IEレビュー299号 特集テーマのねらい

 企業競争力としての物流・ロジスティクス

1 特集テーマの背景

物流管理システムは、企業経営の根幹をなすものである。工場を主管とするメーカーでは、原材料や部品を運ぶ「調達物流」、工場内の効率化を担う「構内物流」、配送センターや商社・小売店に商品を納める「販売物流」、お客様へ商品を直接お届けする「消費者物流」、またリサイクルをメインとした「静脈物流」など、物流なくしては企業機能が成り立たない。
また、これらの流れを管理し、統合的物流システムを構築して、経営の成果を挙げるマネジメントシステムSCMは、早期に導入が必要であると言われて久しい。効果的なSCMを構築するためには、物流システムと情報技術(IT)との連携が不可欠となり、多くの企業がネットワークづくりに奔走してきた。
物流管理の業務は、経営の広範囲をカバーするもので、その機能も多岐に渡り、「輸送」を始め、「荷役」、「保管」、「流通加工」など、非常に複雑な工程から成り立っている。広範囲で複雑な上に、課題も多く、一見すると付加価値を生まない作業であるが、近年、物流改革に着手する企業が増え、大きな成果を上げている企業の事例も、マスコミなどで聞かれるようになった。昨今の経営環境も、物流改革を行わなくては生き残れない厳しい状況になってきている。
そのような状況下で、改めて物流管理、ロジスティクスにスポットを当て、企業の活動や取り組みを紹介しようというのが今回の企画である。
さらに少し広い視点に立つと、2019年ラグビー・ワールド・カップ、2020年東京オリンピックと国際的なイベントが続き、物流システムの担うところは大きく、マクロの視点からの課題に対応していくことも求められている。
今回は実際の課題に対して、物流改善や物流改革により、企業競争力が向上した事例、物流特有の問題を解決した事例などを執筆していただき、読者が活動事例を学ぶことにより、IEの視点から新たな気づきや発見が生まれ、また、新たな活動へとつながる特集号にしたいと考えている。実際の生産管理系の工夫により活動が活性化している事例、IEの手法を応用して問題を解決した事例を読者が学ぶことにより、IE領域で新たな気づきや発見が生まれ、新たなIE活動への一助となれば幸いである。

2 特集の着眼点

今回の特集にあたり、下記の観点から執筆をお願いした。
・業界の労働環境問題、環境規制への取り組み、物流人材の育成
・情報技術(IT)、情報通信技術(ICT)を含めたシステム構築
・ニーズの多様化にあわせたSCMの円滑化(小ロット生産対応)
・大型物流倉庫(物流センター)における作業の効率化
・物流改革によるリードタイム短縮、在庫低減活動(ピッキング、梱包作業の改善)
・物流業務の「標準化」、「見える化」など

3 記事構成

(1)論壇
今回の論壇は、合同会社北山コンサルティング代表北山義弘氏に「企業の物流改善課題と強化ポイント~“物の特性”と“流し方”の視点から~」というタイトルで執筆していただいた。
冒頭では、企業がまだ物流改善の大切さに気づいておらず、QCDにおいて大きなムダを発生させていることを指摘している。
その上で、物流を調達物流、工場内物流、販売物流に分類し、各々の物流改善目標を明確にして、事例を交えながら、全体最適に向けてのポイントを解説している。
また、物流を“物”と“流す”に分けて考えると課題と進め方が整理しやすいと提案している。
最適な効果を上げるためには、設計段階から物流を考慮した製造・包装をすることが必要であり、このデザイン・フォー・ロジスティクス(物流を考慮した設計:DFL)が不可欠であると説く。
“物の特性”視点からの改善は、“物”の物流最適化策である「小さく、隙間なく、軽く、過剰でない」をキーワードに関連部署と協力体制で臨むことが大切であり、キーポイントであると唱える。
余談になるが、同氏は、「IEレビュー」286号「ビットバレーサロン」でも、“物”に視点を当てた投稿があるので、本号とあわせて一読されることをお勧めしたい。
“流し方”視点からの改善は、①調達物流「取りに行く物流」、②工場内物流「在庫・仕掛り削減」、③販売物流「ピッキング生産性向上」、「輸送改善」、「在庫削減」の中で、分かりやすい事例を紹介している。
具体的な事例の数々から、企業における物流の目的を再認識させられ、最後に、改善経験からの「物流強化ポイント」も明示していただいている。
(2)ケース・スタディ
①東洋紡の鈴木裕二氏には、長年にわたる自社独自の改善活動の展開を題材に、「現場視点での物流改善」というタイトルで事例を紹介していただいた。
物流改善を全社の中長期計画と絡め、アクションプランに沿った事業活動が進められている。2015年から本格的な構造改革が始まり、それに合わせて調達・物流部を発足した。調達部門と物流部門が一緒になった組織メリットとして、①担当者のローテーション、②グローバル化、③物流部門に包装材料の調達機能を持たせるなど、組織的な活動が活発に行われている様子が記述されている。
また現在も、「全社改善プロジェクト」が推進され、主要課題を「物流実態のミエル化」、「物流の競争力(QCD)強化」、「中長期に成り立つ物流の構築」として活動が進められている。スタッフ中心で進められがちな構造改革を現場のメンバーが自分たちの視点で参加し、改善を行っている点は、ブレーストーミングを行い100を超えるアイデアを抽出するなど、大いに参考になるものである。
5年後、10年後の物流はどうなるのであろうか、という問いかけは、現状の物流業界の課題を考えると身につまされる質問であろう。危機感を持って取り組まれている構造改革活動、人材育成活動が読者の参考になるに違いない。
②三愛ロジスティクス[東京]の坂本隆則氏には、「複数荷主の物流を一元化『共同物流センターの構築』~あくなき効率化への挑戦~」と題し、受注から生産、出荷までの大きな流れの中で、24時間体制で運営できる効率を追求した共同物流センターの事例を紹介していただいた。
TC(通過型)物流とDC(保管型)物流の各々に、作業品質(シングルPPM)、生産性向上率、保管効率向上率など、定量的な目標値を設定し、4つの分科会(運用構築、マテハン構築、システム構築、インフラ構築)によるプロジェクト体制を構築し、活動を推進している。
新システムの稼働に向けては、事前に1,000項目を超える確認項目の検証や、新運用にともなうトレーニングを実施し、それでも不具合が発生し課題を抱えることとなったが、日々の繰り返しの中での検証作業、徹底した不具合の潰し込みに加え、運用シミュレーションを繰り返した結果、担当者の環境も向上し、生産性の高い物流センターが構築されている。
また、貴重な写真も多く取り入れていただき、読者に理解しやすい内容となっている。
業務プロセスをどう再設計すべきかを真剣に議論し、業務と意識の改革を断行し、継続して挑戦を続けている様子が感じられる内容である。

4 おわりに

今回の特集を通じて、論壇と2つのケース・スタディを投稿いただいたが、各社の物流に対する思いが強く記述されており、現場での物流への取り組みが、企業戦略と結びつき、大きな成果を挙げていることが分かる。
物流の置かれている立場は、お客様のさらなる高い要求や人材確保の問題など、厳しい環境の中にある。それだけに、今回寄せていただいた原稿は、筆者の生の声であり、大変貴重な資料と考えられる。
活動の切り口は大小様々であるが、読者においては、自社のポジショニングと照らし合わせて読み進めることで、改善・革新活動の参考になるものと考えている。
(永田 嘉和/企画担当編集委員)