IEレビュー300号 特集テーマのねらい

 300号記念:IEの普及と発展に向けて

1 特集テーマのねらい

「IE レビュー」誌は、1960年に第1号(当時は「IEreview」)が発行され、2017年5月号で300号の節目を迎えます。IE領域における日本で唯一の専門誌として、各号で特集テーマを定め、各企業のケース・スタディや論壇、会社探訪記などの記事により特集テーマを深耕し、IEの手法や考え方の普及・発展に寄与してきました。産学のメンバーが連携して1つの専門誌を継続して発行してきたことで、日本の製造業の発展に多大な貢献を果たしてきたと考えています。歴代の編集委員と事務局の不断の努力なしに、これだけの長期に渡る発行を支えていくことは不可能です。この場を借りて、多くの情熱を本誌に注いでいただいた先輩の方々に御礼を申し上げます。
300号を1つの記念ととらえれば、これまでの歩みを振り返る特集にすべきという考え方もあります。しかし、企業を取り巻く環境は、グローバル化、IT化、技術の高度化、人材の多様化など、急速に変化しています。IEの対象領域も、製造業だけでなく、サービス産業や1次産業に広がりつつあります。そうした中で、過去にこだわるのではなく、未来に向けてIEの普及と発展を考える特集にしたいと考えました。これまでの歴史や伝統が、IEの明るい将来を保証するものではないからです。IEの手法や考え方をサービス産業や農業に応用する事例は増えているものの、中核となるIEの基本となる考え方は少しずつ曖昧になってきているのではないでしょうか。そのような問題意識が、今回の特集号のベースとなっています。
IEとは、日本IE協会のホームページでは「価値とムダを顕在化させ、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出そうとする見方・考え方であり、それを実現する技術」と定義されています。ムダを省き、付加価値を高めるとなれば、経営に直接貢献する技術であるはずです。しかし、例えばサプライチェーンにおいて、購買・調達といった前工程のプロセス、流通・営業・販売といった後工程のプロセスは、しばしば生産とは異なる部門が担当し、部門間の壁がサプライプロセス改善の見えない障壁となってしまいます。量産工程の手前の設計や生産準備の段階で問題点を抽出する技術は近年大きく進歩していますが、そこではIEよりも固有技術が中心的な役割を担っています。ITが急速に進歩する中で、IEとITの融合が叫ばれて久しいのですが、IEの考え方はデータ収集や解析の段階で真に有効に活用されているのでしょうか。人材が多様化していく中で、IEスタッフの育成は充分と言えるでしょうか。このように考えていくと、IEをもっと有効に活用する余地が数多く残されているように思えてならないのです。また、生産活動が海外に展開されれば、そこでのQCDの改善にはIEの手法が大きく貢献し、現地の人材育成にもIEは役立つはずですが、そうした改善活動の大切さが本社の経営陣に深く認識されているかと問われると、極めて心許ないのです。
今回の300号では、こうした問題意識に立って、IEをさらに普及・発展させていくために、どのような視点が必要か、どのような活動を強化すべきかを中心に、将来のIEに向けた提言を産学のリーダーの方々に思う存分執筆していただくことをねらいとしています。300号は記念誌ですが、過去の歩みを振り返るのではなく、未来志向の1冊にしたいと考えて企画しました。

