国人労働者など、現場の多様性は大きく変化し、従来の人材育成は曲がり角を迎えています。
そのような中にあって、モノづくり人材の育成、特にIE教育に着目し、企業が直面している現場力の強化のための改善人材の育成について、現状と今後の課題をまとめるために本特集を企画しました。

2 記事構成

今回の特集では、論壇1件、ケース・スタディ6件、プリズム1件の記事を掲載しています。主な内容を、以下に要約します。
(1)論壇
成蹊大学の渡邉一衛先生に「IEの基礎研修と資格」と題して執筆いただきました。
渡邊先生は、大学において学生にIEについて長年講義を続けられたと同時に、日本IE協会のセミナー「IEr養成コース」を通じて多くの現場の方の教育・指導をされてきました。また、IE関連の資格における作問委委員としても豊富なご経験をお持ちです。
今回の論壇では、そのエッセンスを簡潔にまとめていただきました。これらの経験を通じて、「IEの考え方は、管理職から現場までみんなが理解し、同じベクトルで推進してこそ大きな効果となる」と指摘されています。日進月歩で変わる管理技術を次から次へと学ぶことがIE教育の本筋ではなく、まずはIEとは何か、IEの考え方の基本は何かを整理し体得することの必要性を改めて感じさせられました。
(2)ケース・スタディ
①東芝の高田淳氏に、「東芝グループにおけるIE人財育成の取り組み」と題して執筆いただきました。
東芝グループでは2005年から「東芝IEインストラクター」を継続的に育成しています。それに加えて、2015年4月にモノづくり人材開発室がコーポレート部門として新設されました。
ここでは「技能者」「生産技術・製造技術」「生産管理・生産企画」の3職種に対する教育・育成を行っています。その横串を刺しているのが「IE人財研修」です。現場改善・モノづくり変革リーダー育成には、知識・スキルだけでなく、現場改善活動実践とマインド・気づき教育を組み合わせることが必要と考え、東芝グループ全体に展開される研修体系が構築されています。このようにIEインストラクターを資格として明確に位置づけ、教育を進めることによってその役割が現場に目に見える形となり、また次の人材育成につながっている事例といえるのではないでしょうか。
②兼房の太田正志氏に、「自ら考え、自ら行動する組織文化を作るための改善伝道師塾」と題して執筆いただきました。
兼房は、国内住宅関連産業向けを中心とした工業相機械刃物製造するメーカーですが、外部環境の大きな変化の中、永続的な成長のためには、働く人々すべてが環境変化対応能力を高め「自ら考え・自ら行動する組織文化」を作っていく必要性を痛感し、そのような人材を育成するための教育システムとして「改善伝道師塾」を立ち上げたことがまとめられています。
ここでは、実践を通して悩み・考えさせるといったことも重要視され、あくまで地道に泥臭く、かつ継続的な実践こそが人材育成の本質であるという強い信念を感じることができます。
③アイシン・エィ・ダブリュの橋本邦之氏に、「革新的ものづくりを追求するモノづくりセンターの取り組み」と題して執筆いただきました。
アイシン・エィ・ダブリュでは「無動力・ナガラ」思想を基本的な考え方として生産技術工法開発が行われています。それを実現するためには、自ら考え、自分でモノをこしらえることができる技を習得し、身につけた技能を全社に展開することができる人材の育成をめざしています。そのために、現地現物・原理原則を基本とし、「からくり道場」をつくって意欲・知識・スキルをあげる取り組みをしています。モノづくり・人づくりは一体で、常にありたい姿との比較を行い、そのギャップに問題意識をもって進めることが重要であるとまとめられています。
④豊田自動織機の若林万二氏に、「ものづくり現場の人材育成」と題して執筆いただきました。
豊田自動織機では「現場力」と「TPS」を世界へ広げ、「人づくり」を通じた「モノづくり」の強化に取り組んでいます。そのために「工程をスルーでみて、1人でリードできる能力を持った人材の育成」をめざしています。その枠組みで特に重要視されているのが「TPS道場」です。
ここでは自分の職場を離れて1年間研修に取り組みます。加工・組立・物流の3つの部門で実践を積むことによって、製造をスルーで見た改善能力を習得します。1年の受講終後、次年度の講師を務めることによって、教える力も鍛える場になっています。3か月を1ステップとして、座学で得た知識を実際の工場へ出向き改善活動を行うことにより実践で身につけていくプログラムです。まさに、IE教育の基本である「座学」と「実践」スパイラルアップが取り入れられている事例といえます。
⑤産業革新研究所の熊坂治氏に、「IE教育におけるWeb活用」と題して執筆いただきました。
「ものづくりドットコム」のサイト運営を通じて、IE教育におけるインターネット活用の実態と可能性をまとめていただきました。IT利用教育の利点としては、「世界一流の先生の講義やニッチな事例についても手軽に費用をかけずに学習できること」と「動画利用の個別学習では自分のペースで学びを進めることができる」があげられています。
しかし、反面、改善に関するものは現場や担当者の暗黙知に依存する部分が多いため、ネットのような汎用的なツールでは、その重大な要素を見落としてしまいがちとも指摘されています。
最後に、IE教育周辺に最近のIT技術のトレンドを反映させた将来像がまとめられており、今後の展開が期待されます。
⑥大阪工業大学の皆川健多郎先生に、「カイゼン人材の育成のための教材開発」と題して執筆いただきました。
ここでは、「手軽に、分かりやすく、そして楽しく」をコンセプトにしたレゴ社レゴブロックを活用した動作改善の演習教材が紹介されています。IE教育では、座学と実践のスパイラルが必要ですが、現場における実践はかなりなコストとリスクをともないます。その間を埋めるものとして開発されたのがこの教材です。昨年は年間合計22回、延べ人数で300人をこえる方々が体験されており、IEの普及に大きく貢献していることが分かります。
(3)プリズム
日本生産性本部の茅根滋氏に「ものづくりの未来像とそのシナリオを描くために」と題して、日本生産性本部の経営アカデミー・生産革新マネジメントコースについて、執筆いただきました。
このコースは、「講義」「工場見学」「グループ研究」「海外視察」という4つの柱で構成され、約10か月にわたり研修が行われます。特にグループ研究では、実際の現場を題材にして、異業種で構成されたメンバーが具体的に改善提案を作成します。まさに、理論と実践を同時に体験できる研修となっており、研修終了後も定期的に集まる機会を設けることにより、視野を広げ成長を確認できる機会を提供しています。

3 おわりに

本号の特集では、IE教育に関する各社の取り組みとその根底に流れる思想についてまとめてみました。それらに共通するものは、IEは現場で実践してこそ大きな成果が得られるということではないでしょうか。
とはいえ、実践だけでは、改善の実施やましては人材を育てることには結びつかないことも示唆されています。だからこそ、まずIEの見方や考え方をきちんと体得し、その上で座学と実践を繰り返すことが、現場力を高め、ドラスティックに変化する外部環境に柔軟に対応できる現場を生み出すもととなるということをあらためて感じることができる特集となりました。
(斎藤 文・岡 清彦/企画担当編集委員)