IEレビュー302号 特集テーマのねらい

 自動化とIE

1 特集テーマのねらい

固有技術やITの進歩にともなって、自動化は生産活動や事務作業の生産性を向上させるために必要不可欠となっている。しかし、一口に自動化といっても、大規模プラントの自動制御、加工・組立工程での省人自動化、高度なデータ処理を得意とする判断作業の自動化など、その範囲は極めて広範である。いずれも数年前までは、技術的な課題とコストの問題から、多少の夢を含めて語られていた技術の多くが、生産工程だけでなく、我々の日常生活にまで応用される時代となってきている。
近年では、「工場から作業者がいなくなる」といったタイトルで無人化工場の姿が取り上げられている。クリーンルームでの加工など、ほぼ無人の生産工場も多数存在するし、人間とロボットが協業して作業する工程も現実のものとなっている。確かに、重筋作業、塗装や低温保管庫といった人間が作業しにくい環境下では、ロボットを活用した自動化は大きな助けとなる。しかし、その一方で、先端技術を用いた高度な自動化は決して安価ではない。安易な自動化は、故障停止による損失だけでなく、償却費負担となって経営を圧迫する。同時に、顧客ニーズが多様化し製品のライフサイクルが短期化する中で、大量生産により固定費の回収を図ろうとする経営は難しい。また、高度な技能を必要とする加工や検査の工程も数多く存在し、そうした技能を伝承することも大切である。したがって、これからの時代の競争に勝ち残っていくためには、単に技術の先端を追求するだけでなく、人間と共存できる自動化のあり方を慎重に考える必要があるだろう。
例えば、対象となる材料のバラつきがあると、位置決めやコントロールが複雑になり、加工や組立の工程を自動化するコストは大きくなる。一方で、定置・定量・定姿勢でモノが流れる工程では、ハンドリングが容易となり、自動化のコストが低減される。したがって加工点に着目し、そこでの良品条件を追求すれば、設備がコンパクトになるだけでなく、バリ取りや手直しといった後処理の負荷が軽減される。自動化する前に人間が行っている作業を適切に分析して改善することで、その作業を代替するロボットの動きを簡素にすることが可能になる。さらには、自動化後の稼働状況を見える化し、基本ユニットを標準化・モジュール化しておけば、量産後の設備停止を減らし、メンテナンスを容易にすることができる。このように、IEの見方や考え方は、自動化を進めていく中で、コスト、品質、メンテナンスなど様々な面でメリットを生み出すことになる。
加えて、生産工程の自動化が進むと、当然にそこで働く作業者は少なくなる。作業エリア内に仲間になる作業者が配置されず、一日中会話のない現場も増えている。ITスキルですべてをカバーすることができないとしたら、そうした環境での作業者間のコミュニケーション、モチベーションの維持や安全管理など、自動化と人間の共存をいかに図っていくかが大きな課題である。そこではIEだけでなく、人間工学や心理学も含めた幅広い知見の応用が必要になる。
本特集号では、こうした問題意識に立って、IEを活用して自動化を適切に進めた事例や、自動化と作業者の共存に配慮した事例などを通じて、自動化を進める際にIEの見方や考え方をいかに活用していくべきかを考え、IE自体をさらに普及・発展させていくための課題を探り、技術が高度化する中でIEが果たすべき役割を改めて考えることをねらいとしている。