2 記事構成

上に述べた視点から、本号は「論考」として7つの記事と、編集委員による座談会で構成されています。
(1)論考
①日立製作所の浜岡昭夫氏と高井和雄氏には、「IE活動のグローバル展開」と題して、日立グループでのIE人材育成を中心に執筆いただきました。約200もの海外生産拠点の課題収集、改革支援、実務支援などを担うべく、同社の「モノづくり戦略本部」では、IE教育、ものづくり力評価、現場改善実践会、小集団活動成果発表会などを推進しています。国内で実際の生産現場を使った実践教育を行い、同時に海外でも中国・タイを中心に座学に加えて改善実践会を進め、中国では毎年小集団活動成果発表会を開催するなど、座学と実践を融合させた教育プログラムをグローバルに展開しています。「どんなに情報化、自動化、ロボット化が進展したとしても、モノづくりを続けていく限り、根底にあるものはIEの思想であると筆者たちは考えている」という一文は、IE活動の今後にとって基本となる視点ではないでしょうか。
②富士ゼロックスの藤原仁氏には、「これからのIEへの期待」と題し、同社でのIEの導入と歩みをベースに、IE活動で何が変わったかを説明いただきました。標準3票の整備や良品条件の追求、設備の自前化を通じて、品質、生産性、在庫の改善だけでなく、経営改革と呼べる成果が生まれています。「IEなどの管理技術は基本的な要素が強いが、基礎工学としての問題解決能力が、必ず商品開発に役立つ。人の改善と改革能力は無限である」という一文は、今後のIEに自信を与えてくれます。
③日本電気の岡野美樹氏と小梁川秀樹氏には、「IoTを活用したIE高度化の取り組み」と題し、同社の生産革新の歩みを振り返った上で、IoTがもたらす「デジタル化」に対応する活動の方針と内容を解説していただきました。
本稿で解説いただいているIoTシステムは、実際に同社の工場に導入されて成果を生み出し、基幹システムの標準化が推進されています。「IoT・AIはデータのデジタル化が容易になるがゆえに、目的を持たずに活用しようとすると、手段が目的化する危うさをはらんでいる。IEの手法がここで重要となる」という文末の一文は、IoT時代におけるIEの大切さを示唆するコメントと感じます。
④成蹊大学の篠田心治氏とマックスの宮原英一氏には、「現場で進める生産準備活動の提案」と題し、生産準備段階でのIEの活用について、事例を交えて解説していただきました。製品・材料、工法、設備・道具、作業方法、レイアウトとレベルに分けて仕事をデザインする考え方は、変種変量時代にラインや設備を設計する際に基本となるものです。「仕事の改善案のレベルを自由に使いこなし、仕事をデザインすることは、IEの重要な技術になる。また、現状の仕事からコンセプトを作り出すことも、IEの重要な役割である。改善だけに留まらず、「仕事のデザイン」が、これからのIEの技術となることを願っている」というまとめの文章は、これからのIEの発展の方向を的確に示していると感じます。
⑤NECエナジーデバイスの澤村治道氏には、「IE、改善との出会いと知の交流の場」と題し、同氏のIEとの関わりを紹介いただいた上で、日本IE協会が強化すべき活動について述べていただきました。日本経営工学会や技術士会との3団体連携事業について「単に一緒に活動するというだけではなく、双方の有する知見を交流させて新たな知を生み出す、そういう産学連携が求められている」という指摘は、IE活動の発展のために忘れてはならない視点と感じます。
⑥上智大学の伊呂原隆氏と鹿島建設の赤木宏匡氏には、「産学連携の強化に向けた提言と期待」と題し、米国の大学および米国IE協会が実施している産学連携の取り組み、日本の産学連携の状況と意義を紹介いただいた上で、産学の連携強化に向けた施策を提案していただきました。ここで示されている産学の人材交流は、「産学連携を起点とし、共同研究の増加、社会的認知度の向上、志望する学生の増加、さらなるIEの活性化という好循環を生む」ためにも大切です。
⑦青山学院大学の松本俊之氏には、「改善マネジメントと人財教育でめざせ改善の理想郷」と題し、「理想的な改善現場」を実現するために、「現実と理想」「帰納と演繹」「ミクロとマクロ」など、「二極思考的アプローチ」の大切さを解説していただきました。「IEとは人を含むシステムの仕事の生産性を向上させる改善活動および問題解決活動のことであり、人が改善力を身につけて育つことだと考えている」という一文は、IEが単なる技法ではなく、企業活動や人財育成と密接に関係していることを表しています。
(2)座談会
「IEレビュー」誌の編集委員6名が集まり、IEの普及と発展に向けて視点と課題を話し合いました。IE活動の意義や面白さを分かりやすく伝える努力が不充分であること、IT化への対応だけでなく、「IT化時代のIE」というテーマを研究することが必要という指摘は、今後のIE活動で忘れてはならない視点だと感じます。
本特集号が、「変化への対応」と「流行に惑わされない視点」という2つの視座から、今後のIEのあるべき姿を考える参考になれば、と期待しています。
(編集委員長/河野 宏和・慶應義塾大学)