2 記事構成

(1)論壇
論壇は、石川改善技術研究所の石川雅道氏に「自動化とIEの実践的考察~若き生産技術者にIEのススメ~」と題して執筆していただいた。大量生産・大量販売と規模の覇権を追うだけがものづくりではない。「ものづくりは衰退している」という論評に動じることなく、次の発展に必要な自動化とIEの役割を考察してみよう、と始まる論壇は、自動化の技術を追い求める前提として、IEの基礎的な教育の重要性、現場重視の姿勢、先達の技術に学ぶ視点などの大切さを指摘する。また、生産技術の高度化にともなうセル生産の進展、情報技術の発展にともなう新たな見える化、自動化が進む中での人の働きがいの意味などを、豊富な経験と実例を交えながら、分かりやすく論じている。後半に述べられている「規模を追わない安価・小型の自動化」という考え方は、これからの時代に必須となるIE の見方・考え方を的確に示している。自動化が進む中でIEの原点を考えさせてくれる論壇である。
(2)ケース・スタディ
①フジワラテクノアートの狩山昌弘氏には、「伝統的醸造における自動化の取り組み~フジワラテクノアートの自動化への歩みと今後の展開~」と題して執筆いただいた。同社は、日本酒、味噌、醤油、焼酎などの生産プロセスに欠かせない醸造設備のトップメーカーである。発酵プロセスでは、一般に杜氏などの職人による作業が品質を左右するが、昼夜を問わない過酷な作業により、後継人材の育成が課題となっている。同社は、こうした発酵プロセスの自動化を支援する設備を主力としており、特に、米麹を生産する自動製麹装置で日本をリードしている。本ケースでは、同社の自動製麹装置の変遷を振り返った上で、主に設備の設計・生産面での課題と、解決プロセスが紹介されている。自動機の開発に当たって、大手メーカーの現場に泊まり込み、聞き取り調査を入念に行ったという一文は、自動化におけるIE的視点の大切さを端的に反映している。職人の持つ技能をいかに設備化していくという点で、他の設備メーカーにとっても参考となる文献である。
②三和酒類の戸田成美氏、栗林紫音氏には、「ダイエットプロジェクト2~お客様と私たちの“うれしい・楽しい・大好き”に向けて!~」と題した論文を、「プラントエンジニア」誌2017年9月号(日本プラントエンジニアリング協会発行)から転載していただいた。パックラインと呼ばれる充填・検査・梱包ラインの改善活動の歩みが紹介されている。生産性、検査項目、作業手順、安全性を見直した後、外観検査の精度向上に向けて地道に改善に取り組み、大きな成果を生み出したプロセスが分かりやすく説明されている。現場現物をしっかり見直し、改善アイデアを地道に技術化していくプロセスの大切さを伝えてくれる文献である。
③日産自動車の青木ひかる氏には、「女性目線の革新的改善の実現」と題した論文を、同じく「プラントエンジニア」誌2017年8月号から転載していただいた。本ケースでは、エンジン生産ラインにおいて、女性作業者の視点をベースに、ストライクポイントでの部品供給と組立作業をめざした改善が紹介されている。人協調型ロボットを参考にした供給装置の設計に取り組み、装置の仕様決めから設置・稼働までを現場主導で進めたことで、誰でもが作業しやすくQCDを守れる自動化を実現した歩みが、図表を用いて説明されている。自動化を進める時、地道にステップを踏んで改善していく活動の大切さに気づかせてくれる文献である。
(3)座談会
「自動化とIE」と題して、企画担当の編集委員3名と日本IE協会の事務局4名の計7名で、IEがこれからの自動化にいかに貢献すべきかを議論した。製造業だけでなく、サービス業の自動化支援を経験したメンバーが座談会に加わることで、自動化はQCDの安定・高度化や人の負荷軽減に大きく貢献するが、同時に自動化設備を設計する技術、設備メンテナンス技能など、人間がやるべき仕事は残り、その高度化が企業の力を左右していくことが確認された。 
また、厳密に言えば、ロボット化と自動化は異なる概念で、ロボットだけで構成されるラインにするか、人とロボットが共存できるラインをめざすかの区分があり、そこには生産量や製品ライフサイクルといった経営的な要素も密接に関係している。
したがって、人間の働きがいも含め、自動化の目的をまず整理することが出発点で、その技術のみに流されがちな考え方の危うさが指摘された。

3 おわりに

技術の高度化は、ソフト・ハードの両面で急速に進んでいる。その先端を把握していることは、QCDを向上させていくためにも不可欠である。しか同時に、技術の高度化に追随することが目的化してしまってはならない。人材育成、技能伝承、品質向上、安全性、原価低減といった多様な視点で、これからの自動化のあるべき姿を考えていくことが大切である。その中で、IErが今一度自分たちの役割を見つめ直すために、本号が少しでも貢献できれば幸いである。
(編集委員長/河野 宏和)